爽快感に満ちた、冬のオープンカー体験
1月下旬、日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したマツダ ロードスターの試乗会が鹿児島で開催された。コンパクトなスポーツカーが大好きな私にとって、ロードスターはとても気になる存在。チャンスがあればぜひ乗ってみたいクルマの1台だった。そして遂にその念願が叶い、しかも鹿児島で乗れるという夢のような機会に恵まれた。
試乗会場の駐車場に並べられた色とりどりのロードスターを前にすると自然と気持ちが高ぶってくる。毎月何台ものクルマに試乗するが、乗る前からワクワクさせるクルマはそう多くはない。そんな意味でもロードスターは完全に私のハートを打ち抜いているようだ。
はじめに試乗したグレードは“RS”。ビルシュタインサスペンションをはじめ、レカロシート、大径ディスクブレーキなどを装着した最上級グレードモデルだ。
いざコクピットに腰をおろし、シートとハンドルを自分好みのポジションに調整する。自然に手を伸ばしたところにシフトレバーがあり、自然に伸ばした右足の前にアクセルペダル、左足の前にフットレストがレイアウトされている。決して強制されるようなドライビングポジションではなく、すべて自然にしっくりとくる不思議な感覚に見舞われた。
ついにエンジンを始動するときがきた。まだ聴いたことのない1.5L直4エンジンは、いったいどのようなサウンドを奏でてくれるのだろうか。そんな期待を胸にスタートボタンを押す。すると想像していた以上に図太いエキゾーストノートに一瞬戸惑ったが、次の瞬間にはニヤリと笑っている自分がいた。
すかさずギアを1速にいれてクラッチをつなぐ。「さあ君のすべて見てくれ」と言わんばかりにアクセルペダルを踏み込むとロードスターは猛然と加速していく。それは過給器の付いたエンジンのような加速ではなく、自分がつねに爽快な気分でいられる扱いきれるパワーフィーリングだ。
アクセルペダルを踏み込む恐怖心と戦うモンスターエンジンよりも、自分が使い切れるパワーで思う存分アクセルペダルを踏み込むことができる方が、何十倍も楽しいことを趣味で乗っているオートバイでいやと言うほど思い知らされてきた。そう考えてみれば人馬一体になれるロードスターは、オートバイに乗る感じによく似ている。だからロードスターと気が合うのかもしれない。
雪をかぶった桜島を左手に見ながら海沿いの国道を南下していく。気づけばロードスターの醍醐味であるオープンにして走るのを忘れていた。とりあえずクルマを路肩に停めて、ルーフのレバーを引き起こすと、あっさりとルーフの隙間から光りがさし込んできた。そのまま左手でルーフを後方向へ押し込むととオープンスタイルに変身。時間にして約10秒。
とりあえずニット帽をかぶり、首にマフラー、手にはグローブとウインターオープンドライブのお手本のようなスタイルで走り出す。レカロシートに標準装備されるシートヒーターとエアコンのヒーターはもちろん全開だ。フロントガラスの上部から室内に冷たい風が巻き込んでくることもなく、風が頭上を通り抜けていく。これなら女性を乗せても髪の乱れを気にすることもなさそうだ。
今回は“RS”の他に、売れ筋グレードの“Sスペシャルパッケージ”のマニュアルトランスミッション車にも乗ることができた。走り出してすぐに感じたことは乗り心地の違いだ。ビルシュタイン製のサスペンションを装着した“RS”は、あきらかに乗り心地が硬い。街中でも細かい凹凸を拾うので、クローズドコースを走らないのなら“RS”以外のグレードにした方がいいだろう。
幸運なことに現行ロードスターの生みの親である山本修弘開発主査と話をする機会を得た。そのときに興味深い話をしてくれた。「先代モデルに乗っているお客さんから新型ロードスターはどうなの?ってよく聞かれるんです。もちろん、いいですよって答えます。でも乗らない方がいいですよと言うんです。だって乗ったら絶対に買いたくなるでしょ」と話してくれた。
山本さん、確かにそのとおりですね。気がつけば自宅のガレージにロードスターが停まっていそうなのが恐い。いつの日か必ず手に入れたいクルマに出会え、とても嬉しかった。(文:黒田健一/写真:玉井充)
●主要諸元〈ロードスターRS〉
全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース=2310mm
車両重量=1020kg
エンジン=直4DOHC 1496cc
最高出力=96kW(131ps)/7000rpm
最大トルク=150Nm(15.3)/4800rpm
トランスミッション=6速MT
駆動方式=FR
JC08モード燃費=17.2km/L
タイヤサイズ=195/50R16
車両価格=3,196,800円