完全コンプリートカーとしての限定販売
MINIの特徴はどこにあるのだろうか。オリジナルのミニから受け継いだ特別なテイスト、ワイドトレッド・低重心・ロングルーフ・ロングホイールベース・ショートオーバーハングという合理的なFFパッケージ、そしてBMWゆずりのシャシ、高剛性ボディといったところだろうか。
それにしても、ここから生み出される魅力はなんとも不思議なものだ。ゴーカートを思わせるシャープなハンドリングは走り屋を魅了し、そのブリティッシュテイストは旧き佳き時代を知るオールドファンを虜にし、カジュアルでオシャレな雰囲気は女性の熱い支持を集め、しかも、その人気は衰えることを知らない。こんなクルマは、そうはない。
そんなMINIにまた1台、魅力的なスーパーモデルが登場した。クーパーS ウイズ・ジョンクーパーワークスGPキットだ。オプションで設定されているジョンクーパーワークス・チューニングキットとは異なり、これは完全コンプリートカーとしての限定販売となる。
その国際試乗会が開催されたのはイタリア・ボローニャ近郊のアドリア・インターナショナル・レースウェイ。サーキットのパドックに並べられたモデルは10数台。どれもサンダーブルーのボディカラー、ピュアシルバーのルーフ、チリレッドのミラーに、専用エアロを身にまとっていた。聞けば、設定はこのカラーのみとのこと。運転席側ルーフに記されたシリアルナンバー、低く身構えたボディ、18インチタイヤがただならぬ雰囲気を出している。
早速、コースインしてみる。トランスミッションは6速マニュアルのみ、エンジンはスーパーチャージャーのブーストアップ、インタークーラーの容量拡大、コンピューターのマップ変更により、218psにまで高められている。この数字はクーパーSよりも48ps、ジョンクーパーワークス・チューニングキットと比べても8psパワーアップしていることになる。そして、これはMINIのワンメイクレース用モデルよりもパワフルであることを示している。
当然、それに合わせてサスペンション、ブレーキはチューニングされ、タイヤは205/40R18という、ちょっとやり過ぎとも思える超大径のランフラットが装着されていた。
しかも、重量増はなによりもフィーリングや性能を悪化させることにつながるので、軽量化は徹底的に行われている。それはリアシートを取り外して2座としていることで本格的なものであることがわかるが、それ以外にも、ボディの内部材をはじめ、各部の素材を軽いものに変更することで、ジョンクーパーワークス・チューニングキットより50kgも軽量化されているという。
パワーウエイトレシオは5.46kg/ps!
その走りは痛快そのものだ。低回転からスムーズにレスポンスよくパワーが立ち上がる。しかも動きが俊敏で、ステアリングがダイレクトで正確だから、走りが爽快。サーキットをいつまでも走っていたくなったほどだ。といって、足はガチガチに硬いわけではなく、意外なほど乗り心地がいい。これまでのMINIにはないフィーリングと感じられた。
わかりやすいシャープさに、大人っぽい湿り気が加わった感じといえばいいだろうか。次期MINIのスタディというのは考えすぎだろうか。
その乗り味は、サーキット走行の後で試した公道走行でも確認することができた。少し荒れたボローニャ近郊のワインディングでも不満のない乗り心地を示してくれたのだ。
実はこのモデルは世界限定2000台で、イギリス、ドイツなどではすでに完売とのこと。「せっかく試乗会に来ていただいたのですが、すでに多くの国で販売終了となってしまいました。もう売るクルマがないのです」という。前代未聞のことだ。
「どうしてもこのクルマを作りたかったです。でも2000台と決めたからにはこれ以上は作りません。今度はMINIの別の魅力をフューチャーしたクルマを制作します」
このモデルは2006年7月11日に日本でも正式発表となったが、販売割当台数はわずか160台、その価格は395万円。ちなみにヨーロッパでの価格は3万900ユーロ(約448万円)。
このモデルの人気はすでに約束されたようなものだが、このクルマの役割はそれだけにはとどまらず、MINI全体の人気にさらに拍車をかけることになりそうだ。(文:松本雅弘 本誌/Motor Magazine 2006年9月号より)
MINIクーパーS・ウイズ・ジョンクーパーワークスGPキット 主要諸元
●全長×全幅×全高:3655×1690×1455mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1190kg
●エンジン:直4SOHC SC
●排気量:1598cc
●最高出力:218ps/7100pm
●最大トルク:250Nm/4600pm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●最高速:240km/h
●0-100km/h加速:6.5秒
※欧州仕様