軽自動車のハイトワゴンを牽引するタントとNボックス
2019年7月にモデルチェンジしたダイハツ タントは、4代目となる。初代タントはムーブよりもさらに全高の高いスーパーハイトワゴンの第1号車で、軽自動車界のミニバンと言われる存在だ。乗降のしやすさと使い勝手の良さがウケて大ヒットした。この成功により、今では多くのメーカーからスーパーハイトワゴンが登場し、軽自動車業界を席捲している。
新型タントは「CASE(Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス)、Electric(電動化)」の本格到来に合わせ「DNGA(Daihatsu New Global Architecture)」シャーシを新搭載した第1弾だ。
これにより新型タントは、従来の主要顧客となるヤングファミリー層や子供連れのお母さんに加え、ヤングカップルやシニア層、趣味のクルマなど、多様なユーザーにマッチする使い勝手の良さがさらに向上している。
初代Nボックスは2011年に登場するやいなや大ヒットし、軽乗用車クラスの年度別販売台数において、2012年から2019年(4-9月)の長きに渡りナンバーワンの座に君臨してきた。そして2017年に登場した現行モデルは、大ヒットモデルの後継車だけにキープコンセプトのフルモデルチェンジとなったが、完成度は大幅に向上している。
両モデルともエアロパーツや専用灯火類でドレスアップしたスポーティなカスタム仕様が用意されているが、今回はそれではなく、それぞれの中心モデルであるNAエンジンの前輪駆動車「タント Xセレクション(車両価格149万500円・税込)」と「Nボックス G Lホンダセンシング(154万3300円・税込)を比較した。
全高はNボックスが35mm高く、室内長も60mm長い
軽自動車は「軽自動車規格」に準じて開発されているため、外寸サイズに大きな差はない。タントは全長3395mm×全幅1475mm×全高1755mmで、全長と全幅が軽自動車規格の上限からいずれも5mm短い。Nボックスは全長と全幅がタントと同一ながら、全高のみ1790mmでタントより35mmも高い。ホイールベースはタントが2460mm、Nボックスが2520mmで、Nボックスが60mm長い。
タントの室内寸法は室内長2180mm×室内幅1350mm×室内高1370mm。Nボックスでは室内長2240mm×室内幅1350mm×室内高1400mmで、室内長で60mm、室内高で30mmほどタントより余裕がある。Nボックスの室内高がタントより30mm高いのは、全高の差が影響している。またそれぞれの室内長はホイールベースの長さの違いと同じで60mmほどNボックスが長い。これはホイールベース長の差は、すべて室内空間に充てられていると考えられる。
WLTC総合モード燃費は両者とも21km/Lをオーバー
次にエンジンを比較しよう。タントは、総排気量658ccの直列3気筒DOHCを搭載し、最高出力52ps/6900rpm、最大トルク60Nm/3600rpmを発生する。Nボックスでも658ccの直3を搭載するが、出力特性が異なる。最高出力58ps/7300rpm、最大トルク65Nm/4800rpmで、最高出力で6ps、最大トルクで5Nmも差がある。
その秘密は各出力の発生回転数で、Nボックスではどちらもタントより高回転域で最高のパフォーマンスを発揮する。これをホンダは「F1直系のレーシーな高回転エンジンを搭載している」と捉えるか、それとも「タントは実用的な出力特性のエンジンを搭載している」と捉えるかは、ドライビングスタイルや、クルマの用途、ライフスタイルにより異なってくる。
燃費は両車とも良好だが、タントのWLTC総合モード燃費は21.2km/Lに対し、Nボックスは21.8km/Lと0.6km/L上まわる。そしてWLTC市街地モード燃費ではタントが18.4km/L、Nボックスが19.2km/L、郊外モード燃費でタントが22.8km/L、Nボックスが23.3km/L、高速道路モード燃費でタントが21.6km/L、Nボックスが22.2km/Lと、いずれにおいてもNボックスが0.5~0.6km/Lほどタントを上まわる。どちらもレギュラーガソリン仕様なので、Nボックスは燃料費がより経済的になりそうだ。
左側のBピラーを廃した大開口スライドドアがタントの魅力
タントの先進安全装備は、「次世代スマ―トアシスト」を搭載する。タント Xセレクションには標準で衝突回避支援ブレーキ、車線逸脱抑制制御機能、誤発進抑制機能など9種が装備される。ただし駐車支援システムはオプション、ACCはターボエンジンのみ設定され、NAエンジンは選択できない。その反面、Nボックスは、ターボとNAエンジンの両方にホンダセンシングモデルが設定されている。その内容は次世代スマートアシストとほぼ同じでACCが標準装備されるが、駐車支援システムはオプションでも設定されていない。それぞれACCの設定基準が異なることから推測すると、タントは中低速域走行を、Nボックスは中高速域走行を主眼に置いているように思う。
最後に使い勝手を比較してみよう。タントは助手席側ドアと助手席側後部スライドドアにBピラーの役目を果たす部材を内蔵し、ボディからBピラーを廃した。その結果生まれたのが「ミラクルオープンドア」で、幅1490mmの大開口部だ。この手の大開口部は、バンではホンダの「Nバン」が採用しているが、スーパーハイトワゴンの乗用車ではタントのみ採用する。リアの独立シートはそれぞれ240mmスライドするので、停車時ならベビーカーごと収納でき、おむつ交換などのスペースなども容易に確保できる。また成人男性の後部座席への乗降にもゆとりが生まれ、送迎にも役に立ちそうだ。
一方のNボックスは、助手席側にもBピラーがボディに溶接されており、タントのように助手席側に大開口部は存在しない。しかし後部シートは190mmスライドするので、後部座席の足元空間は広々としている。
機械としてのクルマの完成度は、Nボックスが一枚上手と筆者は判断する。軽自動車規格という枠組みの中で、ボンネット付車としてこれ以上ないほどの室内空間と動力性能、そして優れた燃費を実現したことで、軽自動車売上ナンバーワンの座を長く維持できたのも納得できる。
対するタントは、ユーザー層とライフシーンにこだわった作りをしている。それが助手席側大開口部に如実に現れている。助手席側大開口部をスーパーハイトワゴンで唯一採用するタントは、ベビーカーユーザーや送迎として利用する人には、最適な選択といえる。(文:猪俣義久)