タイトル写真はフォルクスワーゲンの6速DSG(DCT)のカットモデル。
DCTはクラッチで、ATはトルコンで駆動力を伝達する
マニュアルトランスミッション(MT)の煩わしいクラッチペダル操作、これに加え変速操作までも不要にし、自動化したのが自動制御式MT(AMT)だ。その代表がDCT(デュアルクラッチトランスミッション)である。
乗用車においてフォルクスワーゲンがDSGの名で先鞭をつけ、一気に普及が進んだ。アウディのSトロニックやBMWのM DCT、三菱のツインクラッチSSTなど、名称は違うもののすべてDCTだ。また、i-DCTの名で、ホンダはハイブリッド車に採用している。
DCTは2つのMTを組み合わせたようなものだ。たとえば6速DCTなら、奇数段の1速、3速、5速を担当する変速機構と、偶数段の2速、4速、6速を担当する変速機構がある。
一方の変速機構のクラッチを切りながら、もう一方の変速機構のクラッチをつないでいられるから、加速中にトルクが途切れない。一般的なATのようにトルクコンバーター(トルコン)の抵抗によるロスがないなど、伝達効率が良く、ダイレクトな加速を味わえることも特徴だ。
ちなみにこのDCTも大きく分けて2種類あり、大トルクに耐えられる湿式多板式クラッチディスクと、効率が良くメカニズムもシンプルな乾式多板式クラッチディスクがある。
メリットが多い反面、デメリットもある。トルコン付きATと比べて発進時の滑らかさに欠き、変速時の音や発熱などによる変速ショックが発生しやすい。また、急減速時のシフトダウンに空ぶかしが必要で、再加速のタイムラグも大きいという弱点もある。
一時は夢のトランスミッションとまでいわれたが、最近では採用するモデルが減りつつある。その理由は、耐久性や信頼性に不安があるからだと言われている。フォルクスワーゲンとホンダのものに不具合が頻発し、大量のリコールを招いたこともある。クラッチの部分の特許を1社が押さえていることもあって、トラブルが発生すると対応も大変なのだ。
これに対しトルコン付きATは熟成の域に達している。
だから、今もトランスミッションの主役といえばトルコン付きATである。緻密な電子制御に加え、改良に次ぐ改良によってドライバビリティだけでなく燃費や信頼性も大きく向上させた。また、変速段数も驚くほど増え、プレミアム感が飛躍的に高まっている。
今や7速や8速が欧州での中心的な存在で、10速ATまでも誕生して新たな魅力を訴えている。信頼性が高いだけでなく多段化によって、さまざまな性能でDCTを凌ぐほどの出来映えになった。だから最近、高級車への採用車種が増えている。DCTから多段ATに戻すメーカーが増えてきたのも、こういった理由からだ。(文:片岡英明)