去る9月12日、「車両の衝撃吸収構造」と題したマツダの特許が公開された。そこに添付された説明文と図版は、FF/4WDを前提としたスモール〜ミディアムクラスのいわゆる「スモールアーキテクチャー」、そしてFR/4WDを想定した「ラージアーキテクチャー」のどちらにも当てはまらないスペースフレーム構造である。このユニークなプラットフォームを採用する可能性があるクルマといえば…やはり、あのクルマしかない!

RX-9発売はいまだ正式な計画には盛り込まれずとも開発は着実に進んでいる

まず、今回公開された特許について簡単に紹介しておく。「車両の衝撃吸収構造」と題されたそれは、車両の前端にボックス断面のバンパービームを備え、衝突時にかかる衝撃エネルギーの大部分をそこで吸収するようになっている。

さらにバンパービームを取り付けたフロントエンドをスペースフレーム構造とすることで、衝突エネルギーを効率的に吸収する構造体としている。量産車でここまでやるクルマはほとんど例がない。

画像: フロント部分は完全なスペースフレーム構造で、サスペンション形式もマツダ・スポーツカー伝統のダブルウイッシュボーンを採用。エンジンコンパートメントがコンパクトにまとめられたフロントミッドシップになっている。(公開特許より)

フロント部分は完全なスペースフレーム構造で、サスペンション形式もマツダ・スポーツカー伝統のダブルウイッシュボーンを採用。エンジンコンパートメントがコンパクトにまとめられたフロントミッドシップになっている。(公開特許より)

注目すべきは、その骨格を形成する部材の張り巡らせ方と、サスペンション形式。アルミ合金製とCFRPによる複数のフレームで連結された車体骨格は、まるでフォーミュラマシンのように複雑に絡み合い、エンジンが収まる(と思われる)スペースは存外に狭い。また、ダブルウイッシュボーン式のサスペンション・アームは、サブフレームも含めアルミ製で、ここでも衝撃吸収を行うように設計されているようだ。

ちなみに公開特許の説明には、「車体前部だけではなく後部の構造にも有効」という一文が見られることから、キャビンを除くフロントエンド/リアエンドともにスペースフレームというレーシーな構造も可能である。

今回の特許では「衝撃吸収構造」にスポットがあてられており、これが具体的に、いつどんな車種に採用されるかは一切触れられていない。しかし、このような高い安全性能の実現とともに思い切った軽量化が期待出来るプラットフォームを使うクルマと言えば、やはり水面下で着々と開発が進む「RX-9」以外には考えられない。コンパクトなエンジン搭載スペースは、ロータリーエンジンの搭載以外には考えづらく、またフロント・ダブルウイッシュボーンサスペンションは、現状ロードスターにしか採用されていない。この足回りもやはりスポーツカーには必須のエレメントである。

画像: 2021年から採用車が登場する直6エンジン+FRの「ラージアーキテクチャー」をアレンジすれば価格も抑えることが出来るが、RX-9はコストよりも車体の軽量化による環境性能向上を目指しているようだ。(RX-9の予想CG)

2021年から採用車が登場する直6エンジン+FRの「ラージアーキテクチャー」をアレンジすれば価格も抑えることが出来るが、RX-9はコストよりも車体の軽量化による環境性能向上を目指しているようだ。(RX-9の予想CG)

あるマツダの関係筋は「RX-9と他車とのプラットフォーム共有化はないようです。RX-9は独立したプラットフォームで作るという認識でいます」と編集部に語ったことがあるが、今回の特許はまさにその言葉を裏付けるものだ。

すでに今年1月には、コンビネーションポートとツインスクロールターボを組み合わせた新たなパテントも取得され、RX-9の開発は非公式ながらも着々と進んでいることがわかっている。ちなみにその開発目標出力は400ps前後だという。

今回、新たなプラットフォームの特許が公開されたことで、そのアウトラインはほぼ見えてきた。即ち、超軽量スペースフレームのボディと400馬力級のロータリーターボ・エンジンの組み合わせだ。世の趨勢が電動車両に向かう中、バリバリの保守本流とも言うべきRX-9だが、それは決して「後退」を意味するものではない。パワートレーンに関心が集まりがちだが、高い環境性能を実現するには超軽量アーキテクチャーも不可欠だ。そういう意味においても、マツダの狙いは実に「先進的」なのかも知れない。

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