マセラティの純粋さを示した新たなネーミング
スーパーカーと聞いて、マセラティが頭に浮かぶ人はどれほどいるだろうか。実際にはデ・トマソ時代にボーラやメラク、フェラーリ時代にMC12、ステランティス傘下ではMC20と、人々の記憶に残るモデルを輩出してきたが、それ以上にビトゥルボやギブリ、クアトロポルテといった彼らの屋台骨を支えてきた高級サルーンたちの存在感が強い。なにより、同じモデナ周辺に拠点を構えるスーパーカーブランド2強の存在は、マセラティの“スーパーカー”イメージを霞ませたに違いない。
その一方で、彼らは1914年にボローニャで自動車工房を開業してから、長い間モータースポーツ活動に尽力してきた。とくに50年代にはフェラーリの宿敵としてF1グランプリで大きな活躍を見せたことで、ブランドの存在感を世界に知らしめることになった。こうしたモータースポーツでの実績は、スーパーカーを取り扱うブランドにとって非常に重要な“パフォーマンス”の証明であり、マセラティにはその資質があることを意味する。
前置きが長くなったが、ここで紹介するMCプーラは、こうしたマセラティの純然たるパフォーマンスへの追求を現代で再び体現し直したモデルといえるだろう。それは車名からも想像できるもので、プーラ(PURA)はイタリア語で純粋を意味し、英語ではピュア(PURE)に相当する。

MCプーラのリアはエキゾーストパイプ周辺のデザインが変更されており、左右のエアダクトを囲むようなデザインになったことが大きな特徴となる。
察しのよい読者にとっては、このモデルが2020年にデビューしたMC20の後継モデルに当たることは容易に想像がつくはずだ。なにせ、デザイン上の変更は最小限なうえ、シャシやパワートレーンといった基本的な車両マネジメントにも変更がないのである。
ではなぜ、MCプーラと名を改め、再出発を試みたのだろうか。
MC20は登場当初、ガソリンモデルと完全電気自動車(BEV)のふたつのパワーユニットを用意する計画だった。後者には稲妻を意味する「フォルゴレ」という称号が与えられ、そのテストカーは幾度となくメディアで紹介されてきたが、2025年初頭に発売の中止が正式にアナウンスされた。
理由はスーパーカーに対するBEVの需要が十分でなかったと判断したためだという。数多くの自動車メーカーが急務で取り掛かった電動化戦略と実際のマーケット需要とのギャップに翻弄された結果、次々と2035年までのロードマップを修正する流れが起きている昨今にあって、マセラティもご多分に漏れず至極当然の判断を下したといえる。
話を戻そう。すなわちMCプーラの目指される立ち位置とは、MC20が目指した「新時代の幕開け」というブランド再建の思想を受け継ぎつつ、改めてマセラティが歴代モデルでアウトプットしてきたラグジュアリー性と高いパフォーマンスを無垢に体現したモデルというわけである。事実、MCプーラにはBEVの設定はなく、V6ツインターボエンジン「ネットゥーノ」のみの設定となる。しかもそれは動力源に電気の力を有していない“純エンジン”モデル。現代では逆に貴重な存在なのだ。