新型は7代目となるが日本導入は今回初めて
レクサスの基幹モデルである「ES」がフルモデルチェンジされ、この秋に華々しくデビューする。…そう聞いてもピンとこない方がいるかもしれない。というのもESは、こんどの新型で7代目であり、これまで218万台も世界販売してきたヒット作であるにもかかわらず、日本導入は今回が初めてなのだ。
直接の競合車は、メルセデス・ベンツEクラスであり、BMW5シリーズであり、そしてアウディA6である。どれもメーカーの中心的な存在である。
ディメンション的に特徴的なのは、ライバルのどれよりも全長が長いことだ。ちなみに主要部品を共有するカムリよりも全長は90㎜も長く4975㎜、幅も25㎜広く1865㎜となる。
どこかRCの面影を残すスポーティなエクステリアデザインなのに、前後重量配分に優れ、低重心化にも貢献するGA-Kプラットフォームを基本に構成されたボディは、実はたっぷりと余裕のある体躯をしているのだ。
ちょっと大袈裟に言えば、LSイーターのような趣もある。凡庸な雰囲気はまったくなく、それでいて窮屈な感覚もない。ショーファー的な仕様ではないのなら、LSとのカニバリ※もありえるとさえ思った。
日本に投入されるエンジンは新開発の直列4気筒2.5Lハイブリッドのみだ。駆動方式はFFのみ。だが、これまでなかったFスポーツの設定がある。
※カニバリ:カニバリゼーション(cannibalization)の略。自社の商品が自社の他の商品を侵食してしまう「共食い」現象のこと。
上質さを備えながらハンドリングは軽快
走りの印象はなかなか快適である。従来のESは、こう言って良ければ平凡なファミリーカーだった。没個性が最大の個性である。というような凡庸なファミリーセダンの王道を突き進んでいた。だが新型は、上質な乗り心地とスポーティフィールが備わっている。あきらかに宗旨替えしたようで、プレミアム度を格段に高めて登場してくる。
静粛性は際立っている。遮音材を多用したのはもちろんのこと、アルミホイールを中空にするなどまでして騒音を抑えている。乗り心地も秀逸だ。路面からの突き上げは、ハッとするほど抑えられている。それでいて、ハンドリングは軽快である。実はESは前輪駆動なのだが、新型プラットフォームの効果が顕著で、FFの悪癖であるハンドリングの悪さは感じない。
これにはニッケル水素バッテリーをトランクの下に積み込んだことも有効なようで、FFが陥りがちな重量バランスの悪さがない。運転してみてもフロントヘビーの印象は皆無だった。
特に世界初のスイングバルブ式ダンパーが素晴らしい。0.02m/sという超微低速域から減衰力を発揮するそれは、ロールが発生すると同時に仕事を開始する。そのために、走り始めたその瞬間から路面に吸い付くようなコーナリングを開始するのである。タイヤから悲鳴を響かせての走りが狙いではなく、ちょっとハイペースのジェントルなスピード域の軽快感が際立っていた。
これまでのESでワインディングを飛ばそうという気にはならなかったが、新型ならばそれも悪くはないと思う。ハイブリッドシステムのパワーがもうちょっと強ければ爽快な加速が得られるとは思うけれど、ハンドリングは気持ち良いのである。
実は低めのドライビングポジョンを選べるし、ペダル類やステアリングの角度や距離なども絶妙である。居住性ばかりに目を奪われがちなFFではあっても、ドライバーズカーとしてのこだわりを感じる。細部にも手抜かりがないからこそ、スポーティかつ上質な走り味が得られたのだと思う。
これまでFRらしい攻撃的な走りでミドルセダンのジャンルを守ってきた「GS」の洗練さとは異なる味付けである。つまりそれは、新生レクサスの走りなのだと思う。
■文:木下隆之
■写真:レクサス