摩擦円を考えたドラテク
で「引き出し」を多くする
前回は摩擦円の基本について解説したが、今回もその続きだ。ちなみに第4回のテーマは荷重移動だったが、摩擦円と荷重移動は切り離して考えることはできない。摩擦円の話も荷重移動の話も、結局どれだけタイヤの性能を引き出して走るか?ということにつながるからだ。
タイヤはエンジンのパワーを路面に伝えたり、コーナリングフォース(舵角を与えることによって発生する横向きの力)を使いコーナリングさせたり、ブレーキングのときに路面と摩擦力や粘着力を発生して減速する役割を担っている。
いずれの場合にもしっかりと荷重をタイヤに乗せることができれば、摩擦円は大きく使える。その時「走る」「止まる」「曲がる」というクルマにとって重要な三要素が最大限に生かせる。
簡単に言えば、左下のイラストのように、タイヤに荷重が乗っていない状態ならば、接地面が小さくなる=摩擦円が小さいということだし、右下のように荷重が乗っていれば接地面が大きくなる=摩擦円が大きいと考えて良い。
4つのタイヤをどれだけの力で路面に押し付けているかは、クルマの運動では一番重要な要素になるし(イラスト下)、ドライビングテクニックとは、タイヤ4つの摩擦円を自在にコントロールすることが最終的な目的と言って良いだろう。
クルマをコントロールするのはステアリングとアクセルとブレーキの3つが基本。ドライビングテクニックとは、これらを車速に応じて、きちんと連携させることに尽きる。
そのためにこれまで連載で解説してきた正しいドライビングポジション、ステアリングワーク、シフトダウンとブレーキングを動じに済ませてしまうヒール&トゥなどがあるわけだ。
摩擦円を最大限に使うということは基本だが、基本だけではない。摩擦円を最大に使わないテクニックというものも存在するので解説しよう。
たとえばジムカーナで良く使われるサイドブレーキターンだ。なんであんなことをするのだろうか? 手順としては、まずブレーキングでしっかりとフロントタイヤに荷重を移してリアタイヤの荷重を抜き(摩擦円を小さくし)、旋回を始めた瞬間にサイドブレーキでリアタイヤをロックさせて小回りする。見た目は180度、270度、360度、あるいは8の字などアクロバティックだが、きちんとタイムも縮めることができる。
こうする理由は、クルマの持つ最小回転半径で摩擦円を最大限にして速いコーナリングをするよりも、リアタイヤを滑らせて距離を短く(回転半径を小さく)走った方がタイムが良いと判断するからだ。
ドリフト走行なども、摩擦円を最大限まで使わないことで派手な走りをするテクニックと言える。オーバースピードから、サイドブレーキや極端に速いステアリングワークを駆使して、わざとリアタイヤのグリップを失わせる。つまり摩擦円を使い切っていない。
そのままだとスピンしてしまうので、カウンターステアを当て、フロントをリアのスライドに合わせて外に逃がしてやればドリフト走行の完成となる。だから、決して速い走りではない。
ラリーやダートトライアルといった土系のドライビングでもドリフト走行をしようするが、これは路面側の都合によって、もともと摩擦円が小さい状態になっているから、必然的になってしまうことが多い。
意図的に行うばあいは、コーナーでのグリップが期待できないので、早めに向きを変えておいてストレートの加速でタイムを稼ごうということだ。
現在はあまり見られなくなったが、センターデフがなかったり、強化ビスカスの4輪駆動では、クルマが曲がりづらいために、一度ノーズを外側にふって荷重をインに移し、ステアリングを一気にインに切り込むとともに、イン側の荷重をアウト側に移すことをきっかけに強引にコーナリングに持ち込むフェイント走法なども見られた。こうしてテールスライドを誘発させているわけだ。
もちろん速いドライビングをするにはタイヤに荷重を乗せて摩擦円を最大限に使うのが良い。ただし、それだけでなく、いろいろトライして「引き出し」を多くすることが、ドライビングの上達に役立つはずだ。
■解説:飯嶋洋治 ■イラスト:きむらとしあき ■写真:三菱自動車工業