2005年に日本初のプレミアムブランドとして開業したレクサス。その実力はどんなものなのか、その個性はドイツのプレミアムブランドとどう違うのか、実に興味深かった。そこでMotor Magazine誌では、BMW530i、アウディA6 3.2クワトロとともに、登場したばかりのレクサスGS350をテスト、800kmのロングツーリングを行なっている。今回はその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年11月号より)

既存の常識にとらわれないセダン

今、話題沸騰のレクサスGS。このクルマが目指す基本的なキャラクターは「走り最重点のセダン」であり、「異軸のセダン」であると言う。前者はいわゆるスポーツセダンとしてのポテンシャルの高さを表現するフレーズで、後者は「セダン」という言葉から連想される一般的なイメージに対して、より自由な発想に基づく既存の常識にとらわれないセダンづくりを意識したということを示すのは、何とはなしに理解できる。

一方で、そんなGSの開発を担当してきた三吉CE(チーフエンジニア)は、「走りを語る上でハードウエアやスペック中心の議論を行うことはもうしたくない。それもあって、クルマ作りの考え方の柱をあえて『ダイナミズムの完結』と呼びつつ走りの熟成を続けてきた」ともコメントしている。

見方によってはどこか二律背反する事柄であるようにも思えるそんな命題を掲げた意味というのは、これまでプレミアムセダンの市場を牽引してきた世界のライバルたちに敬意を表しつつも、そうしたモデルたちに対しての明確な一線を画すべくレクサス流儀の雰囲気づくり、そして走りのテイストの演出を狙いたいという意識の表れであると私は思う。

前述のように「ダイナミズムの完結」を標榜するGS350。その基本的なデザイン、パッケージングは、V型8気筒エンジンを搭載するGS430ともちろん同様だ。

サイドまで大胆に回り込んだ切れ長のライトデザインなどにより、いかにもスポーティな躍動感を演じるBMW5シリーズや、シングルフレームグリルの採用で従来型よりもグンと強い自己主張を行うアウディA6に比べると、フロントマスクの表情はいささか「線が細い」印象も伴うのが、このレクサスGS。一方で、後方まで引かれたルーフラインや歴代GS=アリストのそれを継承するウインドウグラフィックなどにより、サイドビューでは確かに独特の表情を醸しだすことに成功している。

さらに、ボリューム感タップリのボディ幅一杯にタイヤがレイアウトされたリアビューは、フロントマスクに対してややエネルギーが弱い感じの漂うA6はもとより、フロントライトのデザインを反復するかのようにテールレンズがサイドへと回り込み、筋肉質のボディ造形とあいまってすこぶる強い躍動感を発する5シリーズにも負けない力強さだ。

遠目で見た際のフロントビューの印象度にはちょっとばかりの弱さが感じられるが、特に走り去る姿を目で追うというシーンでは確かにライバルたちとは異なるアプローチによる「走りのセダン」というアピールに成功している。

画像: 欧州にはない、新たな境地を切り開くべく開発されたレクサスはGS350。

欧州にはない、新たな境地を切り開くべく開発されたレクサスはGS350。

動力性能で好印象のGSだがフットワークの個性は薄い

ドアを開き、ドライバーズシートへと滑り込む。この時点でのプレミアムセダンとしての印象度の強さは、A6に3車の中での長があるように感じられた。むろん、各部の仕上がりでは、それぞれのモデルが簡単には甲乙付け難い高度な出来栄えを競い合う。トリムや木目類の質感などはもとより、触感や開閉スピードなどもそれぞれが吟味された末に生まれてきたという印象だ。

ただし、ダッシュボード回りのデザインを目にすると、T字型の左右対象形を基本的としたGSのそれは「異軸のセダン」という割にはコンサバティブに過ぎる印象が拭えないし、ダッシュアッパー部がメータークラスターとモニタークラスターのふたこぶ状に造形されている5シリーズのそれも、機能が前面に出過ぎてあまりエモーショナルという感じではない。その点、逆L字型を基本モチーフとしたA6のダッシュボード回りのデザインには、奇をてらった印象はない一方でGSや5シリーズ以上の華やかさが感じられる。

注目の走りの実力比較では、各車はどのような戦いを繰り広げるだろう。まずはGS350に積まれる新開発の3.5L V6ユニットに火を入れて軽くアクセルペダルを踏み込む。と、なるほどその出足の加速感、3.5Lという排気量から想像する以上に力強いことに感心。もちろん、6速ATの制御の巧みさによるところも大きいが、すでにこの時点でこれまでのトヨタエンジンが発するテイストからは何かがひと皮剥けている印象だ。

「これならばMTとの組み合わせで乗ってもかなり良さそう……」とそんな感覚すら漂うのは、やはり複雑なツインインジェクター方式採用のメリットが現れていると受け取るべきか。いずれにしても、高回転にかけての優れたパワーの伸び感なども含め、「レクサスに積むにあたってはこの程度の実力は必要」とそんな意気込みすらを感じられるこの心臓に支えられて、全般になかなかの好印象を得たのがGS350の動力性能だ。

こうして、それなりに色濃いキャラクターを実感できる動力性能に対し、フットワークのテイストの方は多少影が薄い感じが否めない。「とくにこの点が気になる」といったネガティブな印象があるというわけではない。むしろどのようなシーンでもスタビリティ性能は高いし、ボディサイズや重量を勘案すればハンドリングの自在度もなかなかと評すべきであろう。

ただし、それでも走りを訴求するモデルとしては、ドライバーズシートから降りたその瞬間にたちまち忘却の彼方へと飛び去ってしまいそうな味の薄さというのは、見方によってはウイークポイントのひとつとも受け取れそう。端的に言えば「エンジンの個性に対してフットワークの個性が物足らない」、これがGS350の走りの特徴とも言えるのだ。

画像: ダイレクトな操縦感覚を味わえるBMW530i。乗りこなせばクルマとの一体感が生まれる。

ダイレクトな操縦感覚を味わえるBMW530i。乗りこなせばクルマとの一体感が生まれる。

個性を強く主張するBMWと、レクサスとBMWの中間に位置するアウディ

一方、クランクケースにマグネシウムテクノロジーを採用した最新のエンジンを搭載するBMW 530iの動力性能も、相当な高得点を与えたくなるもの。500cc近い排気量の差もあってやはり全般のトルク感ではGS350に分があるが、絶対的な加速力はもちろん、サウンド等を含めたフィーリング面ではGS350用のV6ユニットに勝るとも劣らない実力をアピールするのが530iの積む直6ユニットだ。

GS350と大きく雰囲気の異なるのがフットワークのテイスト。ひとことで言えば全般的な印象がより引き締まり、路面とのコンタクト感をより濃密にドライバーへとフィードバックしていかにもBMW車らしいよりダイレクトな操縦感覚を味わわせてくれるのが、このモデルのフットワークテイストと言えるのだ。

もっとも、こうしていかにも自己主張性の強い走りの味付けは、必ずしも万人向けとは言い難いのもまた事実。日本仕様には標準装備のアクティブステアリングは「可変ギア比」の部分にはいずれ慣れてしまうとしても、常にフリクション感がかなり大きいことがフィーリングをスポイル。やはり標準装備のランフラットタイヤも、とくに低速時の振動吸収性を筆頭にバネ下重量の大きさ感など、どうしてもいくつかのマイナスの影響を及ぼしている印象が否めない。

ところで、今回のモデルにはさらにオプションアイテムとして、ヘッドアップディスプレイも装着。が、この投影位置は同種のアイテムを備える他車のように微調整が効かず、「ドライバー側が投影位置に合わせてアイポイントを決定する」といういわばクルマ優先の設計思想となっている。

また、相変わらず説明書ナシでは到底使いこなすことなど不可能なiDriveの操作ロジックなども含め、このあたりの「設計者の理想を顧客に押しつける」といった感覚は、レクサスブランドでは到底有り得ないクルマづくりの考え方だろう。

一方、A6というモデルの走りをごく大雑把に表現すれば、その個性と汎用性のレベルは、GS350と530iの中間に位置すると言えそうだ。

搭載エンジンの排気量も今回の3車中の中間となるが、最も大柄サイズのボディに4WDシステムを組み合わせることもあり、車両重量も最大のおよそ1.8トン。スロットル線形の意図的なチューニングによるものかスタートの瞬間は加速Gがグッと立ち上がるものの、逆にそれが災いしてその後の加速の伸び感は今ひとつ。

ノーズヘビー感のつきまとうハンドリングの感覚も含めて、率直なところ前述の絶対的な重さが走り全般にややマイナスの影響を及ぼしている印象を常に受けるのがこのモデルの走りのテイストだ。

ただし、そんな走りがあらゆる天候、あらゆる路面状況からの影響を受けにくいのはクワトロシステムの持ち主ならでは。例えば、耐ハイドロプレーン性などはそんな4WDの有利さに加えて例の重さもプラス側に働く。ヘビーウエット下の高速道路での安心感などは、やはりGS350や530iの敵ではない。

こうして、まさに三者三様という言葉がピタリとあてはまりそうなキャラクターの持ち主である今回の3モデル。その中にあってレクサスGS350というのは、やはり「これみよがしにでしゃばらない範囲の中で、舞台の陰から主人を支える」といった、いかにも日本的なもてなしの感覚をベースとしたクルマ作りを窺がわせる一台に仕立てられていることに気付く。そこでは「個性が薄い」、「味が足らない」といった言葉を浴びせられるであろうことは、おそらくすでに織り込み済みなのだ。それがレクサス流のプレミアムカー作りのスタンスなのだろう。(文:河村康彦/Motor Magazine 2005年11月号より)

画像: あらゆる路面状況、天候下で安心感のある走りを見せるアウディA6 3.2FSIクワトロ。

あらゆる路面状況、天候下で安心感のある走りを見せるアウディA6 3.2FSIクワトロ。

ヒットの法則

レクサスGS350(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4830×1820×1425mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1640kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3456cc
●最高出力:315ps/6400rpm
●最大トルク:377Nm/4800rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:520万円(2005年当時)

BMW530i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4855×1845×1470mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1650kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:712万円(2005年当時

アウディA6 3.2FSIクワトロ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4915×1855×1455mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:1790kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3122cc
●最高出力:255ps/6500rpm
●最大トルク:330Nm/3250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:700万円(2005年当時)

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