大きな注目を集める中、2009年に誕生したポルシェの4ドア4シーターサルーン「パナメーラ」に、2011年にはハイブリッドモデル「パナメーラS ハイブリッド」が登場した。2011年3月のジュネーブショーで世界初公開されたこのモデルは、カイエンに続くポルシェのハイブリッドモデル第二弾。その走行性能と燃費性能の両立にポルシェの本気が見えた。今回は2011年春に欧州で開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年7月号より)

大きなサルーンにして「夢の燃費」を実現させた最新モデル

全長およそ5mで全幅は1.9mオーバー。重量約2トンのボディを、380psのパワーで最高270km/hまで引っ張る。そんなスペックのサルーンの燃費とは、いかばかりのものか? 10年前であれば、その解答として大方の人は「市街地ではせいぜい5〜6km/L、高速道路を流してもまぁ8km/Lも行けば御の字」と、そんなイメージで捉えていたのではないだろうか? しかし、時代は変わったのだ。

たとえ法規上では許されるとしても、今やそうした「高燃料消費」なモデルを大量販売するのは、世の中がそれを受け入れ難い雰囲気だ。カタログ上にそれを並べても、そんな内容では優れた販売成績などは望むべくもないというのが現実だろう。

では、冒頭のようなモデルが「その倍」の燃費をマークするとなったらどうか? 「大きなサルーンなど無駄の象徴」と、そんなネガティブなイメージを抱いていた人も、きっと少しは見方が変わるはずだ。そして、ジュネーブモーターショーで披露されたパナメーラのハイブリッドバージョンこそ、そのような「夢の燃費」を実現させた最新モデルだ。

搭載されるハイブリッドシステムは、基本的にはカイエンSハイブリッドに採用されたものと同様のユニット。アウディから供給されたルーツ式スーパーチャージャー付きの3L V型6気筒直噴ユニットと8速トルコンATとの間に、最高165km/hまでの速度で走行中のエンジン停止を可能とするデカップリングクラッチを介して電気モーターを配置。エンジンの最高出力333psとモーターの最高出力34kWを同時に発揮させて、システム出力380psと発表されている。

サンヨー製の容量1.7kWhhのニッケル水素バッテリーは、ラゲッジスペース下に搭載。荷室容量は冷却用ダクトの配置の関係からわずかながら削られたが、リアシートバックを前倒しすれば335Lから最大1153Lまでグンと拡大可能という特徴はそのままキープしている。

画像: モデル名に"S"が与えられていることからわかるように、ハイブリッドモデルは、V8モデルであるパナメーラSの上位に位置づけられる。

モデル名に"S"が与えられていることからわかるように、ハイブリッドモデルは、V8モデルであるパナメーラSの上位に位置づけられる。

ポルシェのサルーンとしてふさわしい仕上がりレベル

実際に試乗してみると、モーターが担当するスタートの瞬間から、その後ごく滑らかに始動したエンジンへとバトンタッチされるシーンなどを含め、パワーフィールは確実にカイエンよりも軽快さを増した。その主要因として考えられるのはもちろん、両者での重量差だ。

EU準拠値による車両重量は、カイエンの2315kgに対してこちらは2055kg。ボディの違いに加え、2輪駆動とされたことで260kgも「軽量化」が図られたパナメーラは当然、よりダイナミックな加速感を味わわせてくれる。

シビアにチェックすれば、モーターとエンジンを切り替えつつ走行する際のショックは、すべてのシーンで完璧にゼロというわけではない。だが基本的にはタコメーターの針の動きを目視していない限り、その頻繁で複雑な動作にはまず気付かないし、アクセルペダル操作に対するリニアさや静粛性、そして絶対的な加速の能力についても「ポルシェのサルーン」に相応しい仕上がりレベルを満足させている。

今回、オーストリアとドイツの国境付近の山岳部を基点に開催された国際試乗会では270km強のさまざまなシーンの中をテストドライブしたが、最終的にオンボードコンピューター上での平均燃費表示は10.7km/Lと出た。全般に交通量は少なく、信号待ちも数えるほどしかないという恵まれた環境ではあったものの、それでもアップダウンが連続する中を「380psを誇るハイエンドサルーンが『2桁燃費』で走り続けた」というのは驚きだ。

ところで、その低燃費に寄与する秘密兵器が、パナメーラ全モデルに装着可能なオプションとして設定されたミシュラン製の19インチ低転がり抵抗タイヤである。実は今回、ほとんどの行程で雨に見舞われてしまったのだが、オプションタイヤを装着したテスト車はグリップ力やハンドリングの正確性などにまったく不満を抱かせなかったし、ロードノイズやパターンノイズのレベルも優秀。加えて、確かにコースティングのシーンでは「思いのほかに良く転がる」という感触が強く、走行抵抗が小さいことを実感させられた。

標準装備のエアサスペンションはコンフォートモードはもちろん、スポーツモードでも優れた快適性を確保する。その上で、ワインディングロードでは大柄なボディを意識させない、いかにも「ポルシェの一員」らしい自在なハンドリング感覚を実現し、高速クルージング中は比類なき安定感を味わわせてくれる。

CO2排出量の大幅削減がテーマとされた今、欧州各メーカーが推進する電動化戦略はもはや車格を問わずに本当の本気モード。パナメーラSハイブリッドは、その動きを具体的に表す急先鋒の一台としてスタートを切ったことになりそうだ。(文:河村康彦)

画像: 5連メーターの右から2番目に、エンジンとモーター、バッテリー間の作動状態が表示される。8速ATはパナメーラ初採用。シフトパドルも装備。

5連メーターの右から2番目に、エンジンとモーター、バッテリー間の作動状態が表示される。8速ATはパナメーラ初採用。シフトパドルも装備。

ポルシェ パナメーラS ハイブリッド 主要諸元

●全長×全幅×全高:4970×1931×1418mm
●ホイールベース:2920mm 
●車両重量:2055kg
●エンジン:V6DOHCスーパーチャージャー
●排気量:2995cc
●最高出力:245kW(333ps)/5500-6500rpm
●最大トルク:440Nm/3300-5250rpm
●モーター最高出力:34kW(47ps)/1150rpm
●モーター最大トルク:300Nm/1150rpm
●総最高出力:279kW(380ps)/5500rpm
●総最大トルク:580Nm/1000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR 
●最高速:270km/h
●0→100km/h加速:6.0秒
※欧州仕様 EU準拠

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