ホンダ初の4ドアセダン、その動力性能はピカイチだった
ホンダ 1300 99S:昭和44年(1969年)5月発売
ホンダN360の衝撃的デビューでたちまち軽乗用車市場に地歩を築いた本田技研が、さらに小型乗用車市場への本格的な進出を狙って、1969年(昭和44年)5月から発売したのが独創的なメカニズムを盛り込んだホンダ1300である。N360の登場から、わずか2年2カ月後のことであった。
ボディは4ドアセダンのみで、駆動方式はN360と同様のFF。強制空冷のDDAC(デュオ・ダイナ・エア・クーリング)システムを採用した4気筒SOHC、1298ccのエンジンをフロントに横置き搭載した。
このエンジンは1968年シーズン用に開発されたホンダのF1マシン、RA302と空冷という点で設計思想が同じ、といわれた。
このセダンにはシングルキャブで100psエンジン搭載の77シリーズと、4キャブで115psエンジン搭載の99シリーズがあり、最高速は77シリーズで175km/h、99シリーズでは185km/hと、いずれも1300クラスではケタはずれの動力性能を発揮した。N360同様の高回転、高出力型エンジンを前面に押し出しての登場であった。
99Sはタコメーター、キャップなしのデザインホイール、砲弾型ミラーなどを装備したスポーティモデルだが、エンジンは他の99シリーズと変わらない。
抜群の動力性能で注目を浴びたエンジンも、発売から7カ月後の1969年12月にはシングルキャブ仕様は95psに、4キャブ仕様は110psにそれぞれデチューンされている。「中低速トルクを重視した手直し」がその理由とされたが、エンジンとシャシのマッチングに問題があった、という見方もある。
1970年2月、セダンをベースにしたノッチバックの2ドアクーペを追加。丸型2灯のセダンに対してクーペは丸型4灯のデュアルヘッドライトを採用、2分割フロントマスクも精悍さを際立たせた。
シングルキャブの95psエンジン搭載車はクーペ7、4キャブの110psエンジン搭載車はクーペ9と呼ばれた。
空力的にもすぐれたクーペボディによって最高速はデチューンしたエンジンでもクーペ7で175km/h、クーペ9では185km/hをマークした。セダンの最高速はエンジンのデチューンにともなって77系は170km/h、99系は180km/hにダウンしていた。
1970年11月のマイナーチェンジでセダンは4キャブの99シリーズを廃止、シングルキャブの77シリーズのみとし、車名もホンダ77と改められた。
クーペは半年ほど遅れて1971年6月にマイナーチェンジ。セダンと同じフロントマスクのゴールデン・シリーズと、クーペの2分割グリルを残したダイナミック・シリーズに変わった。
エンジンはダイナミック系の最上級グレードのみに4キャブの110psエンジンを残したほかは、すべてシングルキャブとなった。
ハイパワーとハイスピードで注目を浴びたものの売れゆきは低調で、車名もめまぐるしく変わったホンダ1300だったが、1972年11月にはエンジンを水冷4気筒SOHC1433ccのEB5型に換装。丸型ヘッドライトを角型に改めるなどデザインを一部手直ししたセダンとクーペにこのエンジンを載せ、車名もホンダ145と改称して再スタートした。
EB5型はこの年の7月から発売されたシビックのEB1型1200のスケールアップ版で、一転して低回転、高出力型となっているのが注目された。シングルキャブで80psが中心だが、高性能モデルのクーペF1にのみメカニカル燃料噴射で90psを発生する高出力型を搭載した。
だがこの145も人気はいまひとつで、1973年11月にセダン、翌1974年11月にはクーペの生産が打ち切られた。シビックが生まれる前駆的モデルともいえた。
画期的な空冷F1エンジンはレースでは残念な結末に終わったが、空冷エンジンでスタートしたホンダ1300もヒットモデルとはなりえなかった。奇妙な運命の符合だった。
ホンダ 1300 99S 主要諸元
●全長×全幅×全高:3885×1465×1345mm
●ホイールベース:2250mm
●重量:895kg
●エンジン型式・種類:H1300E型・空冷 直4 SOHC
●排気量:1298cc
●最高出力:115ps/7500rpm
●最大トルク:12.05kgm/5500rpm
●トランスミッション:4速MT
●タイヤサイズ:6.2H-13-4PR
●価格:68万円