エンジンスワップというカスタムは、実に夢のある手法かと。なにしろ、直4搭載車にV8を押し込んだり、直6搭載ならばV12という可能性だってありそうです。ならば、オークションに出品されているエンジン単体も気になってくるというもの。そんな夢や妄想をふくらませてくれるエンジンの売り物を探ってみると、思わぬ珍品も見つかりました。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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ランボルギーニ・ミウラS(1970)

いうまでもなく、当時としては革新的なミッドシップにレイアウトされたV12エンジン。偏執的とさえ称されるエンジニア、ジオット・ビッザリーニによる設計をもとにアレンジされたもので、エンジンブロックと5速マニュアルトランスミッション、デファレンシャルギアが一体成型されるなど、随所に工夫が凝らされています。

画像: ミウラSはキャブのオーバーフローによる車両火災が少なくなかったため、こうしたエンジン単体の売り物が意外と多め。

ミウラSはキャブのオーバーフローによる車両火災が少なくなかったため、こうしたエンジン単体の売り物が意外と多め。

また、Sの特徴として燃焼室の形状変更による圧縮比アップに加え、インテークマニホールドの径を拡大。ウェバー製キャブレターにより、高回転域まで一気に吹け上がる官能的なサウンドと370馬力のパワーを実現しています。

画像: パーツ単体で見る限り、復活は時間とお金さえかければ不可能ではなさそうですが、ドンガラボディを探すのが難しそう。

パーツ単体で見る限り、復活は時間とお金さえかければ不可能ではなさそうですが、ドンガラボディを探すのが難しそう。

もっとも、日本円にしておよそ3500万円で落札された売り物を見てみると、単なるガラクタの山にしか見えません。腐食はもちろん、欠品だってあるでしょう。よほど腕っこきのレストアラーでなければ手に負えないことは確か。ですが、この売り物の強みはパーツナンバーがきちんと揃っているところ。いわゆるナンバーマッチングというクラシックカーの評価軸において、また、ミウラのように正統なレストアが求められるモデルにおいては非常に重要なポイントとなるのです。

画像: 錆びたマフラーを見せられると萎えてしまいがちですが、ナンバーマッチングはしているというのが救いでしょうか。

錆びたマフラーを見せられると萎えてしまいがちですが、ナンバーマッチングはしているというのが救いでしょうか。

そうは言っても、ボディやシャシーがないのにナンバーマッチングもへちまもありません。バラバラのパーツの使い道はすぐには思いつかないものの、それゆえじっくりと妄想をふくらませていくには持ってこいの売り物だったといえるでしょう。

画像: ランボルギーニ・ミウラS(1970)

ジャッド/ポルシェV10(1991、または1992?)

画像: 基本的にはジャッドのGV10エンジンですが、ポルシェのハウジングに合うよう改造されている模様。それゆえ、ダブルネームとされています。

基本的にはジャッドのGV10エンジンですが、ポルシェのハウジングに合うよう改造されている模様。それゆえ、ダブルネームとされています。

少し詳しい方なら、ジャッドとポルシェの名が並列表記されるエンジンは存在しないことに気づくはず。それもそのはず、グループCやF1で両社は火花を散らすライバル関係にあったからにほかなりません。それでも、ほんの一瞬、歴史の隙をついてこの2トップが交わったシーンがあるのです。

画像: 見まごうことなくジャッドのヘッドカバー。10連のトランペットマニホールドが当時のF1らしく、ファンにはたまらない逸品でしょう。

見まごうことなくジャッドのヘッドカバー。10連のトランペットマニホールドが当時のF1らしく、ファンにはたまらない逸品でしょう。

91、または92年製としたことでピンとくる方は相当なF1通で、これはフットワーク・アロウズがポルシェのV12からジャッドのV10に換装したタイミングです。ご承知の通り、ハンス・メッツガー特製のポルシェV12は大きく、重く、それでいてパワーが出ないというまれにみる失敗作でした。これに業を煮やしたチームがシーズン後半に定評ある(もののパワーは標準的)ジャッドV10に変更したのですが、ギヤボックスのベルハウジングや、マシンへのマウント用サブフレームの改変が間に合わず、ポルシェ用をカスタムするしかなかったのだそうです。

画像: 010の刻印は初期の3.5リッターと思われますが、もしかすると4.0リッターにスープアップされている可能性も否めません。

010の刻印は初期の3.5リッターと思われますが、もしかすると4.0リッターにスープアップされている可能性も否めません。

というわけで、エンジンそのものはジャッドながら、周辺パーツはポルシェという奇妙な売り物が生まれたという次第。指し値は8000ドル(約130万円)と、F1歴を考えればバーゲンプライスに違いありません。3.5リッター、フルチューンで700馬力近くを発生するのですから、これもまた大いに夢がふくらむエンジンではないでしょうか。

画像: ジャッド/ポルシェV10(1991、または1992?)

フェラーリ812スーパーファストV12(2017~2024)

あまり知られていませんが、フェラーリは自社工場内に鋳造工場(ファウンドリー)を備えており、独自のアルミニウム合金組成や鋳造技術を創業者エンツォの時代から内製・開発してきた歴史があります。コメンダトーレの慧眼には恐れ入るばかりですが、そのおかげでフェラーリは強度を備えつつも軽量なエンジンブロックや、普通は外注に出すであろうシリンダーヘッドの組成変更など伝統的に内製化してきました。

画像: このまま飾っても絵になるところがフェラーリの12気筒エンジン。とりわけF140GAは傑作と名高いものですから、満足度も大きいはず。

このまま飾っても絵になるところがフェラーリの12気筒エンジン。とりわけF140GAは傑作と名高いものですから、満足度も大きいはず。

812のエンジン(F140GA)に関して、自社内ファウンドリー最大のメリットとなっているのは超複雑な水流を実現したシリンダーヘッドの鋳造でしょう。精密鋳造技術(砂型鋳造)を駆使し、インジェクターとプラグを包み込むように、目に見えないほど細く複雑な冷却水の通路(ウォータージャケット)をシリンダーヘッド内部に張り巡らせることに成功。これがなければ、350バールもの圧力をかけた直噴システムはなしえなかったはず。

画像: 型式が刻印された面の質感を見れば、専門家なら特殊な合金であることを見抜けるかもしれません。

型式が刻印された面の質感を見れば、専門家なら特殊な合金であることを見抜けるかもしれません。

先代となるF12のV12エンジン(F140FC)では740ps/8250rpmだったものが、排気量拡大もあって800ps/8500rpmへと向上。ちなみに、F12の直噴圧力は200バールと標準的でしたが、効率的なパワーアップにはどうしても圧力増強が必要だったのだとか。

画像: ヘッドの結晶塗装、ブロックの質感など見ているだけでもワクワクするはず。

ヘッドの結晶塗装、ブロックの質感など見ているだけでもワクワクするはず。

また、812のエンジンでは軽量化されたクランクシャフトも忘れがたいテクノロジー。ざっくり言えば、本体を軽量化しただけではバランスがとりきれないため、リブの端にヘビーメタル(タングステン?未公表です)を溶着させるというアイデア。とにかく、このV12はフェラーリ史上最高の自然吸気エンジンと呼ばれるだけあって、トピックスには事欠きません。が、指値は2万ドル(約320万円)なので、比較的安価で「オレのクルマ、フェラーリのV12に載せ換えた!」と自慢できそうです。

画像: フェラーリ812スーパーファストV12(2017~2024)

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