2011年11月に発表された「タイプ991」と呼ばれるポルシェ911が、東京モーターショーで日本初公開を経て、2012年春にいよいよ日本上陸を果たしている。フルモデルチェンのたびにライバルを引き離す魅力を備えて登場する911にはいつも驚かされるが、この「タイプ991」の場合はどうだったのか。ここでは日本上陸間もなく編集部が独自に行った試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2012年5月号より)

試乗車は内外装のドレスアップだけに留まらない超々豪華版

まさに「カリフォルニア晴れ」という表現が相応しい抜けるような青空の下、「何もかもが確かに新しい」という感動の走りをアメリカで味わってから早や4カ月。991型の911がついに日本上陸と相成った。

今回のモデルは、オプションカラーである「アゲートグレーメタリック」で渋く彩られたボディに、18ウェイの電動調整機構を備えた「アダプティブスポーツシートプラス」を含むレザーインテリアが奢られた、いかにも大人の雰囲気が漂うカレラSのPDK仕様車。すでにこの段階でオプション金額が140万円を突破しているが、実はこのモデルに採用されるオプションアイテムは、内外装のドレスアップだけに留まってはいなかった。

走りに直接関係を及ぼすアイテムだけをリストアップしても、アクセル線形やシフトプログラム/スタビリティコントロールの介入タイミングなどを変更可能にするとともに磁性流体採用のダイナミックエンジンマウントが今回初めて組み込まれた「スポーツクロノパッケージ」、アクティブスタビライザーの「PDCC」、フロントマフラーの出口をフラップ制御し、スイッチ操作でより力強いサウンドへと変化させる「スポーツエグゾーストシステム」や、50km/h以下の速度域でより軽やかな操作感を演出する「パワーステアリングプラス」などを装着。

さらにBOSE社製のサウンドシステムやサンルーフ、コーナリングライトや車速感応式ヘッドライトコントロール機能から構成される「PDLS」などの装備を含めると、そのオプション価格は500万円をオーバーして、総額1920万円を突破という超々豪華版ということになっていたのだ。

ちなみに、新しく設定されたオプションアイテムの中で「これだけは迷ずチョイスすべき」という実用装備の筆頭は、長い911の歴史上で初めて、ついに電動格納動作が可能となったドアミラーだ。「この期に及んでオプションか!」という声も発したくなるが、標準装備となればアメリカ市場などでは無用の長物と化するに違いないし、5.3万円というポルシェのオプションアイテムでは破格の設定(?)なので、ここは「用意されただけでも幸い」と納得するしかなさそうだ。

画像: 試乗車にはオプションのアダプティブスポーツシートプラスを装着されていた。

試乗車にはオプションのアダプティブスポーツシートプラスを装着されていた。

画像: もはやエンジンフードを開いても、3.8Lの水平対向6気筒DOHCエンジンの姿を見ることはできない。エンジンルーム冷却用の電動ファン2基とエンジンオイル/冷却水のフィラーが姿を現すだけだ。信頼性を高めてメンテナンスフリー化が進んだ証しともいえる。

もはやエンジンフードを開いても、3.8Lの水平対向6気筒DOHCエンジンの姿を見ることはできない。エンジンルーム冷却用の電動ファン2基とエンジンオイル/冷却水のフィラーが姿を現すだけだ。信頼性を高めてメンテナンスフリー化が進んだ証しともいえる。

エレガントさを得た姿に新型911の方向性を見る

その911型のカレラS、改めて日本の陽射しの下で眺めてみる。当然ながら基本的なプロポーションや顔付きは、どこから目にしても紛うことなき911そのもの。しかし、同時にその佇まいが歴代911の中にあっても文句なしに最も流麗で、かつ「高級なスポーツカー」らしく目に映ったのは、スリークさを増したウインドウグラフィックに20インチという大径ホイールや、一挙に10cm増しとなった「ロングホイールベース」の採用など、いずれもサイドビューのエレガントさがアップしたことに大きく起因していそうだ。端的に言えば「より高級感を増した」という表現が相応しく、これが991型のアピアランスに対する大方の一致した意見になるだろう。

一方、5眼式のメーターやダッシュボードのドア側にレイアウトされたキーシリンダーなど、911というモデルならではの記号性を意識的に継承したインテリアでのハイライトは「カレラGTのイメージを受け継いだ」とされる手前下がりのスロープ形状を描いたセンターコンソール部分だろう。

ただし、そこにズラリとレイアウトされた小さなスイッチ類は、整然としているものの残念ながら必ずしも操作性が高いとは言い難い。狭い範囲内に多数のプッシュ式スイッチが隣接するため、操作時に視線を落とす必要がある。またその位置がハンドルから遠く、操作には大きな腕の動きが必要となることなどがその理由だ。

操作性という点からすれば、PDK仕様車ではシフトパドル付きのスポーツデザインステアリングホイールを選ぶのが必須の事柄と思える。

親指位置に近いスポーク部に「押す側でアップ、引く側でダウン」方式採用の左右対称形シフトスイッチを備える標準仕様のステアリングホイールは、一般的な操作感覚にどうにもそぐわないからだ。実はかつて、ポルシェ車全般の開発ドライバーであるヴァルター・ロール氏が「自分もあの操作ロジックは理解できない・・・」とこっそり耳打ちしてくれたことがある。

ステアリング操作を行ってもパドル位置は変わらない固定式がより好みではあるものの、位置、操作力、そしてルックスなどさまざまな要素を鑑みると、右側がアップ/左側がダウンのコマンドを担当するシフトパドル付きのスポーツデザインステアリングホイールこそ、「ポルシェがPDK車に本来採用したかったアイテムに違いない」というのが自らの感想だ。

その991型のドライバーズシートに収まった段階で、まず好印象を覚えるのは、実は全方位に対する視界の良好さでもある。

ミラー面そのものの大型化が要求された欧州の最新基準を満たすべく、大型化したドアミラー本体が大きな死角を生み出してしまうという例は昨今少なくない。だが、ステー位置がサイドウインドウ先端からドアパネルへと変更された991型のドアミラーにそのようなネガティブな印象は最小限。Aピラーとドアミラーの間に「抜け」の空間も確保されており、コーナリング時にも「進路がミラーの陰に隠れてしまう」という現象が起こり難いからだ。

加えて、大径ホイールと延長されたホイールベースにもかかわらず、小回り性の高さが確保され続けたのも日常シーンでの見逃せないポイントだ。最小回転半径はわずかに5.2m。従来の997型に比べると0.1mのプラスだが、実際に操ると期待以上に小回りが効くことに「これだけ舵が切れれば文句はない」というのが実感になる。

そんな取り回しの良さを、微低速域でのPDKの動作のスムーズさと先に紹介したオプション装備の「パワーステアリングプラス」がもたらす「速くて軽い」というステアリングフィールが助長してくれる。日常シーンでここまでフレンドリーに感じられるスーパースポーツカーは、他にはない。

画像: 100mm延ばされたホイールベース、スリークなウインドウグラフィック、20インチという大径ホイールなどにより、歴代911の中でも文句なしに流麗でエレガントなサイドビュー。

100mm延ばされたホイールベース、スリークなウインドウグラフィック、20インチという大径ホイールなどにより、歴代911の中でも文句なしに流麗でエレガントなサイドビュー。

素晴らしきクラシック感、街乗りの場面でも心地良い

ボディフロントセクションの大胆なアルミ化をメインに、大幅な軽量化を実現させた991型。ただし、多くのアルミボディ車で感じるのと同様に路面凹凸を拾った際のボディの振動感がややシャープで、「フットワークのテイストは歴代の911とはやや異質」というのが昨秋、カリフォルニアで試乗した際の第一印象だった。ただそれは決して不快というわけではなく、むしろ走り始めの瞬間から「望外の快適性の持ち主」と解釈できた。

しかし歴代の911を乗り継いで来た人の中からは「らしくない」という声が聞かれるかもしれないな、と感じたそのフィーリングは、今回のテストドライブではさほど強く印象に残らなかった。それも含めて、より低いアベレージスピードが強いられる日本で乗っても、「飛ばさなくても心地が良い」という印象がさらに強く感じられることになった。すなわち、街乗り主体の走りでも、ストレスを強要される感がまったくないのだ。

そうは言っても、目の前が開け、ホットな走りが許される環境になれば俄然シャープなスーパースポーツカーぶりを発揮するのがこのモデルであることは、改めて述べるまでもないだろう。

実際に今回も、ボディ後端にエンジンをレイアウトするという他に例を見ないこのスポーツカーの走りの実力が古典的なという意味ではなく「第一級の、最高水準の」という意味での「クラシック」なものであることを、改めて強く教えられた。

「スポーツエグゾーストシステム」のスイッチを押し、雑音が排除された上で大音量で届くフラット6サウンドを耳にしつつ、荷重がタップリと乗った後輪が生み出す強力なトラクション能力に感謝しながらアクセルペダルを深く踏み込む。すると、それまでは良くできたATとして機能していたPDKは電光石火のシフトを繰り返す「スポーツトランスミッション」へと変身し、後ろへと流れ去る周囲の風景がアッという間にその速さを劇的に高めていく・・・そんなシーンを体験するだけでも、虜となってしまうはずだ。

画像: さまざまなオプションを装着しているためにカレラSの標準仕様からグレードアップされた室内。サイドミラーがドアパネルに装着されて、視界が改善されている様子がわかる。

さまざまなオプションを装着しているためにカレラSの標準仕様からグレードアップされた室内。サイドミラーがドアパネルに装着されて、視界が改善されている様子がわかる。

すべての水準が際立って高いのはむしろ当然のこと

日常シーンでは「トルクフル」という表現が似合っていた3.8Lエンジンは、回転数が高まると今度はアクセルペダル操作に対する切れ味を増して圧倒的にパワフルなフィーリングをアピールする。その濃いキャラクターのエンジンをPDKのマニュアルモードのパドル操作で「自由に回転数を選びながら操る」というのは至福の瞬間だ。

すべてがドライバーの判断に委ねられるMTの魅力は十分に理解しているつもりでも、この圧倒的に素早く、自在なシフトを行うPDKならではのスタンスには抗し難い魅力を感じてしまう。そして、排気音に変化をもたせるためだけに、パドルを引きたくなる場面すら少なくない。

付け加えれば、このモデルのPDKは新しいファンクションであるコースティング機能すらパドル操作で自在なコントロールが可能である。クルージング時、もしくは降坂時に、その瞬間選べる最も高いギアからさらにシフトアップ側のパドルを引くと、任意でコースティングモードへ入れることが可能で、逆にコースティングモードを解除したい場合には、アクセル/ブレーキいずれかのペダル操作、またはアップ側/ダウン側のやはりどちらかのパドル操作でコントロールできる。

コーナリング性能が際立って高い水準にあるのも、もはや当然だろう。前述のように「PDCC」も装備したこのモデルはドライバー自身は相当ハードに攻め込んだ気になっていても、ほとんどロール挙動も示さずに連続するコーナーを次々とクリアしてしまう。

だがそうしたシーンでも、決して「クルマに乗せられている」という受け身の感覚ではなく、あくまでもすべてのコントロールがドライバーの手中に収まっている感覚を味わわせてくれる。

その印象はフル電動化されたパワーステリアングの出来の良さとも無関係ではない。必要な路面情報はタップリと掌に伝える上で、キックバックなど不要な「雑音」は見事にカット。昨今、「油圧式に迫る」と感じられた電動式パワーステアリングはいくつか記憶にあるが、ここまで明確に「油圧式を超えた」と実感したのはこれが初めてだ。

かくして、生まれ変わった911は「期待と想像以上に進化した911」でもあったと、もうそのように断言せざるを得ない。そして、このブランドの「根源」たる911モデルがかような変身を遂げたことは、今後生まれるすべてのモデルに、さらなる期待が持てることを示唆してもいるのである。(文:河村康彦)

画像: ほとんどロール挙動も示さずに連続するコーナーを次々とクリアしてしまう。飛ばさなくても心地良く、街乗りでもストレスを感じることはなかった。

ほとんどロール挙動も示さずに連続するコーナーを次々とクリアしてしまう。飛ばさなくても心地良く、街乗りでもストレスを感じることはなかった。

991型ポルシェ 911 カレラS 主要諸元

●全長×全幅×全高:4491×1808×1295mm
●ホイールベース:2450mm 
●車両重量:1490kg
●エンジン:水平対向6DOHC
●排気量:3800cc
●最高出力:294kW(400ps)/7400rpm
●最大トルク:440Nm(44.9kgm)/5600rpm
●トランスミッション:7速DCT(PDK)
●駆動方式:RR
●最高速:302km/h
●0→100km/h加速:4.3秒
※EU準拠

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