ドライバーのラインアップは一番豪華!?
1989年のデビュー年から始まった「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」も今年で29回目を迎えた。3年前から4世代目となるND型でレースを行なっているが、このレース車両、1年でこのレースのためだけに用意されたもの。マツダ関係者をはじめ、協力スポンサーのみなさまには、この場を借りてお礼申し上げます。毎年、楽しいレースに参加させていただき、本当にありがとうございます!
さて、我がホリデーオートレーシングチーム、今年も昨年と同様のドライバーラインアップで、編集部カトー、日下部保雄さん、瀬在仁志さん、太田哲也さん、木下隆之さんというレース経験者を揃えての参戦となった。
「それだけドライバーを揃えてなぜ勝てないの?」
とはよく聞かれるが、まあそれがわかったら苦労しないんだよなぁ…。
えっ!? エンジンがかからない!
朝イチ、車検場に行くためにエンジンをかけようとイグニションスイッチを押すが、まったく反応がない。仕方なく、人力で車検場までクルマを押していき、そのうちかかるだろうとタカをくくっていたのだが、いつまで経ってもエンジンがかかる気配がない。仕方がないので、マツダの関係者を呼んでバッテリーを外してみたり、ジャンプコードをつないでかけてみるなど、いろいろな対応をしていただくが、すべてダメ。さあ、困った。。。
練習走行まであと1時間というところで、もうこの車両の復帰は間に合わないと判断。別に用意されていた車両、いわゆるティーカーを使うことにする。このティーカー、1000kmの馴らし運転はされているものの、レースには使ったことのないまったくの新車で、ダイジョーブなのか…と不安はあるがしょうがない。さっそく真っ白のボディの新車がホリデーオートのピットに入れられた。
そしてここからがスゴかった!
「白いボディのままじゃ、ホリデーオートさんもカッコがつかないでしょ! これまでの車両からバンパー、フェンダー、ボンネット、トランクを移植します。ドアだけは簡単に外せないから、そこだけはガマンして!」
とマツダ関係者の方からの力強い言葉をいただき、これまで使っていたマシンからパーツの移植が始まった。そしてなにごともなかったかのように、我らのニューマシンが用意された。
予選は木下さん。7番手は本人は不本意
予選は昨年同様、木下隆之さんに行ってもらうことに。
装着しているタイヤはブリヂストンのAdrenalin RE003で、タイヤの性格からすると、タイムは1〜2周しか出ない。それを木下さんに伝えてアタックに入ってもらうのだが、運が悪いことにペースの遅いクルマにマンマと引っかかってしまう。
2周を終えたところでピットに戻ってきた段階では8番手とモニターに表示されている。
「ゴメン、もう一度行かせてくれる?」
と木下さん。このとき雨がポツリポツリとし始めたので、もう迷っている時間はない。
3分ほど停車した後、再度コースインしてアタックを開始する。
するとタイムをコンマ1秒ほど上げてきて、最終的には予選7位という結果となった。
「もう少し上に行きたかったけど残念。ゴメン」と謝る木下さんだが、予選上位陣は常連のツワモノばかり。その中で1分10秒986をたたき出してポールポジションを獲得したのはエンジン号の大井貴之選手。そこから1秒以内に14台が並ぶ激戦となった中、まずまずの滑り出しと言っていい。
決勝はドライスタート。しかし、その後大混乱を招く雨が…
さて、このレースの難しいところでもあり面白いところは、単に速く走ればいいというわけじゃはないということ。4時間で使えるガソリンは60Lで、頭を使わず気持ち良く飛ばしてしまうと、最後には“ガス欠”が待っているのだ。
昨年の優勝チームの周回数は182周で1周2.05kmとすると、燃費は
182×2.05÷60=約6.22km/L
程度に抑えて走らなければいけないことになる。
過去、何度も優勝争いに絡みながらも、最後の最後でガス欠になってしまったことがある我がHA号。3年前も終盤2位を走行するも、最後で優勝を狙ってペースアップを図り、残り1分でガス欠をしてしまったというニガイ思い出が頭をよぎる。そのあたりの経験を踏まえて、前半をなるべく抑えつつガソリンを残して、後半でペースアップできるような作戦を立てる。
そしてレースは予定から8分遅れの16:08にローリングスタートが切られた。第1ドライバーはカトー。序盤はいいポジションを取ってレースを有利に運びたいために、スタート直後だけ少しガソリンを使ってでも前に出るようにピットからは指示を受ける。しかし、他のチームも当然、同じ事を考えており、スタート直後から上位陣はハイペースでの厳しいバトルが続く。カトーはガソリンをなるべく使わないようにしつつも慎重に攻略して、10周終了時点では4番手までポジションをアップした。
しかし、ここで大粒の雨が降ってきた。コースはスピンするクルマが出始め、さらに雨は強さを増してきた。いわゆる「ゲリラ豪雨」ってやつだ。HA号はルーフを空けたまま走り始めたために、ドライバーはずぶ濡れ状態。カトーはこりゃたまらんとばかりに、
「ここでハンデキャップを消化しよう。ついでに屋根も閉めて。ピットインするよ!」
とケータイでピットに伝える。
そしてピットに戻ったところで、「赤旗」が降られ、レース一時中断が告げられる。ここからが長かった。この後、雨は15分ほどでやんだのだが、レースがいつ再開するのかがまったく読めないまま、蒸し暑い車内でずーっと待たされることになった。
レースは5時に再びローリングスタートで再開することがアナウンスされる。しかし、それまで走った11周はなかったことにして、再度予選の順番でグリッドに付くように指示される。これはそれまでにハンデキャップを消化したチームと消化していないチームがあって、そこでの有利不利がないようにとの判断だ。せっかくポジションアップできたのにぃ…、と心の中でつぶやくが決まったことだから仕方がない。
そして2回目のスタートが17:14分に切られる。ここから残りの約3時間を飛ばして走るチームと、給油をせずにエコランで走るチームで作戦が分かれた。我がHA号は飛ばして走る方を選択する。また、ドライバーは申告通りの順番で走らなければならないが、全員が乗る必要はないというルールも追加された。我がチームの最終第5ドライバーは木下さん。ピットインしてかかる約1分半をかけてでも木下さんを走らせた方がいいのか、木下さんには走るのを諦めてもらって4人で走りきった方がいいのか、チームは非常に難しい選択に迫られた。そして最終的は、木下さんは走らずにほかの4人で走りきるという苦渋の選択をする。
大ピンチ、マシントラブル発生!
カトーは2周目にハンデキャップ1分ピットストップを消化して、約45分を走って最終的に4位まで順位を上げたところで、第2ドライバーの日下部さんにドライバーチェンジをする。このときすでにコース上はほぼ乾いてきており、ピットからはさらなるペースアップを指示する。
しかし、またまたここで問題発生!
「クラッチが滑っちゃって2速が使えない」
と日下部さんから悲痛な連絡が入ってきた。これは後にわかったことだが、どうもミッションオイルが多めに入っていたために、それが吹き返してクラッチに悪影響を与えていたようだ。
そんな状況の中でもレースを諦めるわけにはいかず、日下部さんはクラッチをいたわりながらの走行続ける。すると3位に順位を上げてきてくれるではないか。さすが日下部さん!
そして第3ドライバーの太田哲也さんにバトンタッチする。この時、給油も同時に行う。しかし、ここでも問題が発生する。ドライバー交代の際、シートベルトのバックルをはめることができずうまく締められないという状況に陥る。給油メカニック3名は給油に専念するために、シートベルトは降りてきた日下部さんとドライバーの太田さんでなんとかするしかなかないのだが、どうもうまくいかない。2分半ほどで給油を終えたメカニックのハマちゃんが慌てて手伝いをするも、給油時の義務ストップ時間である3分は無情にも過ぎていき、ピットアウトするまでに結局3分30秒も要してしまった。これは非常に大きな誤算だった。この段階で順位は11位まで後退してしまう。
太田さんが走り始めるとほぼ同時に、またサーキットに大粒の雨が降り始める。クラッチトラブルをかかえながらのウエット走行となり、太田さんは非常に厳しい状態でのドライバーを強いられる。そして25周を周回したときに、またもやトラブルが発生する。
「1コーナーで左側をぶつけられたぁ!」
どうも1コーナーで前を走っていたクルマをパスしようとイン側に入ったのがだが、前走車のドライバーが見えていなかったのか、コーナー進入時に締められてしまい、左側面に接触してしまったようだ。
「走れますか?」
とピットから呼びかけてみると、なんとか走ることはできそう。しかし、接触の影響でステアリングセンターがズレてしまったようだ。ここですぐにピットに呼び戻したいところだが、ドライバー運転時間の関係があって(1人最長50分まで)、もう少し走ってからじゃないと次の瀬在さんに交代することはできない。そのため、さらに5周を走ってからのピットインとなった。
左側面がキズついたマシンは、サイドミラーが破損してしまっていた。さらにドアが凹んで開けることができない。しかし、なんんとか走ることができそうということで、レースを続けることにする。
しかし、最後の瀬在さんが走り始めるときにも問題が発生。事前に試したときにはつながったケータイ電話がつながらない。どうも慌てて作業したときにイヤホンマイクのジャックが抜けてしまったようだ。さらに先ほどと同じく、シートベルトがうまく締められない。もう電話は諦めることに。ガソリンは余りそうだから、全開で走ってくださいと大声で指示を出す。ここでも1分10秒を要して、余計な10秒をロスすることになった。
しかし、そこからの瀬在さんの走りは凄かった。ステアリングが曲がった状態のマシンでウエットの中、途中、コース上で一番速いラップタイムをたたき出している。
「アレ、うちのマシンって、クラッチも滑ってるんじゃなかったっけ?」
どうもずっと走っているうちに、クラッチを滑らせていたミッションオイルは悪影響を与えなくなった(乾いた?)ようだ。
そしてファイナルラップ。またまた、また事件が起こる。これは戻ってくるであろう時間になっても、瀬在さんは最終コーナーから出てこない。おかしい、おかしいとピットはザワつくが、その前の周から約12秒遅いタイムでなんとか9位でチェッカーを受けた。
戻ってきた瀬在さんに話を聞いてみる。
「ファイナルラップだったとは知らなかったんだけど、1ヘアピンで前走車をアウトから抜こうとしたら、その前走車のドライバーはインから来ると思ったのか、アウトにはらんできてコース外の芝生押し出される形になって、スピンしちゃったんだよ」
最初からの最後まで、とにかくいろいろなハプニングが続出したレースだった。レースに「タラレバ」は禁物だが、リザルトを見ると、ひとつ上の8位は11秒差だから、スピンしなければ抜かれずに済んだはずだし、太田さんの接触、ベルト交換の不手際などトータルで1分失わなければ5位にはいけたはずだった。
まあ、これがレースというものなのだなぁと実感させられることになった。それにしても、この順位だったら、木下さんにもぜひ走ってもらいたかったという後悔もあって、どうにも後味が悪い結果となった。
来年こそは!と心に誓った今年のロードスター4耐でした。
■文:加藤英昭(ホリデーオート編集部) ■写真:井上雅行