日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第6回は、「テツ」つまり鉄道、その中でもディーゼル機関車のパワーユニットを紹介しよう。(今回の記事は2016年8月当時の内容です)

エンジンで発電してモーターで駆動するディーゼル機関車

画像: タイトル画像:1950年代まで北米大陸横断鉄道の主役だった、EMD-Fシリーズ ディーゼル機関車。同時代のアメリカ車と同様、アメリカ黄金期のシンボル的デザインだ。

タイトル画像:1950年代まで北米大陸横断鉄道の主役だった、EMD-Fシリーズ ディーゼル機関車。同時代のアメリカ車と同様、アメリカ黄金期のシンボル的デザインだ。

陸上においてモンスターなエンジンを搭載した乗り物のひとつに「鉄道」がある。今回取り上げるのは、蒸気機関車でも電気機関車でもない。ディーゼルエンジンを搭載したディーゼル機関車だ。

鉄道で電化されていない路線は、欧米先進国でも多々ある。特に北米大陸を横断する通称「大陸横断鉄道」は、保線を考えれば当然、非電化鉄道だ。日本でも北海道をはじめ、地方はまだまだ非電化路線が残る。ディーゼル機関車や気動車(電車型)というと、クルマと同じようにディーゼルエンジンを動力とし、トルコンを介して駆動力を直に車輪に伝える方式が日本においては主流だ。しかし、世界を見渡してみると、実はこの方式は少数派だったりする。読者の皆さんなら説明は不要かもしれないが。

世界における鉄道のディーゼル車の主流は、ディーゼルエレクトリック方式…つまりディーゼルエンジンで発電機を回し、発生させた電力でモーターを駆動する「ハイブリッド方式」だ。では、なぜディーゼルエンジンから直接車輪を駆動しないのか? 答えはいたって簡単。列車を牽引する巨大なパワー(トルク)に、耐えられるトランスミッションを作ることが難しいからだ。

鉄道は早くから蒸気機関車に代わる、効率的で扱いやすい機関への転換が求められていた。しかし、1輌の重量が少なくとも20トンから100トンに及ぶ客車や貨車を、数十輌、ときに百輌以上も連結して停止状態から牽引する機関車には、低回転から巨大なトルクが求められた。低回転でも大トルクを発生するディーゼルエンジンは、1920年代すでに船舶で実績を得ていたが、その強大なパワーを車軸に伝達するトランスミッションが、クラッチ(機械)式であれトルコン(流体)式であれ、存在しなかった。ごく初期にはディーゼルエンジンで圧縮空気ポンプを回し、圧縮空気を蒸気機関のピストン駆動のように使うなど、試行錯誤だった。

画像: GMが公開するFシリーズ機関車の内部。巨大なEMD-567B型V16エンジンの前部(丸く囲った部分)が発電ユニット。後部のストーブのようなものは、客車暖房用の蒸気ボイラーだ。

GMが公開するFシリーズ機関車の内部。巨大なEMD-567B型V16エンジンの前部(丸く囲った部分)が発電ユニット。後部のストーブのようなものは、客車暖房用の蒸気ボイラーだ。

そこで、トランスミッションをやめてエンジンで発電機を回し、トルクフルで無段階変速のモーターを駆動させるという、ディーゼルエレクトリック方式が主流になった。モーター駆動であれば複数の機関車をつなげても、電気制御で容易に一括制御できるメリットもあった。ディーゼルエレクトリック方式の高性能機関車で最も成功したのが、自動車業界の雄でもあるGMの系列、エレクトロ・モーティブディヴィジョン(EMD)だ。特に有名なディーゼル機関車がEとFシリーズで、1937年に登場以来1964年まで製造され、個性的なルックスは1950年代のアメ車同様、豊かなアメリカのシンボルとなった。

EMD-E・Fシリーズの成功には同社の567系エンジンの存在がある。これは、1気筒あたり567キュービックインチ=約9.3Lの意味で、V12気筒とV16気筒が鉄道用の主力だった。1気筒4バルブのSOHCで、2ストローク・ユニフロー掃気+ルーツ式過給器という、いかにも黄金期のアメリカらしいハイテクなエンジンだ。V16では総排気量は約149Lとなり、わずか800rpm(アイドリング並み!)で1500馬力を平然と出力したというから、陸上の乗り物と思えない怪物だ。

このエンジンに同社のD-12発電機と、D-27-B主電動機一式がパワーユニットとして構成されていた。巨大なパワーユニットにより機関車1輌だけで112トンとなり、さらにキャブ(運転台)付きと、キャブなしの同形を重連・三重連で連結運用するスケールは、大きさや重量に制約のない、大陸鉄道ならではの機関車とえいる。現在もこのパワーユニットを継承した、よりパワフルで高効率のディーゼル機関車が大陸横断鉄道の主力である。

画像: 組み立て中でまだシリンダーブロックだけだが、それでも人と比べるとデカイ! この上部にカムカバー、吸排気配管とラジエターが、前方に機械式過給器と発電ユニットが、ドッカリ装着される。

組み立て中でまだシリンダーブロックだけだが、それでも人と比べるとデカイ! この上部にカムカバー、吸排気配管とラジエターが、前方に機械式過給器と発電ユニットが、ドッカリ装着される。

ダイハツディーゼルを搭載した日本のDD51

一方、軌道幅が狭く路盤の弱い日本の非電化路線では、大型・大重量なディーゼルエレクトリック方式の開発は困難とされ、軽量な電車型トルコンを用いたディーゼルカーか、蒸気機関車に頼る時代が1970年代まで続いた。それを解決したのが、1962年に登場したDD51。オレンジ色の凸型車体の前後にダイハツディーゼル製V型12気筒61.1Lインタークーラー付きターボエンジンを2機搭載、1エンジン1トルコンで4軸を駆動し、総合出力は2200馬力/1500rpmを実現した。

このDD51は日本鉄道史初の大型大出力ディーゼル機関車として大量生産され、北海道や九州のD51やC62など蒸気機関車と交代した。またDD51以降のディーゼル機関車には、多くの部品や技術が転用され、非電化路線の無煙化に貢献した。地味キャラではあるが、ディーゼル機関車こそ、陸のモンスターの代表格といえる。(文 & Photo CG:MazKen)

画像: 日本独自開発のトルコン(液体駆動)式ディーゼル機関車の最量産形がDD51。ダイハツディーゼル製61.1LのV12(バンク角60度)は中間冷却ターボチャージャー付き。1100ps/1500rpm×2というハイパワーで、D51やC62といった大型蒸気機関車を引退させた。

日本独自開発のトルコン(液体駆動)式ディーゼル機関車の最量産形がDD51。ダイハツディーゼル製61.1LのV12(バンク角60度)は中間冷却ターボチャージャー付き。1100ps/1500rpm×2というハイパワーで、D51やC62といった大型蒸気機関車を引退させた。

※米国の機関車は米馬力(hp)、日本の機関車は仏馬力(ps)となる。

■GM EMD-567B

●型式:2ストローク/水冷V型16気筒(バンク角45度)4バルブSOHC
●排気量:約148.8L
●燃料供給方式:インジェクション
●排気方式:ユニフロー掃気
●過給器:ルーツ式スーパーチャージャー
●燃料:軽油
●出力:1500hp/800rpm
※発電用エンジン出力と、主電動機(走行モーター)出力は異なる。

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