アウディお得意のTDIテクノロジーを日本初導入
アウディジャパンがディーゼルの導入を計画し始めたのは、僕が知る限りでは6・7年前に遡る。当時、輸入車ではメルセデス・ベンツがブルーテックと銘打ち、SUVだけではなくパッセンジャーカーにもディーゼルエンジンの幅を広げており、日本車でもマツダがスカイアクティブDを搭載したCX-5を発売していた。
ちょっとしたディーゼルムーブメントの中、アウディが18番のTDIテクノロジーを日本市場でも……と考えたのは当然だろう。
だが、数的確約なくして排出ガス規制適合の微妙なキャリブレーションにドイツ側のエンジニアを動かすのは大変で……といった内的理由も重なっていたところに、ディーゼルゲートと呼ばれる問題が噴出するなど、ここに至るまでは様々な障害があった。
日本のユーザーの中には、その時点でディーゼルエンジンに対する期待値が下がり、あるいは昨今の情勢をみてディーゼルの未来は暗いと思われたかもしれない。それでもはっきりとディーゼルエンジンを推す僕の意見は後の項で記そうと思う。
そんなこんなでようやく日本でも日の目を見ることになったアウディのディーセルは、まずQ5に搭載された。TDIは本国のグレード表記と同様、2L直4コモンレール直噴ターボのハイパワーバージョンという位置づけで、190ps/400Nmを発生する。先に発表されたフォルクスワーゲンパサートのディーゼルと同じEA288系として、ローカライズプログラムを共有化していることは間違いないだろう。
ただし仕様が大きく異なるのは、Q5はエンジンが縦置きなこともあって、トランスミッションが6速ATのパサートに対してQ5は7速Sトロニック、つまりデュアルクラッチ式が搭載されている。そこに比してドライブトレーンも別物のレイアウトとなる。
パサートにはオールトラックという背高4WDモデルもあるが、こちらがハルデックスカップリングを用いるのに対して、Q5は電子制御式クラッチをリアデフ側に備え、燃費走行を意識した完全100:0のFF状態から4WDへと200ミリ秒という短時間で移行する仕組みだ。
その駆動環境は常に変異し、舵角やG変位に応じて挙動を予測し、スタンバイするフィードフォワード制御も加わっている。ちなみに同じEA288系を搭載するパサートオールトラックのJC08モード燃費は17.3km/L、対してQ5は15.6km/Lとなっている。イニシャルで200kg近く重いことを加味すれば、納得できる燃費だろう。
魅力的な価格、高い経済性能、そしてトルクフルな走り
アウディジャパンではこの40 TDIを実質的にQ5のエントリーグレードに位置づけているらしく、価格も636万円〜と戦略的な設定となっている。同等グレードと目されるガソリンエンジン版との価格差は55万円安く、イニシャルコストで比べるならば、もうガソリンモデルの立場はないとさえ思わされるほどだ。
Q5のガソリン版となるTFSIクワトロはEA888系の2L直4ターボを搭載、その最高出力は252ps、最大トルクは370Nmを1600rpmから発生する。ちなみにスペック的にはポルシェマカンのベースグレードと同等だ。
最大トルクの値はやや劣るものの、その回転発生域はディーゼルモデルよりも低いうえ、トランスミッションもダイレクト感に富んだDCTを採用することもあって、Q5はガソリンモデルでも低回転域から十分に快活な走りをみせてくれる。
巡航などの低負荷な走りで捕まえているエンジンの回転域もディーゼルと大差ない。ディーゼルモデルも音、振動は相当上手に封じ込めているが、いわゆる日常域での上質感的なところ、そして高速域でのエンジンを回して走る気持ちよさなどはガソリン版の方に分があるだろう。
一方ディーゼルエンジンは、その豊かな中間トルクを活かして緩やかな加速をともなう速度調整などで、キックダウンなどのビジー感が抑えられる。そしてガソリンモデルのJC08モード燃費よりカタログ値で1割強上まわる低燃費は、公道でさらなる差となってメリットをもたらすだろう。
露骨なまでの性格差はないにせよ、Q5のキャラクターを思えばディーゼルエンジンを選びたくなるのは僕だけではないはずだ。(文:渡辺敏史)
■アウディQ5 40 TDIクワトロスポーツ主要諸元
●全長×全幅×全高=4680×1900×1640mm
●ホイールベース=2825mm
●車両重量=1920g
●エンジン=直4DOHCディーゼルターボ
●排気量=1968cc
●最高出力=190ps/3800-4200rpm
●最大トルク=400Nm/1750-3000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT
●価格=657万円(税込)