GRMNのノウハウを惜しみなく投入した新シリーズ
コンプリートカーを巡る自動車メーカーの動きが活発になってきた。日産は新たに「AUTECH」を立ち上げ、NISMOと並ぶカスタマイズブランドとして育て上げることを宣言。ホンダも「モデューロX」のラインアップを強化中だ。
トヨタも負けてはいない。スポーティカスタマイズのブランドを、今秋新たに立ち上げた「GR」に集約。従来のG'sとGRMNに代わり、カスタマイズの度合いに応じてGRスポーツ→GR→GRMNの3ラインアップに変更した。
どれも面白そうなクルマなのだが、ここでは11月21日に正式発表、12月8日に発売されたばかりの「86GR」にフォーカスしてみよう。

2017年9月19日から活動を開始したトヨタの新スポーツブランド「GR」。そのファミリーに待望の86“GR”が加わった。いわゆる限定車ではない、れっきとしたカタログモデルにして、あの86“GRMN”直系のクラス最速FRスポーツである。
86は2012年の発売以降、「スポーツカーカルチャー」の再興を目指していただけに、当初からさまざまなカスタマイズの方法論が提示されてきた。その中に、トヨタ(やそのワークスであるTRD)が発売したコンプリートカーがある。台数限定車として、あるいは特別仕様車として、メーカー自らが「チューニングカー」を発売してきたのは、少し前のトヨタでは考えられなかったことだ。
そのルーツは、86発売の2年前、2010年の1月に開催された東京オートサロンに出品された「FT- Gスポーツコンセプト」まで遡る。当時トヨタが展開を検討していた「G's」シリーズに、86のラインアップを検討していた証しだ。もっとも、86の生産は富士重工業(現スバル)が担当することから生産の調整がつかず、86 G'sは日の目を見ることはなかったが。
その後、トヨタは独自の生産方法で86のコンプリートカーを続々とラインアップ。その集大成が、今回発売された86 GRなのだ。
“86GR” 一択! 86GRで目指す“お山(ワインディング)の大将”
■2017年11月21日発表・12月8日発売 ■車両本体価格:496万8000円
“お山の大将”と言っても、独りよがりを指しているわけではない。お山=ワインディングを最高に気持ち良く走れるクルマという意味である。ベースになったのは、2015年に台数限定で発売された86GRMN。もっとも、あそこまでカリカリではなく、乗車定員4名のままで日常使いでも不便を感じないチューニングとなっているのがトヨタの見識だ。
とは言え、走りの性能向上に抜かりはない。強化されたシャシにおなじみのザックス製ダンパーやブレンボブレーキ(しかもフロントは6ポット!)を組み込み、前後異サイズのタイヤ&ホイール、さらにレカロのリクライニング・バケットシートを採用。妥協は一切ない。エンジンこそノーマルだが、トータルでポテンシャルをアップさせている。

86 GRはグレーメタリックに塗装された新デザインのサイドステップと専用リアスポイラーを装着するほか、マフラーはセンター出しに変更され併せて専用リアバンパーロアが装着される。タイヤサイズ拡大に伴いリアフェンダーにはエクステンションが付く。

86 GRのタイヤはミシュランPilot Sport 4で、前215/45R17、後235/45R17。専用ホイールはRAYS製で、前7.5J、後8.5J。

86 GRのフロント(写真)はモノブロック6ポットキャリパーとフローティング・ドリルドローターの組み合わせ、リアにも4ポットキャリパーとドリルドローターを奢る。

86 GRは純正オプションとしておなじみのSACHS製アブソーバと約10mmダウンのローダウンスプリング。

86 GRはアルカンターラを表皮に使った専用レカロシート。クルマの挙動をダイレクトに伝える。

86 GRは本革巻きの3本スポークステアリングに専用加飾。タコメーターも全面ホワイトの文字盤でGRロゴ入り。

「FT-86 Gスポーツコンセプト」は86コンプリートカーのルーツ。
86コンプリートカー図鑑
メーカー&ワークスによるコンプリートモデルたち。今はもう新車では買えないけれど、86に込めた想いはユーザーの目線に極めて近い。
86“GRMN” ニュル24時間耐久レースで培ったノウハウを投入した究極の86
■2015年12月21日発表・2016年2月1日発売(100台限定) ■車両価格:648万円(当時)
スポーツドライビングの究極を味わう
ニュルブルクリンク24時間耐久レースマシンのストリート用デチューンマシンと言ったら大袈裟か? そのくらい気合いが入った100台限定のスペシャルコンプリート。トヨタの元町工場にホワイトボディを持ち込み、徹底的に補強されたボディに加え、軽量化と重心高を下げるためカーボン製のルーフ、ボンネット、トランクリッドを採用する。
ニュルを走り込んでセッティングされた足回りはさぞ硬いのだろうと想像するが、意外やしなやか。ボディがしっかり固められているので、サスペンションが本来の仕事をしているのだ。このクルマのために組まれたエンジンも219psまでパワーアップしている。このマシンを手に入れられた幸運な100人にとってロ一生モノの86となるだろう。

86“GRMN”。ニュルブルクリンク24時間耐久レースマシンのデチューンマシンと言っても、足回りはあくまでしなやか。

86“GRMN”のエンジンは内部にも手を加え、最高出力は219ps、最大トルクは21.1kgmに向上。

86“GRMN”のエンジンフード、ルーフ、トランクリッドはCFRP製、リア&クォーターウインドーはポリカーボネート製。

86“GRMN”のボディは至るところが補強されている。乗車定員も2名に変更。
86“style cb” ファッションカスタマイズという異色の提案
■2015年2月10日発表・4月23日発売 ■車両価格:418万582円(6速MT 当時)/426万3055円(6速AT 当時)
スポーツカスタマイズが主流の86の中では異色の存在が、スタイルCbだ。敢えて言うならばドレスアップカーなのだが、単にエアロパーツを後づけしたのではなく、オーセンティックな丸目のヘッドランプと専用のフロントバンパーを開発して正式な登録が可能なコンプリートカーとして発売された。ちなみに光軸の高さがノーマルと変わらないように、デザインと申請に膨大な時間がかかったそうだ。現在はラインアップから消滅してしまった。

スポーツカスタマイズが主流の86にあって、アダルト&シックなコンプリートカー86“style cb”が登場。台数限定ではないが持ち込み登録が必要だった。

86“style cb”のCbとはCool beautyの略。ブラック塗装のルーフはオプションだった。
TRD 14R-60 “やれることは全部やった!”TRDが見せたワークスの意地
■2014年10月6日発表・発売(100台限定) ■車両価格:630万円(当時)
剃刀のような切れ味鋭いハンドリングで筑波LAPは58秒(!?)
トヨタのワークス部門であるTRDが総力を挙げて開発したのが究極の86=14R-60だ。そのルーツは研究開発車両「Griffon」。カーボンパーツの多用による軽量化、溶接も含め至るところが強化されたボディ、風洞実験による究極のエアロダイナミクスの追求など、まさに86の頂点だ。
そこで得られた知見をもとに市販車として開発されたのが14R-60である。そのハンドリングはまさに、剃刀のようにシュアで鋭く、ストリートカーの極限とさえ言えるものになった。総生産台数は100台だが、よりマイルドでドレスアップカー的な要素を強めたコンプリートカー「14R」も発売された。ちなみに14R-60はTRDの創業60周年記念車でもある。

TRD 14R-60は630万円(当時)という高価格も話題となったが、およそ44箇所もの変更が加えられていることを考えればバーゲンプライスだったと言える。

究極の86を目指したGriffonプロジェクトは2013年に始動。研究車両は筑波サーキットで1分を切ることを目標に開発。最終的には58秒422を達成した。

TRD 14R-60はボディ構造にも全面的にメスが入れられた。
86 GT“Yellow Limited エアロパッケージFT”
■2015年7月13日発表・発売(期間限定車) ■車両価格:385万2200円(6速MT 当時)/393万4673円(6速AT 当時)
ちょびっとカスタムだけど意外や本格派のコンプリート
単なるドレスアップカーと思ったら大間違い。特別仕様車のGT“Yellow Limited エアロパッケージ”をベースに、前後異サイズのBBS製アルミとポテンザ S001タイヤを装着、さらにザックス製専用チューンダンパー、高μパッドなどちょっとしたチューニングカー並みの装備を施して期間限定車として発売した。

派手なエクステリアとともに、フットワークにも手が入ったコストパフォーマンスに優れたコンプリート。

前後異サイズのタイヤやザックス製アブソーバの採用など、86チューンの定番とも言える仕様だ。