コンパクトカーに負けない低価格と低燃費
ミラ イースが売れている。その要因が低価格と低燃費にあるのは間違いないだろう。購入時の負担が小さいだけでなく、実際に使う時にもコストが抑えられるのはやはり魅力的だ。
思えば、このところ軽自動車の優位性のようなものが薄らいでいた感がある。マツダ デミオに代表されるような乗用コンパクトカーの低燃費化、ホンダ フィットをはじめとしたハイブリッドカーの低価格化が進む一方で、軽自動車はコンパクトカーに迫る快適性や魅力を実現すべく装備を充実させてきたため価格が上昇し、コストの制約もあって燃費の向上がなかなか進んでいなかった。相対的に軽自動車のアドバンテージが小さくなっていたことは否めない。
そんな中でのミラ イースの人気は、環境意識の高まりや経済の先行き不透明感が続く中、低燃費で低価格な、使いやすい軽自動車を多くの人々が求めていたということだろう。
しかし、「低燃費で低価格」というのは簡単なことではない。低燃費を実現するためには660ccという排気量枠は有利とは言えず、先進のハイブリッド技術や軽量化技術を投入するわけにもいかない。コストをかけずに低燃費を実現するためにどのようなことが行われたのだろうか。
それは燃焼効率を上げながらエネルギーロスを削減すべく、ひとつひとつを積み重ねていった結果だという。ポート噴射ながら圧縮比を11.3まで高めてエンジンの燃焼効率を上げたり、アイドリングストップで無駄な燃料消費を抑えたり、骨格部材の配置見直しや構成部品のシンプル化などにより軽量化したり、といった小さな積み重ねということだ。
では低価格はどのようにして実現されたのか。低燃費を実現するために、安全性などの基本性能がないがしろにされていたり、安っぽくなっているのではと心配になる。
これに対して、上田亨チーフエンジニアはこう語る。「高い目標に対し、仕事の進め方から変えました。企画から開発、生産、販売に至る全プロセスを一元化し、各分野がひとつになって、燃費向上、軽量化、低コスト化策をひとつひとつ検証し、改良を積み重ねてきました。全体最適の観点から主要品目を抽出し、材料、構造、作り方を見直し、部品点数の削減、原価低減を図っていったのです。バリエーションもできるだけシンプルにしました。こうして、品質、性能を維持しながら、低価格を実現したのです」と。

軽量化が効いているのか、走りは軽快で不満なし。回せばそれなりに騒々しいが不快ではない。今後の軽自動車のベンチマークとなる実力を持つ。
印象はいたって普通だが仕上がりは良好
さて、今回試乗したのは、最量販モデルとなるであろう、FFの「X」グレード。車両価格は99万5000円だ。第一印象はいたって、普通。よく言えば、シンプルでクリーン。素っ気ないと感じる人もいるかもしれないが、安っぽさは感じない。背の高いデザインではないが室内は広く、スマートなパッケージだ。
走りも不満なし。エンジンとCVTの協調制御を見直し、エンジンの回転数が上がってからトルク感が出てくるというロスが抑えられドライブフィールも向上、ストレスなく走ることができる。
アクセルペダルを踏み込めば、エンジン音や走行音、ロードノイズがそれなりに室内に侵入するが、それほど耳障りではない。またアイドリングストップは、ブレーキをかけて減速していくと停止直前、車速が7km/h以下になると早めにエンジンを停止してアイドリングストップ時間を増加させる最新のもの。クルマが完全に停止する前にエンジンが止まるので、突然、静かになるという違和感がなく、その点でも軽自動車には効果的だ。
ミラ イースは全体としてよくできている。軽自動車の枠の中で、サイズ、価格、動力性能、燃費を高い次元で実現している。強烈な個性や飛び道具はないが、これこそ軽自動車本来の姿なのかもしれない。軽自動車はこのミラ イースの人気によって原点を思い出すことだろう。そして、その原点から再び新たな魅力が生まれてくるのだと思う。(文:Motor Magazine編集部 松本雅弘)

シンプルでクリーンなインテリア。凝った部分はないが、安っぽさを感じさせない。
ダイハツミラ イース X主要諸元
●全長×全幅×全高:3395×1475×1500mm
●ホイールベース:2455mm
●車両重量:730kg
●エンジン:直3DOHC
●排気量:658cc
●最高出力:38kW(52ps)/6800rpm
●最大トルク:60Nm(6.1kgm)/5200rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●車両価格(税込):99万5000円(2011年当時)

