スーパーチャージャーの利点と弱点
過給器には大きく分けると、スーパーチャージャー(以下、SC)とターボチャージャー(以下、ターボ)がある。どちらも圧縮した空気をシリンダーに送り込み、燃料を燃やしやすくして、より多くのパワーとトルクを絞り出すことができる。
では、このふたつはどう違うのだろうか。SCは「機械式過給器」、ターボは「排出ガス式過給器」と呼ばれる。この名称の違いでわかるように、SCはエンジンのクランクシャフトと連結されたコンプレッサーによって空気を圧縮するのに対し、ターボは排出ガスのエネルギーをタービン(羽根)にあて、コンプレッサーの動力にする。シリンダーからの排出ガスの風圧でタービンを回して空気を圧縮する。
SCの利点は、必要なタイミングで過給をダイレクトに行えることだ。SCはクランクシャフトと物理的に連結しているため、理論上、エンジンの始動と同時に過給でき、エンジンの苦手とする低回転領域で大トルクを発生することができる。この特性を活かしたエンジンが、1980年代中頃にトヨタが開発した1G-GZE型や4A-GZE型だ。また日産からは1989年にターボとSCを搭載したツインチャージドエンジンのMA09ERT型が、マーチに搭載されて大きな話題を呼んだ。低中速域をSC、高速域をターボで過給する狙いだった。
SCの弱点は燃費と重量。SCはクランクシャフトの回転を動力源としているため、クランクシャフトへの負荷が増え、燃費の悪化を招く。さらにターボと比較すると部品点数が多いため、エンジン重量が増加し燃費とハンドリングの悪化を招くことになる。
また、SCはもともと低回転域で作動することを目的に設計されているため、高回転時には対応できず、物理的損失が増えて燃費を低下させることになる。
ただ、最近のSCには電磁クラッチが設けられ、走行状況に応じて過給する設定となっており必要以上の燃費の悪化はないし、高回転時にはクランクシャフトとの接続を遮断する仕組みとなっている。これにより燃費悪化を抑えつつ、エンジンの自然な高回転までの吹け上がりを確保することが可能となっているが、それでもやはり高回転時には無過給となる。
低速トルクを補える新しい技術の出現
1921年、メルセデス・ベンツが世界で初めて量販車にSCを実用化し、その後レースマシンを中心に採用してきた。
国産車では、1985年にトヨタが1G-GZE型を市販して以来、1990年代半ばまで軽自動車からミニバンまでSC搭載車が十数車種はあった。しかし、2020年1月現在、国産車でSCを搭載しているのは日産ノート、マツダ3とCX-30が搭載するSKYACTIV-Xとごくわずか。なぜこれほど日本車のSC離れが進んだのだろうか。
その理由は、低速トルクを補える新しい技術の出現にある。燃費効率が良くクリーンなハイブリッドと、走る楽しみが味わえるダウンサイジングターボだ。
パラレル式ハイブリッドはエンジンが苦手とする発進をモーターが補うシステム。モーターの、発進と同時に最大トルクを発生できる特性を活かしているのだ。またモーターは、加速時のパワーサプライも担っており、役回りはSCと同様。それでいて燃費が良く、経済性も高いことから、人気を集めている。
また、1980年代のタービンは耐熱性の問題もあって重く、エンジンの回転数が上がらないと過給が始まらなかったが、近年には軽量で耐熱性の高い素材が開発され、低回転時のわずかな排出ガスの圧力でも過給できるようになったのも大きなポイントだ。
しかし、最新のダウンサイジングターボの最大トルク発生時の回転数は1500rpm前後。この回転数はSCの活動範囲とほぼ同じ。しかも高回転時でもエンジンの吹け上がりの邪魔にならないという、SCとの違いもある。
ではSCに今後需要がないのかといえば、そうでもない。日産はHR12DDR型エンジンにSCを搭載、SCを高速域での加速時に作動する設定として、日常域での走行で使わないのが特徴だ。またマツダはSCを大量の空気を必要とするSKYACTIV-Xのエアサプライとして使っている。過給用ではないのでSC内部で空気を圧縮せず、単なる導気に使用しているのだ。(文:猪俣義久)