2004年に写真公開された5代目E90型BMW3シリーズの国際試乗会は、まず欧州ジャーナリスト向けに2005年1月より行われているが、続いて2月にはこもだきよし氏もこの試乗会に参加している。歴代3シリーズをよく知るこもだ氏は、この5代目3シリーズにどんな印象を持ったのか、Motor Magazine誌で振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年4月号より)

実物には写真では感じられない迫力があった

2004年に全世界で102万台を販売したBMWだが、その44%が3シリーズだった。モデル末期になってもまだピーク時の80%を売り上げるほど人気があったBMWの大黒柱であるから、そのモデルチェンジにも気合が入る。E90と呼ばれる5代目の3シリーズは、E46と呼ばれる4代目とはまったく別のクルマに生まれ変わった。

実物のニュー3シリーズと最初に対面した時は、写真で見るより本物の方がいいと思った。これは最新のBMWデザインの特徴でもある。ブックシェルフコンセプトの下に7シリーズ(E65)、Z4(E85)、8シリーズ(E60)、6シリーズ(E63)、X3(E83)、1シリーズ(E87)とBMWの新しいテイストを持ったクルマ達が揃っていたが、そんな中でニュー3シリーズはおとなしいデザインとボクの目には映っていた。しかし実物には、写真では感じられない迫力があった。

おとなしく見えたのは、全体のシルエットがバランス良くまとまっているからだろう。このあたりはZ3、先代5シリーズのエクステリアを担当した実績もあるBMWの日本人デザイナー・永島譲二氏の得意分野だ。彼は長い年月が経っても飽きない美しいデザインを目指しているからだ。A6をデザインしたアウディの和田氏にしても、このところ日本人が大活躍しているのは嬉しい。

迫力があるのはフロントやリアよりもサイドであるとボクは思う。四隅に踏ん張ったように張り出したタイヤをカバーするフェンダーの盛り上がり、前後のドアハンドルを結ぶように後ろへ流れるやや角張ったキャラクターライン、横に張り出したサイドシルなどにより、ちょっと「濃い」横顔になっている。

ここまで凝るのかと驚いたのが、オプション設定となるバイキセノン式ヘッドライトユニットだ。スモールランプを点けた時に光るライトリングが、ヘッドライトの前に独立してセットされている。それは近くから見るとまるでオブジェのような美しさで、しばらく見とれてしまう。

もうひとつ驚いたのは、ボディのフロア下を覗いた時だ。まるでレーシングカーのように、フラットな板で床下が覆われているのである。これは、空気抵抗係数を下げることに相当貢献しているはずだ。速く走る時だけでなく、積雪時に亀の子になりそうな時でも床下が滑るから脱出しやすくなるという副次効果も期待できる。

この5代目で大きく変わったところといえば、ボディサイズである。「年に1mmずつ大きくなる」ドイツ人の平均身長に合わせてボディサイズも大きくされた。ニュー3シリーズではドイツ人の体型の96%をカバーするサイズになっているという。実際に車両の製品確認の仕事をしている身長2mのゾッヒャーさんが座って見せてくれた。運転席のシートは一番後ろで高さも一番下に下げた状態だが、ちゃんとドライビングの姿勢をとることができた。

日本で使うことを考えて一番心配になるのは全幅だろう。旧5シリーズより広い1817mmでは、狭い道路や車庫に入るのが心配になる。しかし実はカタログ上の全幅を広げているのはフロントのドアハンドルなのだ。だから実際のボディの幅は1800mmに達するかどうかだから、カタログ数値から思うほど広くはない。そのことはトレッドを見てみるとわかる。E46型3シリーズは1470mm(前)だったのが30mmほど広がって1500mmになっただけだ。

基本的なシルエットは、BMWでなくてはできない形をしている。それはロングノーズのデザインである。セダンでも直列6気筒をフロントに縦置き搭載するのがBMWだ。前輪駆動あるいは後輪駆動でもV6エンジンを搭載しているクルマでは考えられない形だからこそ、BMWは目立つ存在になれるのだ。

ニュー3シリーズはそのコンセプトどおり、5シリーズよりスポーティでZ4や1シリーズよりエレガントに仕上がったと思う。

室内に目を転じると、レッグルームの拡大に配慮したことがよくわかる。リアシートは乗り込んでからお尻をグッと奥に深く座る形状になっている。リアのタイヤハウスの膨らみがサイドサポートになる感じだ。さらにフロントシートのバックレストの後ろ側には、ひざが入るスペースがえぐられている。シートは大きめにできている。座面だけでなくバックレストの高さも十分だ。ボクのように胴が長くても、肩の位置には余裕がある。

さらにバックレストの上部が後ろへ反るような形状のクルマが増えているが、ニュー3シリーズでは前後のシートとも肩までのホールド感があるので、走行中でもクルマとの一体感がある。バックレストが高いので、ヘッドレストも楽に高くできる。これは日本基準を上回る欧州基準をも楽にオーバーしている高さだ。人々の体格が大きくなっているが、法律は追いついていない。しかし自動車メーカーとして、法律をクリアするだけではなく、現実のより高い安全性を追求しているのである。全5席分のヘッドレストと3点式シートベルトが備わっている。

画像: 塊り感があり、バランスよくまとまったシルエット。フェンダーの盛り上がり、前後のドアハンドルを結ぶように後ろへ流れるやや角張ったキャラクターラインが特徴。

塊り感があり、バランスよくまとまったシルエット。フェンダーの盛り上がり、前後のドアハンドルを結ぶように後ろへ流れるやや角張ったキャラクターラインが特徴。

乗り心地もハンドリングも驚くほどに増した快適さ

さて乗り込んでみよう。アウタードアハンドルは、先代からバーハンドルタイプになっている。ただしこのドアハンドルの上下方向のガタがちょっと気になる。中のワイヤーを引っ張るためのドアハンドルだから、実質的なデメリットはない。また手前に水平に引いても、やや上方に引いても開けることができるから、これはある意味で「融通を利かせる」ためのガタなのかもしれない。

シートに座ってドアを閉める。この時のドアの閉まり感はすごく良い。ガチャン、バタンとは無縁の「ドスッ」と、あとに響かない音で閉まるのでものすごく高級感が出た。

ダッシュボードは上下に二分割されるこれまでのデザインと同じだが、今度は7シリーズなどと同じようにiドライブのためのモニターが中央上部にレイアウトされている。7シリーズや5シリーズと違い、センター部分は3度ほどドライバー側を向いている。E46に比べると正面を向いているが、7シリーズ、5シリーズよりスポーティ感を出すための演出でもある。

メーター類も一新された。水温計はなくなって、タコメーターの外側にゼブラゾーンが広がるタイプになった。発進直後の水温が低いときには4500rpmくらいからゼブラになる場合もある。基準以上に水温が上がってしまった場合には文字と音でドライバーに警告してくれる。スピードメーターの周りにも溝があって、こちらはクルーズコントロールの設定されたスピードを表示する。

走り出して1回曲がった程度ではAFS(アクティブフロントステアリング)付きだということに気がつかなかった。撮影のためにUターンをした時、手を一度持ち替えただけでロックまで回せたことで初めて気がついた。5シリーズ、6シリーズにAFSが装備されてきたが、これらもプログラムのチューニングによって新しいものほど扱いやすくなっている。しかしニュー3シリーズのAFSはそれら以上に進化して、とても自然なステアフィールになった。これにより、バリアブルギアレシオと自動カウンターステアの効果を何の慣れも必要としないで受け取れるようになったのだ。

この進化の中身は、ロックトゥロックが5シリーズは1.7回転だったのが、ニュー3シリーズでは1.9回転になった感じである。ただしこの数値は、あくまでもボクの感覚での話。つまり右に切るとしたら、左手が9時の位置から5時の位置までステアリングを回し(アクション1)、続いて右手を11時の位置から切っていくと(アクション2)、5シリーズは1時付近でロックしたのに、ニュー3シリーズは2時過ぎになるからだ。

こうして全体的に少しダルな傾向にしたこと、さらに直進付近から切り始めたあたりの応答性のシャープさを抑えることで、自然なフィールになったようだ。

今回の試乗会はスペインで行われたが、まずは330iでバレンシア市内をスタートし西に向かう。一般道だけでなく高速道路も走って、標高の高いアルバセテ市にあるレーストラック場を目指す。

ここで感じたのは、ニュー3シリーズの乗り心地とハンドリングの両方とも大幅に快適さが向上したことだ。乗り心地はよりしなやかになり、硬い衝撃は伝えてこない。かといってブルブルした振動があるわけでもなく、締まっているのに柔らかいという感じだ。

市街地の荒れた路面を走った時だけでなく、高速道路をハイスピードで走った時にも同様で、ものすごくよく躾けてある。微振動にも路面のうねりにも強いという感じだ。

ハンドリングは、しっかりと路面をつかむ感触がいい。手応えがダイレクトで、どんな路面を走っているのかが、わかりやすいのだ。超高速域になってもリアがしっかりとグリップしているので不安感がない。その速度域になってもステアリングからは路面を掴む感触があるから、自信を持って運転できる。大きく飛躍したのは間違いない。しかしこれまでの3シリーズが備えていた軽快感、それから来るドライビングの愉しみはそのままだから安心していい。向いているベクトルの方向はそのままに、それを伸ばした感じだ。

画像: インテリアはゴージャス。新型からスターターボタン式のコンフォートスタート機能が採用された。新しいアクティブクルーズコントロール(ACC)システムも搭載。

インテリアはゴージャス。新型からスターターボタン式のコンフォートスタート機能が採用された。新しいアクティブクルーズコントロール(ACC)システムも搭載。

ベースとなるシャシ性能の充実、その上で効果を発揮するDSC

これはサーキットを走行した場合も同じだった。この時には車高が15mm低くなったスポーツサスペンション仕様車をドライビングした。コーナーに向かってブレーキを戻しながらターンインする時も、クルマは安定したまま、ノーズはきれいにコーナーのクリッピングポイントを目指してくれる。回り込んでいるコーナーでは、ステアリングを切り足すとそのままヨーがついてくる。

舵角に対して応答性がサーチュレイトしにくく、ステアリング操作の効く範囲が広いのでスイートスポットが広い感じだ。4輪がグリップ限界付近でコーナリングしている時にアクセルペダルを踏み込んでいくと、リアが流れてくる。しかしこの時の挙動は非常に穏やかなので、慌てることはなくコントロールしやすかった。

サーキットのメインコースとは別に、スリックカートのコースみたいに滑りやすい舗装でレイアウトされたミニコースがあり、新しいDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)の効果とドライビングダイナミクスを体験できた。

そこにはスプリットミューの路面も用意されており、そこではわざと急ブレーキを踏んでみる。通常だとABSが作動しても高ミュー側にステアリングが取られるのだが、これをDSCが自動カウンターステア機能を使って防いでくれるのだ。

また、ここではDSCを完全にカットして何周か走ってみた。コーナリング途中から2速でアクセルペダルを踏み込んでいくと、後輪はグリップ限界を超えて滑り出す。そのままアクセルコントロールとカウンターステアによってドリフトしながらコーナーを立ち上がっていく。S字では走行ラインをキープしながらも、コーナーごとにリアを反対方向に振り出しながら走ることもできた。DSCが作動しない状態でも、基本性能が良ければここまで走れるのだということを実感できた。

もちろん一般道ではDSCが作動する状態で走るわけだが、ベースとなる車両側のレベルが高くないと、DSCで抑えられるだけで、決していい走りはできない。その点で、ニュー3シリーズの走りの性能がここまで高いということは、DSCが介入してこない状況でも相当にレベルの高い走りができそうだ。こうした走りが実現できたのは、新しいサスペンションの効果が大きい。フロントは2本のロアアームを持つストラット、リアはサブフレームに5本のリンクを持つマルチリンクである。

基本的には1シリーズと同じ形式ではあるが3シリーズ向けにチューニングしてあるので、別物と考えてもいい。1シリーズでは、よりダイレクトな走り味を出していたが、3シリーズではスポーティなハンドリングとコンフォート性能の両立が図られている。コンフォート性能を向上するために何をやったのかとサスペンション担当のミッテラー氏に聞いたら、徹底的にフリクションを取ったと答えた。サスペンション自体の動きにはフリクションを極力なくしておき、バネとダンパーでその動きを制御するという考え方だ。実際、そのとおりにできていると思う。

乗り心地に貢献しているもののひとつにタイヤが挙げられる。ニュー3シリーズは全車RFT(ランフラットタイヤ)だが、RFTの乗り心地性能が大幅に向上したのだ。パンクしたときの航続距離はフルロードで150km、ドライバー1人で250kmとしているが、これまでは安全率を見込んでタイヤが硬過ぎたのだ。それが段々と作り慣れてきて、どのメーカーでも硬過ぎないRFTが造れるようになったという。ニュー3シリーズ用にはブリヂストン、ミシュラン、ピレリ、コンチネンタル、ダンロップ、グッドイヤーの6社が採用されている。この試乗会で装着されていたのは、すべてピレリ製の17インチだった。

最後になってしまったが、エンジンについても話さなくてはならない。新しい直列6気筒エンジンはマグネシウム合金をシリンダーブロック、シリンダーヘッドカバーに採用し、軽量化を図ったものだ。さらに4気筒から始まってV型8気筒、V型12気筒も採用しているバルブトロニックがついに6気筒にまで広げられたのだ。

軽量化だけではなく高トルク化も実現できていて、何と2500rpmから4000rpmまで最大トルクである300Nmを発揮する。フラットトルクでは面白くないと考えるかもしれないが、実際には回転が上がっていくと盛り上がっていくトルクを感じるし、旧エンジンより全体的な力強さを感じるようになった。

さらにこのフラットな高トルクエンジンと組み合わされるのは6速トランスミッションだ。ATでもMTでも6速で、フラット高トルクによってつながりが良いから、連続した強い加速が誰にでも味わえるだろう。ニュー3シリーズの日本への導入は意外と早く、デリバリーは5月から行われるという。価格はまだ発表されていないが、日本でもたくさん売りたいという希望がBMW側にあるようなので、買いやすい価格にして欲しいものだ。直列6気筒エンジンは330iと325i、直列4気筒エンジンは320iだ。基本はATだが、330iにはSMG、320iにはMTも用意される。

ニュー3シリーズの出現によって、また新たなベンチマークができたことを確信する。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2005年4月号より)

画像: E90型3シリーズのメカニズム図。前後の重量配分は50:50。

E90型3シリーズのメカニズム図。前後の重量配分は50:50。

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BMW 330i(2005年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4520×1817×1421mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1540kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600rpm
●最大トルク:250Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●サスペンション:前ストラット後5リンク
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:6.6秒

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