取り払われた後席に真っ赤な補強バーを装備
バイエルン州旗のようにブルーに晴れ渡ったミュンヘン郊外に連れ出したMINI JCW GPは2014年に発表されたF56、すなわち3ドアをベースにしている。そのたたずまいは、一見してただものではないオーラを放つ。
もっとも目につくのは、ルーフ後端にある2分割2階建て2トーンのスポイラーだ。一体化されたフロントエプロンのリップスポイラーとコーディネートされ、理想的なダウンフォースを得るように計算されている。ブラック塗装のハニカムグリルに入る真っ赤なラインとGPのロゴも印象的だ。
そしてリアではユニオンジャックデザインのLEDテールライト、さらに8J×18インチホイールと225/35R18サイズの大径タイヤを収納するためのカーボン製ホイールアーチカバーが、視覚的に路面安定性を訴えている。
驚きはキャビンに入ってもやまない。ドアを開けると、後席が取り払われた空間に、まるでリアコンパートメントへの侵入を禁止しているような真っ赤な補強バーが左右に渡されている。サポート能力に優れた形状を持ったスポーツシートに腰を降ろせば、前方にはBMWの最新操作システムのオペレーション7、すなわちフルデジタルコクピットが目に入る。
ドライビングポジションは、バスのようなポジションのクラシックミニから大きく変わっているが、これはBMWがMINIを新たに開発したときの最重要項目であったと、開発トップのゲッシェル教授が語っていたのを思い出す。そのおかげで、ゴーカートフィーリングを正しいポジションで楽しめるようになったわけだ。
すべてドライバーの手足に直結しているかのようだ
さて、昔話はこれくらいにして、パワーユニットをチェックしよう。フロントに横置きされるエンジンは、2L直4ターボで最高出力306ps、最大トルク450Nmを発生する。数値からおわかりのように、これはBMW M135iに搭載されているツインパワーターボを装備したユニットと同じである。組み合わされるトランスミッションも8速ATである。
とはいっても、MINIは他のBMWモデルとは明らかに一線を画したものだ。パワーユニットとボディ、タイヤ、ハンドルなどのすべてが直接ドライバーの手足と直結しているような感覚で、右足の数mmの動きでエンジンが反応、すぐさまスピードメーターの数字に反映される。
0→100km/h加速が5.2秒、最高速度は堂々の265km/hと記されているが実際に200km/hはアッという間で、それが飾りではないことがわかる。
全長3849mm、全高1420mm、そしてホイールベース2500mmのコンパクトなボディにもかかわらず、高速域での安定性は秀逸。さらに大型360mm径のベンチレーテッドディスクを採用したフロントブレーキも、常に安定した制動力を発揮していた。
このMINI JCW GPをもっとも楽しめるのは、やはりワインディングロードにおいてだ。標準型JCWよりさらに10mmローダウンされたスポーツシャシと軽くてシャープな操舵系、そして機械式LSDの組み合わせはコーナリングが待ち遠しいほどのスポーツハンドリングを見せてくれる。
このワインディングロードでのドライビングセッションでは、ニュルブルクリンクのオールドコースを7分56秒69でラップ(プロトタイプでの計測)した実力の片鱗を見たような気がした。結論としては、派手な装いをしているが1日500kmを走行してもまったく問題ない快適性も併せ持っていることが実感できた。
もし課題があるのだとしたら4万5000ユーロ(約525万円)という価格と、限られた販売台数である。全世界で3000台、そして日本への割当台数がわずか240台では、果たして今からオーダーしても間に合うかどうかだ。興味のある方は、すぐにMINIディーラーへ行ってみることをお勧めしたい。(文:木村好宏)
■MINIジョンクーパーワークスGP主要諸元
●全長×全幅×全高=3879×1762×1420mm
●ホイールベース=2495mm
●車両重量=1255kg
●エンジン= 直4 DOHCターボ
●総排気量=1998cc
●最高出力=306ps/5000-6250rpm
●最大トルク=450Nm/1750-4500rpm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=8速AT