2010年、市販開始に向けたスマート電気自動車の実証テストが世界各国で始まっていた。日本では2012年の導入に向けて10月12日からスタートしたが、Motor Magazine誌はその実証テストに参加している。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年1月号より)

ガソリン車の軽い乗り味とは異なる、しっとりとした走行感覚

今回試乗できたのは、左ハンドル仕様のモデル。テスラモーターズ社が開発したエネルギー容量16.5kWhのリチウムイオンバッテリーと、最高出力30kW/最大トルク120Nmのモーターを搭載し、航続距離はNEDC(New European Driving Cycle)値で135kmと発表されている。

シフトレバー後方にあるスロットにキーを差し込み、右に回してイグニッション&ドライブポジションにする。ダッシュボード中央上部に2個並ぶ小メーター、その左側の「チャージレベルゲージ」の針がバッテリー容量を示すまで少し待ってから、PRNDの4ポジション式シフトレバーをDに入れ、パーキングブレーキを解除。クリープ制御は入っていないので、平坦な場所ならクルマは止まったままである。

まずは、ほんの少しだけアクセルペダルを踏んでみるが、これだと反応がない。もう少しだけ力を込めると、グッと動き出した。次に、アクセルペダルから右足を離してみる。モーター回生による制動効果が効いている感じで、減速感は強い。そして、もう少し加速した後に、ブレーキペダルを踏んでみると、下ヒンジ式のペダル独特の操作感にちょっととまどうが、グッと止まる。ただし、踏み加減をうまく調節しないと「カックン」と効く感じになる。

アクセルペダルを踏みこんでいくとなかなかに力強い。しかも(当たり前だが)エンジン音がしないので実に静かだ。ギアボックスを備えず、モーターがダイレクトに後輪を駆動する方式なので“ヒューン”というモーター音もさほど高まらない。

停止状態から40km/hぐらいまでの加速力は十分以上のもの。アクセルペダルを深く踏み込んでいなくても、周囲の車両と同等もしくはそれを上回るダッシュ力を味わわせてくれる。ただし、そこよりも上の速度域に入っていくと、加速力は弱くなっていく設定だ。

驚かされたのが、そのしっとりとした走行感覚。試乗車の自動車検査証に記された車重は970kgと、ガソリンエンジン仕様のフォーツー クーペmhdの830kgより140kg重い。サスペンション設定の違いだけでなく、バッテリー搭載による低重心化の効果と相まり、従来のスマート フォーツーの軽い乗り味とは異なっている。

だがボディはあくまでもしっかりとしていて、タイヤからボディへ伝えられる入力も、うまくいなされている印象。電動式パワーステアリングの感触も、軽いけれどもその操舵感がきれいに伝わってくるものだった。

画像: メーター表示などが電気自動車専用のものとなるが、他の室内部分は、通常のフォーツーとさほど変わらない。

メーター表示などが電気自動車専用のものとなるが、他の室内部分は、通常のフォーツーとさほど変わらない。

市街地から高速道路までフォーツーとは思えない重厚さ

さて、実走行での航続距離は100kmぐらいだと考えた。とりあえず、昼間に都内で片道7kmほどの距離を行って帰ってきてみるが、その走りっぷりは快適。ライトもエアコンも使用しない状況だったこともあり、バッテリー容量は5%ぐらいの減少であった。

次に高速道路を主体とした片道40kmほどの道のりを、夜間に走ってみた。なお最高速度は100km/hでリミッターが効く設定である。この日は快晴で最高気温が22度ほど、夜になっても18℃くらいの心地良さで、エアコンもヒーターも使用する必要はなかった。

一般道から料金所に入り、料金を支払って高速道路に合流する。ここはフルアクセル。難なく合流に成功して、あとは走行車線の流れに乗って80km/h近辺でクルーズする。その走りっぷりには安定感があり、直進性も良い。ただし、アクセルペダルをオフにしたときには回生制御が入るので、一定速度を保とうとすると、下り坂でもアクセルペダルを軽く踏んでいる必要があった。こんな時には、回生制御を解除するスイッチが欲しくなる。

順調に走って目的地に到着。バッテリー残量は75%ぐらいで、充電しようとして自分の浅はかさに気がついた。

家庭用の100Vコンセントに専用の充電ケーブルを差し込めばいいと思っていたのだが、差込プラグはアース極付きの三端子型。対してコンセントは一般的な二極型。変換アダプターを使用すればいいかとも思ったのだが、車両側で充電電源のアースが取れているかどうかを判断していて、取れていない場合は充電が中止されるとのことで、充電することはあきらめた。

ただ、往路でバッテリー容量の減少具合がわかっていたので、復路では走行速度を少し上げてみた。加速にやや時間はかかるものの、メーター読みの100km/hで問題なく走行できることを確認して(ただしバッテリー容量の減少度合は相当に早くなる)、エアコンも使用してみたりしながら、再び40kmほどの距離を走行。到着時のバッテリー容量は約50%で、今度は事前に調べておいた充電用のAC200Vコンセントを備えたコインパーキングに駐車して充電開始。約5時間後に確認すると、すでにフル充電済みだった。

スマート電気自動車で3日間、約170kmほどを走行したが、充電設備の設置場所と充電時間を取れるプランで乗るのなら、実にしっかりとした使い勝手を備えていることが体感できた。ただし先月に少しだけ運転できたSLS AMGよりも、その新しい価値観ゆえに、ドキドキして緊張感を覚えつつドライブしたのも事実である。(文:Motor Magazine編集部 香高和仁/写真:永元秀和)

画像: 加速力は十分以上で、ボディはしっかりとしていて、乗り味はしっとりとしていた。

加速力は十分以上で、ボディはしっかりとしていて、乗り味はしっとりとしていた。

スマート フォーツー エレクトリックドライブ プロトタイプ 主要諸元

●全長×全幅×全高:2695×1559×1542mm 
●ホイールベース:1867mm 
●車両重量:970kg  
●パワーユニット:モーター
●モーター最高出力:30kW(41ps)
●モーター最大トルク:120Nm
●バッテリー:リチウムイオン(テスラ製)
●駆動方式:RWD
●タイヤサイズ:F:155/60R15、R:175/55R15
※EU準拠

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