「ホンダがV8エンジンを発売した」・・・・・・ホンダファン、エンジン好きには、見逃せないニュースである。ただし、これはクルマではない、船外機の話だ。それでもホンダ初のV8エンジンや新開発&専用開発に気分が高揚してしまう。それにしてもこのフラッグシップエンジンはどのようにして生まれたのだろうか。商品責任者に聞いてみた。(文:千葉知充/写真:井上雅行、Motor Magazine 2024年4月号より)

BF350がスムーズに開発できたのは、ホンダの四輪の技術のおかげ

画像: 商品責任者の伊藤慶太氏(本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 マリン事業部 商品責任者 エグゼクティブチーフエンジニア)

商品責任者の伊藤慶太氏(本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 マリン事業部 商品責任者 エグゼクティブチーフエンジニア) 

商品責任者にも話を聞いた。

── まずはどうしてV8エンジンを開発したのか、教えてください。

伊藤氏 「船外機の世界は大型化が進んでいます。アメリカの中でも、フロリダのような市場では300馬力を超えるクラスの船外機が当たり前で、一般販売の伸びが高いのもこの300馬力を超えるクラスです。

ホンダは、2011年に出した250馬力の船外機BF250はありますが、それより大きい船外機はありませんでした。しかし、他社に対抗するためには、300馬力以上の船外機が必要だったのです。
300馬力以上の船外機ではホンダは最後発なのですが、最後発ならではの洗練された商品を目指してBF350を開発しました。この構想は以前から持っていて研究開発を進めていましたが、実は最初から350馬力にすると考えていました。最後発なのでホンダらしいエンジンで最高のものを作ろうと決めていましたが、結果的には正解でした。」

── ホンダはクルマにもV8エンジンはありません。ホンダが持っていない技術ではないのですか。

伊藤氏 「いえ、ホンダの技術力や経験値を使っています。特に難しいクランクシャフトやシリンダーブロックなどを中心に四輪の知見を活用し、最初の段階から生産に入るまで、四輪出身のエンジニアと一緒に作り上げました。

たとえば船外機は横幅に制限があります。複数掛けしたときに横が当たってしまうので、一定のピッチが必要となり、幅を広げると不利になるのです。V8エンジンでは90度のVバンクが一般的ですが、船外機では横幅が広すぎる。そこで、BF350のV6エンジンで採用の60度V角を踏襲したV8エン ジンに決定しました。

60度Vの成立には、クランクシャフト起振動の低減と軸受強度の両立が課題なのですが、オフセット したクランクピン構造の採用で高次元で両立し、全体最適につながりました。つまり、BF350がスムーズに開発できたのは、ホンダの四輪の技術のおかげなのです」

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