流麗なフォルムが魅力的だ
アウディeトロンは、ドイツにおける2019年の販売台数で3578台を達成した。絶対数は多くはないものの、ほぼ同時期に発売が始まったメルセデスベンツEQCより存在感は強い。
そんなeトロンに加わったスポーツバックだが、外誌ではSUVクーペと表現されているものの、私は違うと思う。私の考えではスタンダード…これまでSUVと呼ばれていたモデルのボディがワゴンで、このクーペはセダンに当たると思う。
つまり、クーペと名付けてちょっとルーフを低くしてスポーティさを売りにする、他のメーカーのSUVバリエーションとは異なり、A3シリーズのようなハッチバックを持つセダンのような存在だと理解したい。だからあえて「スポーツバック」と名付けたのは正解だ。そのデザインは、ちょっと無骨なeトロンにはない魅力を発散している。
もっとも、サイズはスタンダードボディと同一だ。ルーフの後端がなだらかに後方へ落ち込んでいるだけで、室内空間サイズはこれまでのeトロンと変わらない。つまり後席では大人ふたり、ないし子供三人が快適にドライブを楽しむことができる。またラケッジルームもバックレストを起こした状態でスタンダードeトロンよりも45~70Lの差しかないので、引越しでもしない限り普段の使い勝手では問題ないレベルである。
ブーストモードは元気なスポーツカーレベル
テストした55クワトロのパワートレーンは前後のアクスルにフランジされる2基の電気モーターで、そのシステム出力は360psと最大トルク561Nmである。およそ2.5トンの5ドアハッチバックボディを0→100km/hまで6.6秒で加速させ、200km/hの最高速度(リミッター作動)まで引っ張る。またBEV独特のブーストモードでは、6秒間限定ではあるものの408psと664Nmを発生し、0→100km/hを5.7秒まで短縮する。
搭載されるリチウムイオンバッテリーのエネルギー容量は95kWhで、カタログ上の航続距離はWLTPモードで446kmと記されている。アウディによれば、このスポーツバックはCd値が0.25へと低減されたことや駆動系イナーシャの改善によって、同じスペックのeトロンよりもプラス37kmほど航続距離が伸びているという。また充電時間は150kWまでの直流高速充電を利用すれば、30分で80%の充電が可能である。
インテリア全体の印象は相変わらず高品質で人間工学に基づいたデザインが光る。コンソールのドライブレバーをDにセレクトし、電気モーター特有の加速感と感覚をシンクロしながら、まずはインゴルシュタット市内を抜け、アウトバーンを目指す。
テストしたのはまだ3月の初旬だったので255/50R20サイズのウインタータイヤを履いており、スポーツシャシにもかかわらず乗り心地は素晴らしかった。もちろんコーナーでプッシュすると前輪はたやすくアンダーステア傾向を示すが、明快なステリングインフォメーションのおかげでコントロールは簡単。
やや気になったのは斜め後方の視界だが、現代の進んだADAS、とりわけ後方死角ウォーニングやカメラがあれば問題はない。試乗を終えて、少し離れてこのスポーツバックを斜め後ろから振り返って見たが、改めてエステティックでスポーティなデザインに後髪を惹かれる思いがした。
しかも実用性を失っていない。eトロンスポーツバックのドイツでの価格はベース仕様で7万1350ユーロ(約835万円)、6万9900ユーロ(約818万円)のスタンダードボディよりも1450ユーロ(約17万円)高い(いずれもの付加価値税込み)。
このスタイルなら、日本でも人気を博すことは間違いないと思う。ただし、現時点での正式な発売時期や価格は、残念ながらまだ決まっていない。(文:木村好宏)
■アウディ eトロン スポーツバック 55クワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高=4901×1935×1652mm
●ホイールベース=2928mm
●車両重量=2490kg
●モーター最高出力=360ps
●モーター最大トルク=561Nm
●駆動方式=4WD