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バレンシアサーキットを拠点に開催された国際試乗会。911カレラS、911カレラ4Sが多数揃えられた。
これは新しいスポーツカーのベンチマークだ
このクルマは試乗するたびに「いつかは……」と思わせる。ポルシェ911のことである。今回も新型911の国際試乗会に参加してそうした気持ちになった。「きっと、いつかは……」
そう考えるクルマはそれほど多くないし、たとえば当時はそう思っても世代が変わって新型になったらがっかり。「もういいや」、と100年の恋も冷めるような変貌ぶりだったりすることもあるのだが、911だけは新しくなるたびにその想いを強くさせる。そして今回もそう思ったのだ。
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ポルシェトラックプレシジョンアプリも用意され自分のラップタイムがスマートフォンで確認できる。
911は、第8世代となった。伝統と革新が融合された新型は、古い911、なかでもGシリーズをオマージュして随所にそれを彷彿とさせるデザインアイコンを盛り込んでいるが、最新世代の911としてその名に恥じない革新的な技術も採用している。
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国際試乗会には初代から7世代目のタイプ991までが勢揃いした。どの世代もひと目で911だとわかる。
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路面に散水した特設コースでは「ウェットモード」をテストした。手動でこのモードを選びコースインすると、後輪駆動のカレラSでも驚くほど安定した走りを見せてくれた。
ポルシェが開発した世界初の機能「ウェットモード」の効果は絶大
それはウェットモードであり、ミックス素材を使用した軽量ボディ構造であり、改良されたエンジンであり、熱探知カメラを採用したナイトビジョンなどの先進の運転支援機能だったりする。それらの詳細は前号(Motor Magazine2月号)のテクノロジーワークショップレポートで紹介しているのでここでは省略するが、実に革新的なクルマに仕上がっているのである。
試乗メニューは、一般道、ウェットモード体験、サーキットの3パートにわかれていた。最初にカレラSのハンドルを握ってバレンシアサーキットの外へ出かけた。
見るからに小型化された8速DCT(PDK)のギアセレクターを、最初に見たときには驚きを隠せなかったが、すぐに慣れた。またこのお陰でカップホルダーのスペースが確保されるなど室内の快適性能は格段にアップしいることも乗り込んですぐに確認できた。
ところで走行中のギア選択はクルマ任せもできるが、走行中は自分の使いたいギアを選ぶためパドルシフトを操作する。その操作フィールもとても気持がいい。触り心地、クリック感、そのストロークなど、ポルシェはこうしたパドルひとつにも、使う人がどう感じるのか、どうすれば気分が盛り上がるのかなどにこだわり抜いた開発が行われているのだろう。
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エアインテーク中央はレーダーセンサー。ほかにもカメラやセンサー類により運転支援機能を充実させている。
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新設計の水平対向6気筒エンジンの姿は見えない。2つのターボチャージャーはタービン径を3mm拡大。
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エアロダイナミクス向上のためドアに一体化されたアウタードアハンドル。キーを持って接近すると開く電動式。
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走行モードに応じて3つのポジションに変化する新型のリアスポイラー。空気が流れる面は25%拡大している。
一般道の試乗コースは、高速道路、街中(道幅の狭い場所もかなり有り!)、ワインディングロードなどが設定されている。走り出して驚いたのがその軽快なフットワークと乗り心地だ。実に快適なのである。スポーツカーでありながら実用性も備えているのが911の特徴だが、それが見事に実現されている。
これなら毎日でも乗ることができる。いや毎日乗っていたい。街中や荒れた路面でもコンフォート、しかしワインディングロードや高速道路に入ればスポーツカーの本領を発揮する。足下をみればフロント20インチ、リア21インチのタイヤを装着するが、それでいてこれほど快適なのだから脱帽だ。
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乱暴なハンドル操作をしてもウェットモードの効果で車体がすぐに安定する。
ウェットモードテストは、サーキット内の併設されたショートコースに水が撒かれて体験できた。カレラSで、ウェットモードスポーツモード→ウェットモードの各モードを3ラップずつ行い、その性能を確認した。
このモードは、ポルシェが開発した世界初の機能で、ホイールハウス裏側に付けられた音響センサーが路面から舞い上がる水滴の音を感知することでスタビリティやトラクション、エアロダイナミクスが最大限の走行安定性を確保するよう作動する機能である。
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トランスミッションは911初搭載となる8速DCT(PDK)。そのギアセレクターはかなり小型化されている。
実際にウェットモードでコースインすると、かなり乱暴なハンドル操作をしてもクルマがすぐにボディを安定させるよう各デバイスが働いているようである。その効果は絶大だと言えるだろう。これなら4WDシステムがなくても安心してウェット路面を走ることができそうだ。
サーキットを走る楽しみがさらに増幅されている
そしていよいよサーキット試乗。先導車(GT3RS!)について行くのだが、これがとても速い! そこまで攻めるのか、と思っていたが、実はこれ、ポルシェトラックプレシジョンアプリ用にラップタイムも計測していたので先導車も後ろに続くカレラSのタイムを縮めるため、攻め込んでいたようだ。ちなみにそのラップタイムは、スマートフォンに転送することができあとから確認できる。
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トランスミッションは8速DCT(PDK)に進化。マニュアルトランスミッションの導入も今後は発表されるはずだ。
それにしてもこの高い安心感はどこからくるのだろうか。サーキットを自分の限界を超えるほどの速さで走っているにもかかわらず恐怖を感じない。相当速くサーキットを走ったがそれが実に楽しいのである。それはすべてカレラSだからこそだろう。911はやはりサーキットを走ってこそのクルマだと実感した。
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写真のカレラSは、後輪駆動モデルで0→100km/h加速3.7秒(スポーツクロノパッケージ装着車は3.5秒)、最高速度は308km/hに達する。
心臓部の水平対向6気筒ツインターボエンジンは、燃料噴射プロセスが改良され、ターボとインタークーラーの配置が変更され、さらにはエンジンマウントの位置が約前方に位置するサイドビームに直接組み込まれるようになった。
これによりシャシに伝わるエンジンの揺れと振動が大幅に軽減されている。30ps&30Nmの出力&トルクの向上分は実感できなかったが実に刺激的なエンジンである。さらに特筆すべきは、ターボラグをほとんど感じさせない自然吸気のような回転フィールを持つ、というところである。
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現在日本市場向けに価格が発表されているのはカレラSとカレラ4S、そしてそれぞれのカブリオレモデルだ。
いつまでも乗っていたいと思わせる新型 911
またリアブレーキのディスク径は330mmから360mmに拡大されるなど従来から高評価を得ているブレーキシステムもさらに強化されている。こうしたことも高い安心感に繋がっているのだ。
そろそろ試乗時間も終わりに近づいてきた。至福の時間も残り少なく、テストカーをスタッフに返却しなければならないのだ。「あぁもっと乗っていたい。ハンドルを握っていたい。まだまだ走っていたい」そう本気で思っていた。こんな気持ちになるのはそれだけ911の奥が深いということだ。
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中央のアナログ式レブカウンターを挟むように左右に2つのフレームレス自由形ディスプレイを配置している。
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10.9インチセンターディスプレイ下に配置される5つのクラシカルなトグルスイッチ。真ん中はハザードスイッチだ。
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フロント20、リア21インチのミックスタイヤを装着。リアブレーキディスク径も330mmから350mmに拡大した。
とても好印象だった新型911だが自分のベストチョイスを試乗しながら考えていた。モデルはカレラSでボディカラーはアゲートグレーメタリック、インテリアカラーはブラックのレザー、右ハンドル、オプションはACCとスポーツクロノパッケージ、フロントリフトシステムにカレラクラシックホイールという仕様だ。
妄想は膨らむばかりだが、予算に余裕があれば、BOSEサラウンドサウンドシステムやシートベンチレーションも装着したい。
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世界中の過酷な環境の中で走行テストが繰り返された8世代目のポルシェ911。その温度差は最大85℃、標高差は4000mを超え、走行距離は300万kmに達したという。
さて、こうした自分なりの仕様を作り上げる楽しみもある911だが、日本仕様の価格もすでにポルシェジャパンから発表されている。カレラSは1666万円、カレラ4Sが1772万円となっているが、どちらも日本で試乗できる日が今から楽しみでならない。
■ポルシェ カレラS 主要諸元
●Engine:種類 水平対向6気筒DOHCツインターボ、総排気量 2981cc、最高出力 331(450)kW(ps)/6500rpm 、最大トルク 530Nm/2300-5000rpm、燃料・タンク容量 プレミアム・64L、燃費 総合 11.2km/L 、CO2排出量 205g/km ●Dimension&Weight:全長×全幅×全高 4519×1852×1300mm、ホイールベース 2450mm、車両重量 1590kg、ラゲッジルーム容量 132L ●Chassis:駆動方式 RR、トランスミッション 8速DCT(PDK)、ステアリング形式 ラック&ピニオン サスペンション形式 前ストラット/後マルチリンク、ブレーキ 前Vディスク/後Vディスク、タイヤサイズ 前 245/35ZR20 後 305/30ZR21●Performance:最高速 308km/h、0→100km/h加速 3.7〔3.5〕sec. ※EU準拠、〔〕はスポーツプラス装着車