日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第8回は、高速バスがどのように進化してきたかを探ってみたい。(今回の記事は、2017年9月当時の内容です)

本格的ハイウエイ時代の到来ともに進化した、日野の高速バス「RA900P」

画像: タイトル画像:上の画像は、国産史上最大級の20Lエンジンを搭載した、1990年登場のセレガ・シリーズと主力エンジンのF20C。この時期をピークに省エネ・排出ガスクリーン化が進む。下の画像の最新のセレガはA09Cという小排気量・超高効率エンジンを搭載する。

タイトル画像:上の画像は、国産史上最大級の20Lエンジンを搭載した、1990年登場のセレガ・シリーズと主力エンジンのF20C。この時期をピークに省エネ・排出ガスクリーン化が進む。下の画像の最新のセレガはA09Cという小排気量・超高効率エンジンを搭載する。

本連載の第3回で、日本の長距離高速バスの黎明期を紹介した。特に水平対向12気筒 17.4LのD140型という専用エンジンを搭載した、日野RA900P(1969年)は先進性と性能に優れ、夜行高速バスの先駆車として、1980年代まで国鉄 東名高速バスの主力として活躍した。

その一方で、1973年と1979年のオイルショックにより原油が高騰。また、深刻化する大気汚染が社会問題となり、高速バスにおいても環境対策が急がれる時代になった。特に「国鉄専用形式」という、特殊な高速性能が要求されない一般の高速観光バスでは、省エネ効率や快適性が重視され、大きな進化が始まっていた。

画像: バスボディの革命! 1977年にスケルトン構造のRS120P(下)が登場。従来のモノコック構造のRV系(上)と併売された。

バスボディの革命! 1977年にスケルトン構造のRS120P(下)が登場。従来のモノコック構造のRV系(上)と併売された。

もっとも大きな転機は、1977年に日野が発売した国産初の「スケルトン構造」のバスといえる。初期のバスのボディは、大型トラックのはしご型フレームに箱型フレームを組み、鉄板や木板をリベットやネジで接合したものだった。

やがて航空機からのフィードバックで、車体全体を細めの骨組みで構成し、そこに強度のある金属板(外殻)をリベットで止める「モノコック構造」が主流となった。シャシとボディを一体化して、必要な強度を持たせた「張殻構造」は、飛行機やバス、電車など多くの輸送機器で採用された。厳密には異なるが、現在も乗用車やレーシングカーもモノコック構造だ。

モノコックボディのバスは、記憶にある読者諸氏も多いだろうが、外板がリベットで止められ、屋根が丸く、窓枠も丸い縁取りの形状だった。利点ははしごフレームより圧倒的に設計自由度が大きく、軽量化できること。重心を下げ、振動も抑えやすく乗り心地が良いことだった。この構造は、1970年代末期まで主力だったといえる。

そして現在の主流「スケルトン構造」は、アルミやFRPボディのレーシングカーでも見られる「バードケージ(鳥かご)構造」の進化型だ。ボディは細めの鋼管を張り巡らして構成し、薄い外板で覆う。外板に強度を求めない骨格構造である。

モノコック構造と違い外板は単なる覆いなので、一層設計の自由度が大きくなり、軽量化できたため、ダブルデッカー(二階建て)やハイデッカーという背の高いバスが容易にデザインできるようになった。外観から見えない箇所でスポット溶接された大きな外板や、ギリギリまで大きくなった窓ガラスで構成されたボディは、滑らかで美しく、室内も広く快適になり、空気抵抗も減少させることができた。

画像: 1977年ごろのRSやRVに搭載された、主力エンジンのEF300。14.2L V8で295ps/2400rpmを発生。

1977年ごろのRSやRVに搭載された、主力エンジンのEF300。14.2L V8で295ps/2400rpmを発生。

パワーはそのまま、ダウンサイジングで超高効率を誇るミニマム モンスター

スケルトンボディが普及するのと同時に、ディーゼルエンジンの排出ガス規制は段階的に厳しさを増してくる。乗用車用ガソリンエンジンの排出ガス規制が一段落し、大型ディーゼル車の黒煙が目立ってきたからだ。ディーゼルエンジンの排出ガス規制は数年ごとに強化されるが、当初は触媒や、電子制御燃料噴射装置など燃焼効率の最適化でしのいでいた。また、夜行高速バスの増加と、ハイデッカーなど大型化する車体。その快適装備で不足しがちな出力は、排気量の大型化で対処するようになっていた。

出力重視で競合メーカーを意識していたエンジンの大型化は、1990年代の初代セレガシリーズの頃にピークを迎える。初代セレガの主力エンジンはF20C型、19.7L/V8 SOHC 32バルブで370ps(さらに400ps級のF21Cも存在した)。

2005年に2代目セレガが登場するとすぐ、「黒煙を撒くディーゼル車を禁止する」という規制(2005年)が実施される。加えて国内経済が低迷期に入ると、環境保護と省エネ化が最優先の時代になる。世界的にも強化される排ガス対策と省エネ要求から、新型セレガではA09C型エンジンが主力になった。360psという出力は、初代東名高速バス(1969年)や初代セレガ(1990年)と大差ない。

画像: 最新の排ガス浄化システム。左半分がディーゼル微粒子捕集フィルタ=DPR。右半分が尿素噴射による窒素酸化物分解装置=SCR。

最新の排ガス浄化システム。左半分がディーゼル微粒子捕集フィルタ=DPR。右半分が尿素噴射による窒素酸化物分解装置=SCR。

しかし、排気量は半分以下の8.9L 直6にまでダウンサイジングされている。この超高効率を可能にしたのがターボと燃料噴射装置だ。シングルでありながら無段階可変ノズルターボと、燃料ガスを金属チューブに最高2000気圧という高圧で蓄圧し、最適噴射するコモンレール燃料噴射方式を採用する。

一方、黒煙=微粒子物質(PM)は触媒で浄化された排出ガスからフィルターで捕集し、その集塵物を燃焼させるDPRを搭載。PMの浄化後、NOx=窒素酸化物を尿素水ブーストで窒素と水に分解し無害化するSCRを備えている。この結果排出されるNOxは、規制以前(1974年)を100とすると、わずか3。PMは100に対して1以下という数値を達成している。ちなみに、ダカール・ラリーで活躍するレンジャーのエンジンも、A09C型であることを追記しておこう。(文&Photo CG:MazKen)

■F20C(1990年〜) エンジン諸元

●型式:V型8気筒 SOHC 32バルブ
●排気量:19688cc
●燃料供給方式:電子制御燃料噴射システム
●最高出力:370ps/2200rpm
●最大トルク:135kgm/1400rpm
●参考燃費:3.6km/L

■A09C(2005年〜) エンジン諸元

●型式:直列6気筒 SOHC 24バルブ 可変ノズルターボ+インタークーラー
●排気量:8866cc
●燃料供給方式:コモンレール燃料噴射システム
●最高出力:360ps/1800rpm
●最大トルク:160kgm/1100〜1600rpm
●参考燃費:4.95km/L
 平成28年排出ガス規制に適合

※排ガス規制年度により仕様は異なる

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