2005年のパリサロンでボルボの3ドアハッチバッククーぺ「C30」が発表されている。S40をベースに開発されたモデルで、スタイリッシュなデザインで新しいライフスタイルを提案していた。このモデルは当時どう評価されたのか。日本上陸を前にスペイン・マヨルカ島で行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年3月号より)

全体的な軽快感が心地よい

世界的に見ると、本格SUVとしてデビューしたXC90にトップセールスの座が移り、基幹車種の交代といった大きな動きも出てきているボルボ。同社が、次なる成長株と期待するのがコンパクトクーペである。

2006年のデトロイトショーでコンセプトモデルを提示し、同年秋のパリサロンで生産型がデビューしたC30は、これまで実用車をファミリー層中心に供給していたボルボが若年ユーザーの取り込みに動いた久々のブランニューモデルだ。

シャシは、同じ2640mmのホイールベースが与えられたことからもわかるように、Cセグメント相当のS40/V50(セダン/ワゴン)と同じ小型プラットフォームを使うが、全長×全幅×全高が4252×1782×1447mmと、思い切ったショート、ワイド&ローフォルムとなったボディは、これまでのボルボとはひと味違う軽快な雰囲気だ。

形式としては3ドアハッチバックに分類されるのだろうが、張り出したショルダーラインはそのままに、ルーフラインなどテールエンド全体を軽やかに絞り込んでいる。しかも、リアゲートはウインドウ部分だけが開くガラスハッチ構造を採用。このC30の強力なアイコンとなりそうなリアビューは、過去にあったスポーツワゴン「P1800」や、2000年に発表した安全コンセプトカー「SCC」の流れを汲むものだ。

ハッチバックとなれば、より高い実用性を持つ5ドアの登場が期待されるところだが、ボルボの開発陣はこの問い掛けに対して即座に「ノー」と答えた。つまり、クーペ&カブリオレを示すCラインの末弟にあたるC30は、あくまでもスタイリングを重視したボルボ流解釈のコンパクトクーペなのである。

フェンダーやサイドシルを別色とする「ボディキット」を用意し、それらの組み合わせで好みの1台を作り上げられるあたりにも、そうしたスタイリングに対する強いこだわりが窺い知れる。

室内は2+2の4シーター。センターに寄せて設置されたリアシートはサイズが大きめで、クッションボリュームもしっかり取ってありボルボらしい生真面目さが感じられる。それに、長めのホイールベースを生かしてレッグルームも実用に耐える広さを確保している。とは言え3ドアのため、そこへのアクセスはフロントシートの肩にある電動スライドスイッチ操作と、バックレストの前倒しが不可欠。というわけで後席はあくまでも「添え物」だ。

メインとなるのはやはりフロントシート。乗員を取り囲むインパネ類はS40/V50とほぼ同じ形状だが、白黒モノトーンのシートにシルバーのパネルを用いたフローティングセンタースタック(背面が小物置き場になっている板状のセンターコンソール)から成るインテリアはシンプルな中にも「デザイン」を感じさせる北欧調でなかなか魅力的だ。

また、左右のドアミラーにカメラを設け、死角に入る後方の並走車を灯火式の警報で知らせるBLIS(ブラインドスポットインフォメーションシステム)の採用も、安全にこだわるボルボらしい部分だ。

搭載エンジンは本国では4気筒の1.6Lから豊富に用意されるが、今年後半と言われる日本導入では、おなじみの5気筒エンジン搭載モデルのみが入って来るはず。4気筒モデルには、ATの組み合わせが設定されていないからだ。

画像: リアを切り落としたような、小粋なサイドビュー。5ドアではなく3ドアにこだわり、クーぺデザインとしている。

リアを切り落としたような、小粋なサイドビュー。5ドアではなく3ドアにこだわり、クーぺデザインとしている。

自然なフィールの熟成されたT5エンジン

今回マヨルカ島で試乗できたのは2.5Lターボエンジン搭載のT5。これはC30の中では最もスポーティなグレードで、トランスミッションは5速ATだった。

乗り味はS40/V50と共通の明確な接地感をベースとしながら、よりハンドリングを軽快にした感じ。ただし、いたずらに足まわりを締め上げるようなことはしておらず、乗り心地は当たりがマイルドな上にフラット感もあり快適だ。ステアフィールも、打てば響くような敏感さではなく、切った分だけ自然にノーズが入る。軽さとロー&ワイドのパッケージにより、ライントレース性が上がったことから全体の軽快感が増している、そんな趣きだ。

サスペンションは標準仕様と、そこから20mmのローダウンとなったスポーツサスペンション仕様の2つが用意され、共に17インチタイヤの組み合わせだったが、乗り味のバランスは標準仕様がベストだった。ただし、これだとホイールアーチの隙間がやや大きく、ルックス重視のC30としてはやや迫力に欠ける。

一方のスポーツサスペンション仕様は、ルックスは良いが、乗り心地は硬さが強調される傾向が目立った。今回は試せなかったが、オプション設定の18インチタイヤの方が相性は良いと思われた。日本導入モデルの仕様は現在検討中とのことだが、ユーザー側が選べるようになっているとありがたい。

パワーフィールはすでに他のボルボでもおなじみの5気筒エンジンのもの。刺激が強いタイプではないが、フラットで厚みのあるトルクを発生しており、軽量コンパクトなC30では、けっこう迫力のある加速を味わわせた。それに、音や振動などマナー面の改良も確認できた。この5気筒エンジンはすでに完熟期に入ったと思っていたのだが、ブランニューモデルへの搭載にあたりさらに進化させている点は評価して良い。

組み合わされる5速ATのギアリングも適切で、シフトフィールも滑らか。ただ、C30の性格を考えると、パドルシフトなどボルボがまだ持っていないシステムの導入があっても良かったように思う。

このC30は、クーペ系の需要が限られる日本では爆発的に売れるタイプのクルマではないだろうが、ボルボという堅実なブランドイメージがうまく作用すれば、子育て期の終わったエンプティネスターズからは一定の評価を得る可能性もある。なにしろ、まさにその時期が近い僕自身が「こんなボルボも良いかも」と思ったくらいだから。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年3月号より)

画像: ガラス製テールゲートをもつユニークなリアスタイリングが特徴。

ガラス製テールゲートをもつユニークなリアスタイリングが特徴。

ヒットの法則

ボルボ C30 T5 主要諸元

●全長×全幅×全高:4252×1782×1447mm
●ホイールベース:2640mm
●エンジン:直5DOHCターボ
●排気量:2521cc
●最高出力:220ps/5000rpm
●最大トルク:320Nm/4500-4800rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FF
●0→100km/h加速:7.1秒
●最高速度:235km/h
※欧州仕様

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