日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第24回は、長い空白期間を経て再認識され、国産化された連節バスに迫ろう。(今回の記事の内容は、2019年5月当時のものです)

34年間熱望された国産連節バスを、いすゞと日野が実現

画像: タイトル画像:全長約18m、120人の乗客が乗れる全軸エアサスのノンステップ車体。前車室9mは完全なフラットフロア。後車室8mの後端に日野最強のA09C型パワーユニットを搭載したプッシュ式。

タイトル画像:全長約18m、120人の乗客が乗れる全軸エアサスのノンステップ車体。前車室9mは完全なフラットフロア。後車室8mの後端に日野最強のA09C型パワーユニットを搭載したプッシュ式。

連節バスと聞いて「ボルボね?」と連想するのは、「つくば科学万博 85」か、エアポート・リムジンバスを知る世代だろう。路線バスの1.6倍に相当する約18mの全長と路面電車のような外観の連節バスは、欧州ではごく普通に見られるが、日本でデビューしたのは1985年のつくば科学万博だった。

1970年の大阪万博以来の巨大イベントに、いかに大量の観客を輸送するのか? その決め手として100両ものボルボ B10M連節バスが投入された。万博閉会後、80両のバスは海外に転売され、16両が都心と成田空港を結ぶ高速バスとして使われた。ほぼ高速道路限定で走行を認められることになるが、渋滞時の回避ルートが認められなかったため、長く運用されることはなかった。

画像: 後車室から、連接部を通して前車室を見たもの。円盤状の渡り板がこの種の乗り物の特徴だ。幌は二重構造で機器やホース類はいっさい見えない。連節部は、運行中の立ち止まりは禁止。

後車室から、連接部を通して前車室を見たもの。円盤状の渡り板がこの種の乗り物の特徴だ。幌は二重構造で機器やホース類はいっさい見えない。連節部は、運行中の立ち止まりは禁止。

その後も何度か連節バスの運用は試みられるが、拡散したとは言えない空白の時代が続いた。しかし、平坦で道路環境の良い新興都市から、新たな設備や要員・準備期間を必要とせず、1車両で大量の乗客を運べる連節バスが注目され始める。同時に今世紀に入ると、バス業界は慢性的な乗務員不足が深刻化していた。

連節バスは「永久連結」の観点から、トレーラーのように牽引免許を必要とせず、従来の乗務員育成の延長で運用ができるという大きなメリットもあり、整備された道路環境を持つ新興都市での導入が目立つようになった。他方、ダイムラー・ベンツやネオプランなど欧州メーカーの連節バスは、取り扱いが国産バスのようにはいかず、とくに保守整備の部品調達や整備士養成の面から国産車が待望された。このような要望から登場したのが、ジェイ・バスのハイブリッド(※)連節バスだ。

※ジェイ・バス:いすゞと日野の合弁会社。2004年から本格稼働。いすゞが路線バス、日野が高速/観光バス製造と大別できるが、車体とパワーユニットでも分業化し、相互供給している。

画像: 連節装置は、実績あるドイツのヒューブナー製。牽引式と異なりプッシュ式ならではの大きなリンクとハの字型ダンパーが支え、左右に各54度曲がる。前車室後端と接合する部分は単純な蝶番構造で、上下に7度ずつ曲がる。

連節装置は、実績あるドイツのヒューブナー製。牽引式と異なりプッシュ式ならではの大きなリンクとハの字型ダンパーが支え、左右に各54度曲がる。前車室後端と接合する部分は単純な蝶番構造で、上下に7度ずつ曲がる。

車体はいすゞ エルガ型がベースで、約18mの車体に120人の定員。ノンステップフロア+ニーリング機構のエアサス、幅広ドアを装備する。パワーユニットは日野製で、連節バスは車体総重量24.6トンと従来型バスの約1.8倍もあるため、260ps級から360ps(265kW)級の同社の高速観光バス、セレガの主力エンジンであるA09C+ハイブリッドシステムを搭載。

モーターの出力は90kW。発進時と加速時に作動し、回生時の電力は運転席真上のニッケル水素電池に蓄えられる。日野製の7速AMT/自動変速マニュアル式ミッションとの組み合わせで、走行状況に最適なモーター/エンジン/ギアを選択し、スムーズな走行と省エネ効率を生むシステムになっている。

画像: 全長1799cm。連節器中心で分割した場合、前車室:977.5cm、乗員67名(16+50+1)。後車室:821.5cm、乗員53名(20+33+0)。乗員は座席+立席+乗務員となる。運転室の真上にハイブリッド用バッテリーを積む。

全長1799cm。連節器中心で分割した場合、前車室:977.5cm、乗員67名(16+50+1)。後車室:821.5cm、乗員53名(20+33+0)。乗員は座席+立席+乗務員となる。運転室の真上にハイブリッド用バッテリーを積む。

連節部は実績を重視し、ドイツのヒューブナー社の連結器+幌を採用している。牽引式ではなく、後車部の駆動輪でプッシュ走行させるため連結器は大きく、またいかにも強力そうなオイルダンパーが蛇行を防いでいる。無論、電車よりも急な斜面や凹凸路を乗り越えるため、左右各54度だけでなく、上下にも各7度折れ曲がる構造となっている。

最新の国産バスだけに、2020 東京オリンピック & パラリンピックも視野に入れた先端技術も導入している。車体周囲を把握しやすいようカメラ & モニターによる視覚支援や、バス停前に誘導線を設けることで、専用プラットフォームなら中央扉を45mmまで寄せて停車できる「正着制御」。協調型車間距離維持支援や衝突防止警報などのシステムも装備し、乗務員の負担低減を図っている。

画像: バス停となる歩道やプラットホームに、車体をわずか45mmまで寄せる「正着制御」を搭載する。運転席のカメラを通じて誘導する仕組み。

バス停となる歩道やプラットホームに、車体をわずか45mmまで寄せる「正着制御」を搭載する。運転席のカメラを通じて誘導する仕組み。

また、乗務員や後車室に万一異常が起きた場合、客室のボタン操作で乗客と周囲の交通への危険を最小限に抑えながら、バスを安全に停車させる緊急運転停止システムのEDSSも装備されている。新興都市部で、国産連節バスが往来する日はすぐ近くまで来ているのだ。(文 & Photo CG:MazKen)

画像: 乗務員席直後や後車室には、異常時にバスを安全かつ急速に停車させる「EDSS」を搭載。最新の公共交通らしい安全装備も特徴だ。

乗務員席直後や後車室には、異常時にバスを安全かつ急速に停車させる「EDSS」を搭載。最新の公共交通らしい安全装備も特徴だ。

■ジェイ・バス ハイブリッド連接バス 主要諸元

●全長×全幅×全高:1799×249.5×326cm
●パワーユニット:A09C+ハイブリッドシステム
 直列6気筒 SOHC24バルブ
 コモンレール燃料噴射システム
 インタークーラー付ターボ
●排気量:8866cc
●最高出力:265kW/1800rpm
●モーター出力:90kw
●トランスミッション:7速AMT

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