ベントレーのフラッグシップ、ミュルザンヌのハイパフォーマンスモデルがスピードだ。ミュルザンヌは間もなくフェードアウトするが、その前に短時間だが試乗する機会を得た。

60年の伝統を誇るV8 OHVは「The エンジン」

画像: 独特の丸型4灯ヘッドライトと縦ルーバーのフロントグリルがベントレーのフラッグシップらしい佇まい。

独特の丸型4灯ヘッドライトと縦ルーバーのフロントグリルがベントレーのフラッグシップらしい佇まい。

先日「フォード vs フェラーリ」という映画を観た。1960年代後半のル・マン24時間レースが舞台なのだが、約6kmあるユーノディエール ストレートをフォードとフェラーリのマシンがサイドbyサイドで全開で走り抜け、ハードブレーキングの後にミュルザンヌ コーナーに飛び込んでいく・・・。そう、今回紹介するベントレーのフラッグシップ、ミュルザンヌの名はこのコーナーに由来している。ちなみに、ミュルザンヌの前モデルだったアルナージも、ル・マンのコースにあるコーナーの名だ。

フラッグシップモデルにル・マンのサーキットのコーナー名を付けるなんて、やはりベントレーはル・マンに思い入れがあるのだろう。1927〜30年に4連勝、2003年にも復活して優勝を果たしている。1929・30年に連勝したスピードシックス、2003年優勝マシンのスピードエイトをオマージュして、ベントレーはハイパフォーマンスモデルに「スピード」というグレード名を与えている。

画像: 60年の伝統を誇るV8 OHVにツインターボを装着し、537psと1100Nmのハイパフォーマンスを発生する。

60年の伝統を誇るV8 OHVにツインターボを装着し、537psと1100Nmのハイパフォーマンスを発生する。

そしてこのミュルザンヌは、ベントレーがロールスロイスの傘下にあった当時から採用されているOHVのV8エンジンとともに、2020年春に生産が終了される。新車に試乗できるのは、おそらくこれが最後の機会ということで、チョイ乗りでもいいから試乗しておきたい・・・と、まばゆく白いボディのミュルザンヌ スピードに乗り込んだ。

ミュルザンヌに試乗する直前には以前に紹介したベンテイガ スピードを試乗していたのだが、さらに大きなボディに圧倒される。全長は5.6m近く、ホイールベースも3.3m近くある。コクピットから前方を見ると12気筒を積んでいるかのようにノーズが長く感じる! まあ、ベンテイガは目線が高くノーズもさほど長くなかったせいもあるのだが。ステアリングのギア比もベンテイガよりスローなので、右左折時にはステアリングをグルグルと回す・・・といった感じだ。

画像: クラフトマンシップの粋を集めたといえるインテリアだが、けっして成金趣味ではない。

クラフトマンシップの粋を集めたといえるインテリアだが、けっして成金趣味ではない。

約60年間で3万5898基が生産されたというV8のOHVエンジンは、6 4/3(6.75ではなく、6と4分の3と表記する)Lの排気量となりツインターボも装着して537psと1100Nmを発生する。もちろん、60年前のものとは基本構造は同じでも中身はまったくの別もの。そのサウンドは、まさに「The エンジン」だ。いかにもエンジンが回っていますという存在感のあるサウンドとビートを感じさせてくれる。とはいえ、ノイジーというわけではない。国産の高級サルーンなどと比べても、明らかに静粛性は高い。

街中では、1500rpmも回っていれば十分なトルクを発生してスルスルと走って行く。ツインターボを装着しているのだが、ターボの過給ではなくV8のトルクで加速している印象だ。その気になれば0→100km/h加速は4.9秒、最高速度は305km/hというパフォーマンスを発揮できるのだが、ふだんは右足にはほとんど力を入れなくても十分以上の走りを味わえる。

足回りには可変制御ダンパー付きのエアサスが採用されており、乗り心地は重厚だが走り方次第ではコーナリングなどで意外とロールは大きい。いや、正しくはロールをさせないドライビングを心がけなければいけないのだろう。とはいえ、乗り味は少し古典的だ。

画像: ホワイト/ブラックの本革シートは、意外とサポート性が高いのもベントレーらしいところ。

ホワイト/ブラックの本革シートは、意外とサポート性が高いのもベントレーらしいところ。

ミュルザンヌでもうひとつ紹介しておかなければならないのは、クラフトマンシップの粋と呼べるインテリアだろう。世界最高級のウッドパネルや本革をふんだんに用いて150時間以上もの時間をかけて仕上げられたもの。試乗車ではモノトーンの色使いもエレガントで、豪華さはハンパではないが、けっして成金趣味ではない。

周知のとおり、ベントレーのフラッグシップは間もなく日本でもデリバリーが開始されるフライングスパーが受け持つことになり、ミュルザンヌは(おそらく)世界最長寿のエンジンとともに表舞台を去る。新たなミュルザンヌが登場するときはEVかPHEVか、何らかの電動車になると噂されている。ジャガーもマセラティも次期フラッグシップモデルは電動化が進められているし、それは時代の流れなのかもしれない。

だからこそ、この「古き佳き」エンジンの「走る工芸品」を短時間でも味わえたことは、ひとりのクルマ好きとして貴重な体験だったといえるだろう。(文:篠原政明/写真:井上雅行)

画像: エアサスも備えた乗り味は重厚だが、その気になればスポーティな走りを味わうこともできる。

エアサスも備えた乗り味は重厚だが、その気になればスポーティな走りを味わうこともできる。

ベントレー ミュルザンヌ スピード 主要諸元

●全長×全幅×全高:5575×1925×1530mm
●ホイールベース:3270mm
●重量:2770kg
●エンジン種類:V8 OHVツインターボ
●排気量:6752cc
●最高出力:395kW<537ps>/4000rpm
●最大トルク:1100Nm<112.2kgm>/1750rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●EU混合燃費:6.7km/L
●タイヤサイズ:265/40ZR21
●税込価格:4022万1000円

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