大柄ボディながら、スポーツカー並みの加速力を発揮
アウディは現行のバッテリーEV(BEV)のラインナップに、本流の2モーター仕様とは異なる前1モーター+後2モーターのレイアウトを採用したモデルを設定しています。最高出力、最大トルクともに引き上げられているだけでなく、デザインも専用。アウディにとっては伝統的なハイスペック仕様のアイコンである、Sのバッヂがつけられました。
MotorMagazine2024年8月号の第一特集「四駆王」の中で、インプレッションが紹介されている「アウディSQ8 スポーツバックeトロン」もまた、そんな新世代Sのお作法に従っています。
日本国内には流麗なクーペフォルムを持つスポーツバックだけが導入されていますが、海外ではSUVらしいボクシーなスタイルでまとめられた「SQ8 eトロン」も設定。それぞれにスタンダードラインとは異なる内外装で差別化を図ります。サイズ的にはフェンダー部の処理違いによって全幅で約40mm広く、わずかに車高が低いようです。
システム総合でのスペックは、スタンダードモデル(Q8 スポーツバック eトロン 55クワトロSライン)が最高出力300kW(408ps)、最大トルク664Nmなのに対して、SQ8は370kW(503ps)/973Nmと、圧倒的な力強さを発揮。
0→100km/h加速はわずか4.5秒(Electrical acceleration boost時/スタンダードは5.6秒)。航続距離はSUVで最大494km、スポーツバックで最大513kmを確保しています。
クワトロ譲りの最適トラクション制御の技が光る
リアアクスル上には、最高出力94kWを発生する電気モーターが左右に配置され、それぞれが左右輪にトルクを配分します。モーターによる駆動力配分はほとんどラグを感じさせることなく瞬時に行われ、ドライバーの操作に忠実に反応し、俊敏な動きを明確な一体感とともに生み出してくれます。
その作動時間はミリ秒単位。ラテラルダイナミクスを改善するために、非常に高いトルクを無駄なく配分します。コーナー出口ではコーナー外側の後輪により多くのトルクを割り当てる方向で制御、コーナー内側の後輪にはより少ないトルクを割り当てるようです。
その制御は、非常にスマートなものです。さまざまなセンサーが運転状況や路面状況を監視し、ドライバーの意思を忠実に反映しながら2つの後輪に最適な駆動力を配分し、車両の挙動を調えます。路面状況やグリップの状態など、ドライバーに対するフィードバックも的確です。
路面の一部でミューが低い場合など基本的には、スリップを検知した側へのトルク配分を抑える方向で働くことから、たとえスポーティに愛車を操ろうとした時でも、ごくごく自然な反応は常に安定性と安心感を伴い、ドライバーに無駄なストレスや不安感を与えることはありません。その制御ロジックは一方で、日常的なドライブにおける優れた乗り心地にも貢献してくれます。
そもそもアウディと言えば、「クワトロ」というアイコンのもと、スポーティかつプレミアムな4輪駆動車のパイオニア的存在です。メカニカルなトラクション最適制御で磨かれた技術は、電動化の時代にあってもひと味違う匠の技を見せてくれるように思えます。
TDIと前2モーターを組み合わせたPHEVって、ありじゃない?
ちなみにアウディの2モーターによる左右輪の独立制御という機構の原点は、2009年に発表されたR8ベースのコンセプトモデル「eトロン」に始まっています。ただし「初代」は前後に2モーターを配した4WD(まさにクワトロ)でした。
これが「二代目」と言える翌年のデトロイトモーターショー出品モデルでは、リアアクスルだけに2モーターを配置したRWDへと進化しています。さらにユニークだったのが、同年の秋、パリサロンで発表されたプラグインハイブリッド・オープンスポーツカー「アウディeトロン スパイダー」でした。
こちらはなんとリアアクスルに、300psを発生するV6ツインツインターボTDIを搭載。一方でフロントアクスルに、64kW(88ps)を発生する電気モーター2基を組み合わせていました。
モーターによる繊細かつシームレスな電動トルクベクタリングは、前後50:50の理想的重量配分や短いホイールベース、軽量なボディと相まって「ゴーカートのようなドライバビリティ」を実現していたと言います。
終始ニュートラルステアを保ちながら、文字どおりのオン・ザ・レールな走り・・・その理想的な塩梅について開発陣は「アンダーステアを回避しながら、操舵角に応じて発生する予測可能なヨー挙動と、わずかなオーバーステア設定との絶妙なバランス」と呼んでいます。
モーターの搭載位置こそ前と後ろで異なっていますが、eトロンの走りの血統は確かに、現代の市販ラインナップにも連綿として受け継がれているようです。