BMWセダンシリーズの頂点に立つ7シリーズの中でも、V12エンジンを搭載したトップofトップがM760Li xDriveである。「M」の持つスポーツ性と究極のエレガンスに酔いしれてみた。(Motor Magazine 2019年10月号より)

エクステリアの存在感を際立たせるフロントグリルデザイン

新しい7シリーズのエクステリアデザインを眺めているうちに、バットマンに登場する「ゴッサムシティ」のことを思い浮かべていた。初期型のすっきりとしてどこか優しげな印象が一変し、新型は明確な表情と力強い存在感を手に入れた。その手法は、話題になった大きなグリルや前輪後方のデザインアクセントにも表れているとおり、垂直に切り立った直線重視。そのデザインは前衛的であると同時に古典的でもある。そんなところがゴッサムシティのイメージにつながったようだ。

ちなみに、ゴッサムという言葉は「ゴシック」とも関係があるが、いわゆるゴシック建設の中にも垂直方向のラインを重視したデザインは少なくないように思う。それにしても、近年はワイド傾向が強まる一方だったBMWのフロントグリルが、新型7シリーズとX7では一転して天地方向にそびえ立つデザインとされたことには賛否両論があるようだ。

そこで私は、6月末に行われたBMWのイベントNEXT Genの会場でチーフデザイナーのエイドリアン・ファン・ホーイドンク氏を見かけたおり、その新しいグリルに込められた意図を直接、確認してみることにした。

「私たちはグリルのバリエーションを増やす必要があると感じていました」とファン・ホーイドンク氏は語り始めこう続ける。

「8シリーズのようにスポーティなモデルに関しては低くてワイドなグリルを採用する一方、X7のようにサイズの大きなクルマは縦方向を重視したグリルを選びました。ところで、小さなグリルを備えた従来の7シリーズについては、すでに多くの方々に認知いただいています。そんな7シリーズもモデルライフの後半に入りました。そこで新しい表情を与えて、みなさまに再認識していただくのもいい時期だと考えました。私は、あのデザインによってエクステリアの存在感が一層、強まったと捉えています」

加えてファン・ホーイドンク氏は、今後8シリーズや3シリーズのようにスポーティなモデルは薄くてワイドなデザイン、5シリーズなどはその中間の形状にすると教えてくれた。

画像: 高回転まで回さずにゆったりと高速を流すだけでもV12の魅力を存分に味わうことができる。

高回転まで回さずにゆったりと高速を流すだけでもV12の魅力を存分に味わうことができる。

スポーティとラグジュアリーを融合した最上級サルーン

新しいフロントマスクが与えられた7シリーズの中から今回ピックアップしたのは、フラッグシップのM760Li xDrive。V12エンジンを搭載するのはシリーズ中、M760Liのみとなる。それどころかBMWの全モデルのなかでもV12エンジンが与えられているのはM760Liだけである。それだけ特別なモデルといって間違いないだろう。

ただし、最上級サルーンの最上級グレードを単なるラグジュアリーモデルとせず、「スポーティとラグジュアリーを融合」させたモデルに仕立てたところが、BMWらしいといえばBMWらしい。

たとえば、試乗車には無料オプションとして設定されているBMWインディビジュアルメリノレザーのインテリアが装備されていたが、そのいかにも質が高くて柔らかなレザーは極めてラグジュアリー性が高い。ホワイトとブラックの2トーンで彩られたインテリアデザインもラグジュアリー色が全面に押し出されていて、インテリアからはスポーティな印象というのはあまり感じられない。日頃、ゴージャスな暮らしをするVIPを迎え入れるのに相応しいしつらえと言えるだろう。

乗り心地も上質さにあふれている。ランフラットタイヤを履いているにもかかわらず、路面からの衝撃は効果的に遮断され、ゴツゴツ感は極小。路面のうねりをゆったりといなすエアサスペンションのセッティングも、快適性を重視している。そうした印象はリアシートでも変わらず、不快なロードノイズやハーシュネスはほとんど感じられない。

ロングホイールベースが生み出す圧倒的なレッグスペース、そしてスイッチひとつでフロントのシートバックからレッグレストが現れるぜいたくな装備まで、おもてなしの精神はクルマの隅々まで行き届いている。では、「M」が持っているスポーツ性はどこに現れているのか?それはM760Li xDriveのステアリングを握ればたちどころにして理解できるはずだ。 

609psと850Nmという圧倒的パフォーマンスを生み出す6.6LのV12エンジンが、上質なキャビンの雰囲気を台無しにする傲然たるエグゾーストサウンドを響かせないのは当然のこと。しかし、M760Liを注意深く操るドライバーであれば、このエンジンの特別な感触に圧倒されるだろう。

パッセンジャーにはどこまでも静かで滑らかと感じられていたV12が、ドライバーには複雑に組み合わされたメカニカルパーツの規則的に運動する様子がひっそりと伝わる。それは、同じ志を持つ者だけが理解できる暗号のようなものともいえる。

画像: インテリアは最高級の素材を使い、スポーティなばかりでなくラグジュアリーな雰囲気まで漂わせている。

インテリアは最高級の素材を使い、スポーティなばかりでなくラグジュアリーな雰囲気まで漂わせている。

V12の緻密な回り方と力強いトルクに感激

このエンジンの魅力を知るのに、アクセルペダルを床まで踏みつけトップエンドまで回す必要はない。中低速域でユルユルと走らせていても、V12の緻密な回り方とあふれ出すようなトルク感を満喫できるはず。ハンドリングもそれと似たところがあり、普通の交通の流れをちょっと上回るようなペースで走っているだけでも、ステアリングフィールの正確さやレスポンスの良さを実感できる。それはショーファーのために作られたリムジンとは明らかに異なる、ドライバーズカーの証といえる。

画像: 609psを発生する6.6L V12ツインターボエンジンはM760 Li xDriveにのみ設定。滑らかさと力強さを兼ね備える。

609psを発生する6.6L V12ツインターボエンジンはM760 Li xDriveにのみ設定。滑らかさと力強さを兼ね備える。

そこからさらにペースを上げていっても、M760Liは安定したハンドリングであなたの期待に応えてくれるだろう。ただし、タイヤのグリップ力をフルに引き出すような走りでは、2トンを超す車重が意識されるようになるし、快適性重視のサスペンションが大きなロールを生み出すことにも気づくはず。もっとも、そうした走りがお好みであれば、BMWはM760Li以外にも多くのスポーティセダンを用意しているので、そちらを選んだ方がいい。

ただし、大切なお客さまを自分のクルマでお迎えしたいオーナードライバーや「平日はショーファーに任せるが、週末は自分でハンドルを握りたい」という向きにとって、M760Li xDriveは最上の選択肢のひとつとなるだろう。(文:大谷達也)

試乗記一覧

■BMW M760Li xDrive 主要諸元

●全長×全幅×全高=5265×1900×1485mm
●ホイールベース=3210mm
●車両重量=2195kg
●エンジン= V12DOHCツインターボ
●排気量=6591cc
●最高出力=609ps/5500rpm
●最大トルク=850Nm/1550-5000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=2523万円

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