日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第13回は、いすゞ エルガを中心に、その進化とふだんは気づかない大型路線バスのスーパーメカを紹介していこう。(今回の記事は、2017年10月当時の内容です)

路線バスと高速バスの似て非なる特性とは

画像: タイトル画像:通勤通学であまりに見慣れた、いすゞのエルガ シリーズ。現行型はH28排ガス規制と省エネを達成したLV290N3。全車4HK1-TCH型という5.4L 直4の超小型・超高効率エンジンを採用している。

タイトル画像:通勤通学であまりに見慣れた、いすゞのエルガ シリーズ。現行型はH28排ガス規制と省エネを達成したLV290N3。全車4HK1-TCH型という5.4L 直4の超小型・超高効率エンジンを採用している。

今連載の第8回で現代の高速バスを紹介したが、路線バスは身近な割に知られていないメカではないだろうか? 今回は日常の足、大型路線バスを紹介しよう。

最初に、第8回で登場した日野自動車と今回紹介するいすゞ自動車のバス製造部門は、2004年に合併しジェイ・バス株式会社を設立している。日野が観光バス/高速バスを、いすゞが路線バスを担当して互いにOEM供給している。高速バスの日野 セレガといすゞ ガーラ、路線バスのいすゞ エルガと日野 ブルーリボンは同じ仕様となっている。

1970年代まで高速バス(というより観光バス)は、路線バスをベースにした豪華版でしかなかった。違いは前扉のみの乗降口と前向き4列座席、エアサス、大型の窓ぐらいだろう。しかし1970年代に国鉄の東名高速バスを筆頭に本格的な高速バスが急激に進化すると、路線バスと高速バスはまったく異なるコンセプトで開発されるようになった。

最大の違いは車体形状。高速バスはセミハイデッカー、ハイデッカー、スーパーハイデッカーと高床化を進めた。これは眺望重視=高速道路の防音壁より高い車窓が必要だったからだ。

一方、路線バスは高齢者・障害者でも乗降性を楽にするバリアフリーが求められるようになり、ツーステップからワンステップバス、ノンステップバスと、路面(歩道)とバスの床面の段差をなくす低床化が進んだ。また路線バスに強い加速力や最高速は不要で、発進・停止はできるだけスムーズでなくてはならない。高齢者の多い日本で優しい発進・停止は必須条件であり、運転手の技量だけの問題ではなくなった。

定速運転時間が極めて短く、短距離で発進・停止を繰り返す路線バスでは、とくに省エネと排出ガスのクリーン化は重要な要素になる。これらの要求をどのようにクリアしたのか、最も代表的ないすゞの路線バスで進化を見てみよう。

ボディ構造の改革から始まった、いすゞによる路線バス革命

画像: 先々代のキュービック シリーズ(1984~2000年)。いすゞ初のスケルトン構造を採用し、低床化と大型窓を実現した先進的(現代的)デザインとなった。画像はH6/KC規制を、ビッグマイチェンで達成した1995年式ワンステップ型。前面が曲面2枚ガラスのタイプもある。

先々代のキュービック シリーズ(1984~2000年)。いすゞ初のスケルトン構造を採用し、低床化と大型窓を実現した先進的(現代的)デザインとなった。画像はH6/KC規制を、ビッグマイチェンで達成した1995年式ワンステップ型。前面が曲面2枚ガラスのタイプもある。

もっともポピュラーなバスメーカーといえる「いすゞ」は、1984年に画期的な路線バス「キュービック」を発表している。いすゞでスケルトン構造を初めて採用したバスである。

前回紹介した、高速バスの日野 RS120P(1977年)がスケルトン構造の国産1号だが、いすゞが路線バスと高速バスをスケルトン構造にしたのは、キュービックとスーパークルーザーからだった。キュービックは車体設計自由度の高いスケルトン構造により、現代的な大きな窓を採用しただけでなく、本格的低床バスの時代を開拓した。

この頃のサスペンションはまだリーフスプリングが多かったが、エアサスの導入により、ワンステップ車・ノンステップ車、車体を傾けて乗降口側を下げるニーリング機構が次々と採用された。

画像: キュービックに搭載された8PE1-S型エンジンは、規制クリアのため15.2L V8で285psと、いすゞ史上では最も大排気量・大出力だった。

キュービックに搭載された8PE1-S型エンジンは、規制クリアのため15.2L V8で285psと、いすゞ史上では最も大排気量・大出力だった。

2000年、初代エルガにフルモデルチェンジするとエアサスが標準仕様となり、ニーリング機構付きワンステップ型とノンステップ型となった。2015年登場の2代目エルガはノンステップ型のみで、路面から車内床面までは335mm、乗降時左側に265mmまで下がる。ちなみに最低地上高は乗用車顔負けの130mmしかない。

路線バスは高速バスほどパワーは必要ないと言っても最高速度は120km/hは出るし、路線には急坂路線という難所が存在する。代表的なのが神戸市の六甲周辺や、長崎市内を走る路線。この路線の急坂をスムーズに運転できることが、路線バス向けエンジンの基準とされているそうだ。

排気量・パワー的にピークだったのは、1995年式キュービックに平成6年排出ガス規制をクリアするため搭載された8PE1-S型エンジンで、V型8気筒15.2Lから285psを発生した。このエンジンは従来の直6よりコンパクトだったため、低床化&ノンステップ化にも貢献し、初代エルガの2004年式まで長く搭載された。

画像: ノンステップ構造のイメージ図。スケルトン構造とエアサスの導入で、335mmという低床が実現した。乗降時はエア調整で、265mmまでニーリングする。現行モデルはすべてノンステップ。

ノンステップ構造のイメージ図。スケルトン構造とエアサスの導入で、335mmという低床が実現した。乗降時はエア調整で、265mmまでニーリングする。現行モデルはすべてノンステップ。

2017年からエルガ全シリーズに搭載された4HK1-TCH型は、なんと直列4気筒 5.2Lまでダウンサイジングされている。大幅な小型化を可能にしたのが、低回転域/高圧段ターボと高回転域/低圧段ターボを制御する2ステージターボと、電子制御式コモンレール燃料噴射システムだ。出力を維持しながら、より厳しい平成28年排出ガス規制や燃費基準をクリアしている。エンジンの大きさは比較しにくいが、車体最後部のエンジンルームで見た場合、2017年式と前年式では350mmも短くなっている。

現行型では、この他にもボタン操作式6速ATや自動/手動切替式6速AMT、停車維持装置、フルエアブレーキなど、運転手の負担軽減につながる新機構が装備されている。路線バスは、限りなく優しいモンスターとして進化している。(文 & Photo CG:MazKen)

画像: 運転手の疲労軽減のため、AT化率は着々と進んでいる。国内路線バスの大半はセレクトレバーではなくアリソン製ボタン型。もしレバー型を見かけたら、AMT=自動変速マニュアル式かもしれない。

運転手の疲労軽減のため、AT化率は着々と進んでいる。国内路線バスの大半はセレクトレバーではなくアリソン製ボタン型。もしレバー型を見かけたら、AMT=自動変速マニュアル式かもしれない。

■8PE1-S型(1995年〜2004年)エンジン 諸元

●型式:V型8気筒 OHV
●排気量:1万5201cc
●燃料供給方式:電気タイマー制御式燃料噴射システム(TICS)
●最高出力:285ps/2300rpm
●最大トルク:102kgm/1400rpm
 平成6年排出ガス規制適合

■4HK1-TCH型(2017年〜) エンジン諸元

●型式:直列4気筒 SOHC 2ステージターボ
●排気量:5193cc
●燃料供給方式:電子制御式コモンレール燃料噴射システム
●最高出力:240ps/2400rpm
●最大トルク:75kgm/1400-1900rpm
 平成28年排出ガス規制適合

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