モータースポーツの世界では、車の速さを決める要素は数多くあるが、その中でも空力(エアロダイナミクス)の役割は極めて大きい。ただし、この空力の使い方は、カテゴリーによってまったく異なり、それぞれのマシンがなぜあの形をしているのかには理由がある。今回はF1、GTカー、そしてWECの3カテゴリーの違いを比較してみたい。

ピーク性能ではなく長時間の安定性を重視

例えば2025年のGT500車両では、ホンダのシビック・タイプRベースのマシンがボンネットからフロントフェンダーへの空気の流れをスムーズにするため、ミラーの取り付け位置やドアの形状まで細かく調整されている。これは単に空気を滑らかに流すだけでなく、空気の通り道を変えてタイヤの乱流を減らすという狙いがあるのだ。

GT3車両の場合はさらに制約が厳しく、市販車の外観を大きく変えることはできない。そのため、空力は付け加えるものとなる。巨大なリアウイングや、取り外し可能なカナード、アンダーボディパネルなど、空気の流れを後付けで整える工夫が凝らされている。見た目の印象以上に、GTカーは空力でラップタイムが大きく変わる世界なのだ。

次に、WEC(世界耐久選手権)におけるハイパーカークラスのエアロを見ていこう。ここ数年でWECの主力となった「ハイパーカー」は、ル・マン24時間レースでの戦いを見据えて設計されている。注目すべきは、その空力がピーク性能ではなく長時間の安定性を重視している点だ。

F1は1時間半のスプリント、GTは300km~500kmが中心だが、WECでは24時間を走りきる耐久性が求められる。そのため、WECの空力は速さを求めつつも、「タイヤに優しい」「燃費効率が良い」という相反する要素を同時に満たす必要がある。

たとえば2025年型のトヨタGR010 HYBRIDは、車体全体がスムーズなカーブで構成され、できるだけ乱流を抑えたデザインとなっている。

画像: リアウイングもF1ほど大きくないが、車体後部の大型ディフューザーと連動して、滑らかな空気の流れを生み出している。

リアウイングもF1ほど大きくないが、車体後部の大型ディフューザーと連動して、滑らかな空気の流れを生み出している。

F1が「瞬間的なグリップ」を、GTが「制約内での最適化」を求めるのに対し、WECは「持続可能な空力性能」を追求している。ここに、三者三様のエアロ哲学が浮かび上がってくる。

デザインの違いは各カテゴリが求められる目的の違いなのだ。F1は速く走るためにすべての空力を突き詰め、GTは現実の車をベースに空力で戦うための武器を加え、WECは長時間にわたる安定した走行のため。マシンの形にはそれぞれに意味があるのだ。

マシンのフォルム、その一つひとつの曲線には、無数のシミュレーションと技術者たちの試行錯誤が詰め込まれている。速さの裏にある空気を操る力。それがモータースポーツのもうひとつの見どころだと知れば、レースの楽しみ方はさらに深くなるはずだ。

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