モデルのモデルチェンジ直前、いわゆる「末期」に登場する特別限定車。本来なら新型までのバトンをつなぐ“テコ入れ”であるはずのモデルが、なぜこれほどまでに世界中のポルシェファンを狂わせ、現代のオークションで7000万円超(35万〜45万ドル)もの高値で取引されるのだろうか。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
▶▶▶写真はこちら|ポルシェ「964スピードスター」の特徴的な“ダブルバブル”カバーほか(画像10枚)

最初は「356アメリカ・ロードスター」の廉価版だった

モデル末期になると特別限定車など、最後のテコ入れモデルをリリースするのはどこの自動車メーカーにとっても常套手段かと。ポルシェについても例外ではなく、むしろ末期こそ拡販チャンスとばかりにいくつもの限定車、スペシャルモデルをリリースしてきました。とりわけ、スピードスターは911ファンならずとも心躍るオープンスポーツーに違いありません。日本への正規輸入は106台に及んだという964タイプを中心に、スピードスターを振り返ります。

画像: 964のモデル末期、1993年にようやく発売されたスピードスター。3000台の生産予定が、景気の低迷から1000台未満となりました。

964のモデル末期、1993年にようやく発売されたスピードスター。3000台の生産予定が、景気の低迷から1000台未満となりました。

ご存じの通り、最初にスピードスターの名が冠されたのは1954年の356スピードスターでした。こちらは、モデル末期というより高価(で北米限定)だった「356アメリカ・ロードスター」の廉価版として登場しています。ロードスターの4600ドルに対し、スピードスターは2995ドルと、エンジンをはじめ様々な簡略化がなされたとはいえ、かなりのお値打ち価格だったといえるでしょう。

まさか安いから気に入ったというわけではないでしょうが、かのジェームス・ディーンが手に入れたのは誰もが知るエピソード。もしかしたら、これこそスピードスター人気の源泉かもしれません。

ダブルバブルを受け継ぎ、RSと共通の強靭な足回りを採用

次いで、1988年には930シリーズのスピードスターがついに登場。「低く傾斜したフロントスクリーン」と、畳んだ幌を覆う特徴的な樹脂製の「ダブルバブル」カバーは356スピードスターをしっかり受け継いでいます。また、ワイドフェンダーを持つ「ターボルック」と、ナローボディの「スリムライン(カレラボディ)」の2タイプがラインナップしたことも930スピードスターのトピック。生産台数はターボルックが2103台、ナローは171台と、圧倒的にターボルックが多数を占めていました。日本も同傾向にあり、ターボルック67台、ナロー24台が正規輸入されています。

画像: ダブルバブルのソフトトップカバーの形状にご注目。356時代から継承され続けたスピードスターのスタイルです。

ダブルバブルのソフトトップカバーの形状にご注目。356時代から継承され続けたスピードスターのスタイルです。

そして、足回りやエンジンを刷新した964モデルが1989年に登場するのですが、スピードスターはやっぱり末期の1993年の発売となりました。964スピードスターの特徴は、なんといってもRSと共通のハードな足回りかと。総じてスピードスターは小さなガラス面積、簡素なソフトトップといったカスタムによって軽量化が進むもの。964でもカレラ2カブリオレの1420kgに対して、1350kgとそれなりの車重を実現しています。

画像: カブリオレと違って、天井高が低く、より簡素なソフトトップもスピードスターの特徴で、もちろん開閉は手動になります。

カブリオレと違って、天井高が低く、より簡素なソフトトップもスピードスターの特徴で、もちろん開閉は手動になります。

が、実はカレラ2クーペと同一であり、オープン化にともなう補強がしっかり施された結果でしょう。すると、1220kgのRSと同じ足回りはオーバースペックと指摘される方もいらっしゃるのかと。これは、車重よりも重心位置が下がったことに対する強化サスと考えるか、はたまたスタイル(18インチのホイールへの対応)優先としたのか、判断は微妙なところ。

画像: 3.6リッターのフラット6エンジンはカレラと共通ながら、このサンプルはRSパーツの流用などで300馬力オーバーにチューンナップ。

3.6リッターのフラット6エンジンはカレラと共通ながら、このサンプルはRSパーツの流用などで300馬力オーバーにチューンナップ。

生産台数3000台の予定が1000台未満に

ところで、964スピードスターは先代の930が予想以上に売れたことから、当初は3000台の生産が計画されていました。が、1990年代初頭の世界経済が全体的に落ち込んできたことから、大幅に下方修正。総数は1000台以下となり、内訳はナローが921台、ターボルックはわずか15台のみとされています。なお、ターボルックは正規の生産ラインから外れ、カスタマーカウンターで受け付けるエクスクルーシブ扱いとされました。理由は定かではありませんが、車重やパワーを考慮するとターボルックの運動性能がナローに遠く及ばない、などと考えられたのかもしれません。

画像: カットダウンされつつ、かろうじて乗員を保護してくれるフロントスクリーン。シートはRSと共通のフルバケットを採用。

カットダウンされつつ、かろうじて乗員を保護してくれるフロントスクリーン。シートはRSと共通のフルバケットを採用。

実際、964スピードスターは少ないながらも北米ではバカ売れしており、ご紹介しているマリタイムブルーのサンプルも今までワンオーナーで過ごしてきた極上品。しかも、アメリカのポルシェ・チューナーに詳しい方ならよくご存じのアンダイアルによるファインチューンまで施されているというマニア垂涎の的。どうやら、北米向けRSパーツをふんだんにおごったらしく、ノーマルの250馬力から300馬力近くまで向上しているとのこと。また、アメリカに上陸した469台のうち、マリタイムブルーは37台のみということで、オークションでの指し値も35万~45万ドル(約5700万~7300万円)と空冷911の中でもトップクラス。おそらく10年後はこの倍を払っても手に入らなくなるのではないでしょうか。

画像: スピードスターのスポーツキャラ演出に欠かせないのがRSと共通のプルストラップ。もちろん、軽量化の役割を果たしています。

スピードスターのスポーツキャラ演出に欠かせないのがRSと共通のプルストラップ。もちろん、軽量化の役割を果たしています。

さて、スピードスターは993でお休み(未発売ながら、バイザッハで2台作られています)しつつ、2011年には997スピードスター(356台)、2019年には991スピードスター(1948台)が生まれています。が、いずれもモデル末期というのはそれまでのモデルと共通したポイント。無論、カットダウンされたフロントスクリーンやバブルカバーといったスタイルも共通ながら、世代ごとの特徴を巧みに取り入れた個性的モデルに仕上がっています。なるほど、ジェームス・ディーンが乗った時から、スピードスターの魅力は永遠だったのかもしれません。

画像: シフトカバーやサイドブレーキまでマリタイムブルーでコーディネート。このカラーは全米で37台のみのレアカラー。

シフトカバーやサイドブレーキまでマリタイムブルーでコーディネート。このカラーは全米で37台のみのレアカラー。

画像: ノーマルと同デザインながら、17から18インチに変更されたホイール。おなじみのスピードライン製のカップデザインです。

ノーマルと同デザインながら、17から18インチに変更されたホイール。おなじみのスピードライン製のカップデザインです。

画像1: 生産台数3000台の予定が1000台未満に
画像2: 生産台数3000台の予定が1000台未満に

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