V6エンジンと電気モーター3つの最先端ハイブリッドシステムに超精密制御の4WDを搭載したハイテクスポーツと、プリミティブかつピュアなスポーツカーの代名詞を欧州で比較テストした。(Motor Magazine 2019年8月号より)
画像1: 【対決試乗】ホンダNSXとポルシェ911カレラSカブリオレの乗り比べで見えてきたスポーツカーの未来像

ハイテクと伝統のスポーツカーを比較テスト

ミッドシップでハイブリッド、しかもフルタイム4WDのハイテクスポーツカーと、プリミティブなガソリンエンジンを、リアに搭載したちょっとクラシックテイストなスポーツカーの比較テストは、ちょっと荒っぽい異種格闘技のように思えるかも知れない。

だが、近未来のピュアスポーツカーの存続を考えた時に、私がぜひともやってみたいと思っていた企画である。かつて、ポルシェの社長であったヴェンデリン・ヴィーデキング氏は「もし世の中から自動車が消滅するとしても、スポーツカーは生き残るでしょう」と言ったが、果たしてそのとおりだろうか。昨今の環境保護を重視する風潮の中で、自動車に対する厳しい目はポルシェ、とくにいまだにハイブリッドシステムを持たない911の存続に、疑問を投げかけていることは確かなのだ。

ちなみに、今回試乗した911カレラSカブリオレは最新のタイプ992。対するホンダNSXはフェイスリフト以前のモデルであることをあらかじめ報告しておこう。このテストを行った時点では、ヨーロッパにはまだニューモデルが到着していなかったためだ。

画像: スポーツカーの理想形といわれるポルシェ911。タイプ992でもさらなる進化を見せている。

スポーツカーの理想形といわれるポルシェ911。タイプ992でもさらなる進化を見せている。

それぞれに個性的ながら、前方視界の良さは共通

まずはルックス。ことさら趣味性の高い評価項目だが、スポーツカーの場合はとくに好き嫌いがはっきりしてしまう。NSXはまるで稲光が落ちてきて固まってしまったような、エッジの効いたボディデザインから成り立っている。ミッドシップ特有のキャビンフォワードであるが、先代と同様に前方の視界、見切りが良く、街中での取り回しが優れている。ただし斜め後方は文字どおり死角で、ブラインドスポットウォーニングシステムの装着が望ましい

一方、チーフデザイナーのミヒャエル・マウアー氏が指揮する911カブリオレのデザインは、911シリーズが誕生して以来年以上ほとんど変わらないアイコンの塊だ。もちろん、992型では新たな変化も試みられている。たとえばリトラクタブルドアハンドル、パナメーラやタイカンなどに通じるフロントエンドのアレンジなどが挙げられるが、あまり高い評価を受けてはいない。2+2のボディはNSXに劣らず視界が良く、後方の死角も少なくブラインドスポットシステムのおかげで安心感は高い。

インテリアもまた、デザインを含めて「趣味」の問題ではある。だがこと人間工学的な機能性、合理性やコストパフォーマンスという視点で見ると、NSXは911に対して、劣っているように思えた。たとえばシートの高さを調整することができなかったりサンバイザーにバニティミラーがない、などに始まって、細かな点を言えばエアコンの温度調整も1度ごとで、0.5度が表示されない。またキャビンの各所に見られる青龍刀のような形状の太いアルミ素材も意味不明で、パッセンジャーを落ち着かせない。

一方、911はドライバーの正面にある5連丸形メーターの両脇がステアリングホイールに隠れるという伝統的な欠陥があるにせよ、すべてが見やすく、操作系も迷うことがない。またNSXとは違ってシートの調整は自由にできるし、形状も優れている。

ただし、911というかポルシェ全体の問題はインテリアの耐久性で、とくにルーフ内張のウレタンの接着に強度のあるエステル系接着剤を使用するが、これは湿度の高い日本などでは年を待たずに加水分解してボロボロになってしまう。一方ホンダは、エーテル系を使っているのでそんなことはない。こうした仕向け地によるキメの細かな対策は、プレミアムブランドにとって大事な項目だと思う。

画像: 素晴らしく快適で使いやすいホンダNSX。長距離ランでも疲れ知らずだ。

素晴らしく快適で使いやすいホンダNSX。長距離ランでも疲れ知らずだ。

911は走行安定性が向上。日常的にも使いやすいNSX

NSXは排気量3493cc、V6ガソリンツインターボエンジンが最高出力507ps(373kW)、最大トルク550Nmを発生。加えてエンジン直結のモーター(35kW/148Nm)と、フロントの左右に2基(27kW/73Nm)の、合計3基の電気モーターが組み合わされている。そのシステム出力は581ps、トルクは646Nmである。当然4輪駆動で、9速DCTが組み合わされており、独自のトルクベクタリングシステムも装備されている。0→100km/hの加速は3.5秒、200km/hまでは11.9秒、最高速度は308km/hに達する。

911は水平対向6気筒ガソリン直噴ツインターボエンジンで、排気量は2981cc、最高出力は450ps(331kW)、最大トルクは530Nmで8速DCTと組み合わせた最高速度は306km/hに達する。走行フィールは今回のモデルでワイドになったフロントのトレッド、そしてややダイレクト感を増したステアリングフィールのおかげで、走行安定性の向上と同時にコーナリング性能も向上している。911は「リアに搭載されているエンジン」のおかげで、絶えることのない改良が積み重ねられ、常にスポーツカーの基準となるようなハンドリングとダイナミック性能を実現してきた。

さて、NSXのドライビングフィールだが、意外に良かったのは市街地など、日常走行における取り回しであった。シート高の調整はできないものの、それ自体の形状はすばらしく快適で、長時間のドライブにも疲れなかった。またミッドシップにもかかわらず後方からのノイズの侵入はミニマムに抑えられている。この意味ではNSXは、騒々しいケイマンは言うに及ばず、ランボルギーニガヤルドよりも日常性は高く、アウディR8といい勝負だった。

速度制限の解除されたドイツのアウトバーンでは、心行くまで超高速性能の確認ができた。このハイパフォーマンススポーツカーにとって理想的な環境下では、とりわけ、まるで磁石のように路面にへばりつくようなロードホールディング、直進性が印象に残った。

実はダイナミック走行ではNSXに対して先入観をもっていた。というのも私はこれまで主に発売直後のモデルをテストしていたので、唐突な電気モーターの介入と独特のトルクベクタリングの動きが不自然で、カーブを回る時にまるで角があるように感じられ、スムーズなトレースができなかったという経験があったからだ。

それが今回の試乗では大いに改善されており、カーブでの非常にスムーズなコーナリングが可能で、驚いてしまった。さらに聞けば今回のフェイスリフトでは、この不自然な挙動がまったくなくなったという。新型による、次のテストを大いに期待したい。

画像: 水平方向に配された直線基調のラインが、硬質感を漂わせる。操作形は比較的シンプルな印象。

水平方向に配された直線基調のラインが、硬質感を漂わせる。操作形は比較的シンプルな印象。

エミッションという命題に真摯に取り組んだホンダ

ハイブリッドそしてトルクベクタリングなど満載したホンダ NSXは走りの質には、新しさはあるものの、やはり熟成不足の唐突感が残されていた。しかし全体的に見て2トン近い自重にもかかわらず、乗り心地に関しては前述したように予想以上の快適性を示してくれた。

「クワイエットモード」におけるエミッションフリー走行は、たとえ距離は短くてもローカルエミッションの低減に貢献するし、電気モーターによるアシストは当然、燃費とCO2排出量の低減に貢献する。この点では今後のスーパースポーツカーがどうあるべきかを示すパイオニア的な存在だ。ただしエクステリアデザインは趣味の問題としても、コクピットの質感、使用素材、仕上げ品質、そして雰囲気など、ハイエンドスポーツカーとしてのオーラがないのは今後の課題だ。

画像: インターフェイスのデザインイメージは、強固な骨格。アルミ押出材のビームなど軽量化にも配慮。

インターフェイスのデザインイメージは、強固な骨格。アルミ押出材のビームなど軽量化にも配慮。

一方、ポルシェは現代のスポーツカー、とくに日常にも使えるスポーツカーとしては非常に優秀で、この意味では間違いなくNSXを上回っている。しかし、今回の911カレラSに関してはとくにデザイン面で、コーポレーテッドカラーを強く求めた結果、ちょっとやり過ぎ感があったのも確かである。

さらに電気モーターによるアシストを持たないポルシェは、将来的には課題を残していることは間違いない。ゆえにこのモデルで、トランスミッションとエンジンンの間に余裕がある8速DCTを選択して装備したわけだ。 

これまで長い間911シリーズのプロジェクトリーダーであったアウグスト・アハライトナー氏は、「ホンダNSXは私にとって、非常に指針となるスポーツカーでした。まず初代モデルは、我々ポルシェが存続の危機に陥っている時に登場し、スポーツカーはまだ行けるというチャンス、示唆を与えてくれました。おかげで964そして993の開発に励みが出ました。」と語っている。

その上で「そして今回のハイテックハイブリッドNSXは、もし911がハイブリッド化される時にはこのような解決策もあるという規範になってくれました」とまで、話しているのだ。ホンダNSXはスポーツカー作りの大御所からも、高い評価を得ていたのである。(文:木村好宏)

試乗記一覧

■ホンダNSX主要諸元

●全長×全幅×全高=4487×1939×1204mm
●ホイールベース=2630mm
●車両重量=1776kg
●エンジン=V6DOHCツインターボ
●排気量=3493cc
●最高出力=507ps/6500-7500rpm
●最大トルク=550Nm/2000-6000rpm
●モーター最高出力=37ps/48ps
●モーター最大トルク=73Nm/148Nm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=9速DCT

■ポルシェ911カレラSカブリオレ主要諸元

●全長×全幅×全高=4519×1852×1299mm
●ホイールベース=2450mm
●車両重量=1660kg
●エンジン=水平対向6DOHCツインターボ
●排気量=2981cc
●最高出力=450ps/6500rpm
●最大トルク=530Nm/2300-5000rpm
●駆動方式=RR
●トランスミッション=8速DCT

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