2011年3月のジュネーブオートサロンで、ジャガー量産車初の最高速度300km/hを掲げたハイパフォーマンス スポーツカー「XKR-S」が登場した。ポルトガルで開催された国際試乗会にはサーキットと一般道の2ステージが用意されていたが、「ジャガー史上最速、史上最もパワフルなビッグキャット」はここでどんな走りを見せたのか。今回にこの国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年9月号より)

最高出力550ps/最大トルク680Nmで最高速300km/hを達成

ポルトガルの南端に位置するアルガルヴェサーキットは、アップダウンに富み、ブラインドコーナーも多く、さながら「ミニ・ニュルブルクリンク」といった雰囲気。

パドックに整列したXKR-Sは、サイドインテークやカーボンファイバー製スプリッターを備える独自のフロントエンドデザインが与えられ、一見してスパルタンなイメージになっているが、そんな中にもジャガーのこだわりである「美しさ」が感じられる。機能美によるハイパォーマンスを誇示しながらも、ジャガーならではのノーブルな雰囲気が損なわれていないデザインの妙に驚かされる。

XKRに対して40ps/55Nmのパワーアップが図られたエンジンは、550ps/680Nmを発揮する。さらに、アミルボディの利点を活かして1753kgにまで軽量化された車体、強化されたサスペンション、改良された空力性能によって、最高速度300km/hが達成されている。

ピットロードを出て加速していくと、速さはあるが、パワースペックの数字からイメージするような獰猛さはまったくない。1周するごとにDSCのモードを変えていったが、サーキット走行を想定したトラックモードでは、カウンターステアを当てるくらいのテールスライドも許容し、自らのアクセルコントロールで限界域の走りを堪能できる。

DSCにはもちろんセーフティネットの役割もあるが、このモードでは専用のトラクション/スタビリティ/電子制御式アクティブディファレンシャルコントロールのプログラムによってトラクション性能が重視され、横滑り制御の介入もギリギリまで遅くされてドライバーの操作による自由度が高いセッティングとなっている。ハイパワーを存分に味わえる爽快感と守られている安心感のバランスポイントが相当高い。

画像: “パフォーマンス”アクティブエクゾーストが、レースシーンを彷彿とさせる刺激的なサウンドを奏でる。

“パフォーマンス”アクティブエクゾーストが、レースシーンを彷彿とさせる刺激的なサウンドを奏でる。

二面性を巧みに両立、快適さも驚くほど高い

サーキットを走らせていると、ついついテンションが上がり、ハンドリングやパワーフィールなどばかりに目がいきがちだが、翌日の一般道での試乗では、平常心でXKR-Sと向き合うことができた。

もっともそれは、環境のせいのみならず、リラックスさせてくれる雰囲気や性能を備えているからでもある。ブラックのエボニーペイントが施されたスイッチ類、グロスブラック仕上げのセンターコンソールトリム、そしてオプションのアルミニウムパネルなど、XKR-S独自の仕上げが施されたインテリアは、スポーティな演出と高級感を漂わせる。

サーキットでもサポート性能に不満を覚えなかったヘッドレスト一体型のパフォーマンスシートは微調整可能な電動式で、最適なドライビングポジションが取れた。背中から座面まで、フィット感はありながらも過剰なタイト感はなく、日常シーンでの快適性にも優れている。

一般道での試乗でもっとも印象的だったのは、その乗り心地の良さ。標準モデルと比べれば、ゴツゴツしたタイヤの当たりやロードノイズはやはり多少大きい。しかし、強化されたサスペンションと20インチタイヤを装着して、ハイパフォーマンスを発揮してみせながらもなお「ジャガーネス」がきちんとある、懐の深い乗り味に驚かされた。

センターコンソールのチェッカースイッチで、ドライビングモードを変えてみる。スイッチの節度感が薄いことや、長押ししないと反応しない点に不満はあるが、日常的に多用するスイッチではないので許容範囲内ではある。スポーツモードにしても、路面からの突き上げがまったくないことにまた感心させられた。

エンジン/トランスミッションの特性もまた、サーキットとは違った側面を見せた。前日はパワーと速さを見せつけたが、日常シーンでは、限りなく効率を追求したプログラムとなっていることがわかった。

たとえばDレンジ走行中でスピードが落ちると、100prpmを切りそうなタイミングで、ようやくシフトダウンする。ダイナミックモードを選んでいる時でさえ、勢い良くアクセルペダルを踏み込まないとキックダウンしない。

でも強大なトルクを備えていること、そしてドライバーが加速の意志を持ってペダルを深く踏み込めば瞬時にギアダウンして、またパドルで積極的にギアをシフトすることもできるので、まったく不満はない。現行のXKRは発進時の飛び出し感が気になるが、さらにパワーアップが図られながらもその点は改善されているようで、アクセル操作のナーバスさは要求されなかった。

静粛性の高さや快適性に包まれ、ロングドライブもまったく苦にならず、前日のサーキット走行時とはまったく異なるキャラクターを見せつけられた。この二面性を備えているがゆえに、日常から非日常までを存分に楽しませてくれるパートナーとなりうるモデルだといえる。(文:佐藤久実)

画像: マルチファンクションスイッチを備えた本革巻きステアリングホイールを採用。

マルチファンクションスイッチを備えた本革巻きステアリングホイールを採用。

ジャガー XKR-S 主要諸元

●全長×全幅×全高:4794×1892×1312mm 
●ホイールベース:2752mm 
●車両重量:1753kg
●エンジン:V8DOHCスーパーチャージャー
●排気量:5000cc
●最高出力:405kW(550ps)/6000- 6500rpm
●最大トルク:680Nm/2500-5500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:4.4秒
●最高速度: 300km/h(リミッター)
※EU準拠

This article is a sponsored article by
''.