2005年4月、フェイスリフトされたばかりのアウディA8に、V6エンジンを搭載モデル「3.2FSIクワトロ」がドイツで登場している。このモデルは当初日本導入はないとされていたが、一転、2005年8月に日本にやってくることになった。そこで導入前に早速ドイツ本国でテストを敢行、今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年9月号より)

ドイツでは人気の高い、V6エンジンを搭載したA8

2005年4月21日、ドイツで新世代3.2L V6 FSIエンジンを搭載したA8「3.2FSI」が発表された。A8シリーズにはそれまで旧世代のV6エンジンを搭載した「3.0」が設定されており、その後継車ということになる。

クワトロだけでなくFFモデルも用意され、トランスミッションはクワトロが6速ティプトロニック、FFモデルはマルチトロニックCVTとなる。またロングホイールベースバージョンの「L」もラインナップされており、このことからも、これが単なるA8のエントリーモデルでなく、重要な戦略モデルであることがわかる。

しかし、これまで日本にA8シリーズのV6エンジン搭載車が導入されたことはなく、おそらく今回も導入は見送られるものと思われていた。

ところが、早くもそのA8 3.2FSIが日本に導入されることが決定した。日本仕様はクワトロのみで、当然トランスミッションは6速ティプトロニックとなる。ロングホイールベースバージョンの設定はなく、右ハンドル仕様のみで、発表は2005年8月となりそうだ。日本では旧世代の3.7L V8エンジンを搭載する「3.7クワトロ」にとってかわることになるだろう。

日本導入が決定したことで、今回ドイツでの試乗レポートをお送りすることになったわけだが、注目されるのは、日本でV6エンジン搭載のA8がどう評価されるかだろう。

まず、全長×全幅×全高=5055×1895×1450mmというA8の巨大なボディに、3.2L V6FSIエンジンでは荷が重いのではと心配する向きもあるだろう。それに関して言えば、何ら問題はなかったと言っていい。たしかにV8エンジンやW12エンジンを搭載するモデルと同じではない。しかし、V6エンジン搭載ならではの、大きな魅力があるのもまた事実なのだ。

画像: アウディA8に追加設定された「3.2FSI」。日本には「3.2FSIクワトロ」がスタンダードボディ・右ハンドル仕様で導入されることになった。

アウディA8に追加設定された「3.2FSI」。日本には「3.2FSIクワトロ」がスタンダードボディ・右ハンドル仕様で導入されることになった。

V6エンジン搭載で軽快な走りを実現

詳しく見ていこう。今回のエンジンはA6やA4ですでにおなじみの新世代直噴FSIユニットで、軽量コンパクト、ハイパワー・好燃費を特徴とする。A8に搭載するにあたりチューニングが変更され、5psのパワーアップが図られている。今やアウディの主力エンジンとも言えるものだが、こうして搭載車種にあわせてセッティングを変更するところなども、いかにもアウディらしい。

一方、A8のボディは、ご存知のとおり、ASF(アウディスペースフレーム)と呼ばれる斬新なオールアルミ製だ。欧州仕様の発表によれば、その車両重量は1785kgと、このボディサイズにしては極めて軽い。クワトロにしてこの車両重量はアルミボディによって実現されたものと考えていいだろうし、剛性感が高いのも魅力だ。

パドルシフト付きの6速ティプトロニックをDレンジに入れてアクセルペダルを少し踏み込むと、自動的にエレクトロパーキングブレーキが解除されてクルマは発進する。スタートはやや緩慢な印象。V8ほどのトルク感はないが、ある程度スピードが乗れば、むしろノーズの軽さが気持ちのいいハンドリングとなって実感できる。エンジンは存在を主張するタイプではなく、穏やかで滑らかな加速をもたらしながら、どの回転域でも力があるので必要とあればすぐにトルクが立ち上がる。

今回、ドイツのよく整備された道を走って、特に印象に残っているのは、やはりその「軽さ」だ。タウンスピードではシャシがしなやかに動き、想像していた以上に軽快感があった。これは大型サルーンにありがちな重厚感とは違う、このクルマならではの魅力だ。

おそらく標準装備のアダプティブエアサスペンションがこれに大きく貢献しているのだろう。しかも、それでいて、ひとたびアウトバーンにおける高速域になれば、アウディならではのフラット感、直進安定性、滑らかさを満喫することができる。大型サルーンらしい魅力もきちんと備えていたのだ。これらは軽量コンパクトなV6エンジンを搭載したからこそ実現できた走り味と言えるものだ。

欧州では、ひとつのエンジンを幅広いモデルレンジに搭載することが多い。たとえば、この3.2L V6 FSIエンジンもそうなのだが、乗り比べてみると、A4、A6、A8では同じエンジンとは思えぬほど走り味が違う。それこそがシリーズの性格の違い、格の違いというものなのだろう。

もうひとつ言えることは、小さめのエンジンというのはごまかしが効かないということ。クルマの持つ性能や個性がはっきりと走りに現れる。その意味から、ラグジュアリーセダンの真価はベーシックモデルにあると言ってもいい。A8 3.2FSIクワトロに乗れば、いかにA8がよくできているか理解できるはずだ。エンジンこそ小さめだが、このクルマは紛れもなくアウディのフラッグシップであり、個人的にはベストA8だ。

日本での価格は、3.7クワトロが888万円であることを考えると、この3.2FSIクワトロは880万円前後に落ち着くと見られる。当面のライバルはモデル末期のメルセデス・ベンツS350となるが(日本では現在BMW7シリーズに6気筒モデルがラインナップされていない)、その車両価格が896万7000円であることから、アウディがむしろ優位という計算が成り立つ。

なにしろ、アウディにはメカニズムの面で、斬新なオールアルミ製ボディ、独創のクワトロシステム、MMIインターフェイス、FSI技術など先進メカ満載のエンジンという魅力があるし、さらに珠玉の上質インテリアがあるのだから。

かつてアウディがA8のV6エンジン搭載車を日本市場に投入してこなかった理由として、メルセデス・べンツSクラスの存在があったと思う。トップグレードは導入できても、ベーシックモデル投入まで踏み切れなかった。しかし、今は違う。アウディジャパンは堂々とA8 3.2FSIクワトロを発表しようとしている。真価が問われるのではなく、アウディは自らの真価を世に問おうとしているかのようだ。(文:松本雅弘/Motor Magazine 2005年9月号より)

画像: 3.2L V6 FSIエンジン。最高出力260ps、最大トルク330Nm。軽量コンパクトで、ハイパワー、省燃費を特徴とする。

3.2L V6 FSIエンジン。最高出力260ps、最大トルク330Nm。軽量コンパクトで、ハイパワー、省燃費を特徴とする。

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アウディA8 3.2 FSI クワトロ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:5062×1894×1444mm
●ホイールベース:2944mm
●車両重量:1785kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3123cc
●最高出力:260ps/6500rpm
●最大トルク:330Nm/3250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速: 7.7秒
●最高速: 250km/h(リミッター)
※欧州仕様

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