「ハイライン」、「トレンドライン」とモデル名も変更
ゴルフGT TSIに続き、TSIエンジンを搭載する2台のフォルクスワーゲン車が上陸した。
1.4Lの小排気量にスーパーチャージャーとターボチャージャーの2つの過給器を組み合わせ2Lクラスに匹敵するパワーを絞り出し、かつ小排気量化によるエンジン内フリクション低減で燃費にも優れるのがTSIエンジンの利点。それは数値面でも立証されており、前回試したゴルフGT TSIは170ps、240Nmという既存の2L FSIを上回るパワースペックを実現しつつ、同時に14km/Lというゴルフシリーズ最良の10・15モード燃費も達成していた。
今回、このTSIエンジンが新たに搭載されたのはゴルフトゥーラン。3列シートで7人乗りというミニバンの機能を備えるモデルに、パワーと経済性を同時に向上させるエンジンが備わったのは、ある意味ゴルフよりも大きなニュースだ。車重が重く上背も高いため空気抵抗も少なくないミニバンにとって、走りと燃費は常に大きな関心事だからである。
そんなユーザーの想いを心得ていたのか、クロームメッキのワッペングリルも鮮やかなフェイスリフトを受けた新型トゥーランは、すべてのエンジンをTSIに刷新した。従来のトゥーランは2.0FSIを積むGLiと1.6FSIのEの2種だったが、双方を同時にTSIエンジンに換え、それぞれを「ハイライン」「トレンドライン」というネーミングにしてきたのだ。
もちろん、この2つのグレードの差異は装備レベルだけではない。旧GLiの後を継ぐハイラインはすでに試乗済みのゴルフGTと同じ170psのTSIだが、Eの後継となるトレンドラインにはそのマイルド版とも言うべき140ps仕様が搭載される。当然ながらこれは本邦初公開のユニットだ。
新登場の140ps版TSIエンジンは期待以上
そこで、さっそくこのトレンドラインから試乗を開始した。嬉しいことに、このトレンドラインのトランスミッションもデュアルクラッチ式2ペダルのDSG(ただしステアパドルは装備していない)である。高コストで生産数にもまだ制約があると聞くDSGだが、オートマが必須の日本市場でTSIユニットの経済性を際立たせるにはベストの選択と言える。
そして、これだけ凝った内容にもかかわらず、このトレンドラインの価格は従来のトゥーランEより1万円安い275万円。さすがにアルミホイールや革巻きステアリングを省きコストの調整を行っているようだが、登場間もないゴルフGT TSIよりもさらに手頃な「最も安価にDSGを楽しめるモデル」で、コストバリューは非常に高い。となれば、最大の関心事はその走りだ。
トゥーランEも低速トルクの太いFSIエンジンと6速ATの下支えにより期待値以上の走りを得ていたが、高速域の伸びや、7人+荷物といったフルロード状態での動力性能にはやはり物足りない部分もあった。トレンドラインの140ps版TSIはこうした不満を完全に払拭している。特に気持ち良いのが低速域の反応の良さ。アクセルを軽く踏み込んだだけで豊かなトルクが湧き上がりスルスルと速度を乗せる。その軽快さはトゥーランEばかりかGLiをも凌ぐほどだ。
スペックを見ればさもありなん。最大トルクの220NmはEの155Nmを大きく上回るだけでなく、GLiの200Nmより強力なのだ。しかもその最大トルクを1500〜4000rpmの低い回転域でフラットに発生させている。
中速域からの伸びは、低回転域の元気の良さに較べるとマイルドで、ハイラインより500rpm低い6500rpmのレブリミットまでスムーズに吹けはするが、あまりパンチはない。低速域のパワフルさに対し格差は大きく、やや「頭打ち感あり」との印象も受けたものの、それでも絶対的な動力性能はEを軽く上回り、GLiと同等かそれ以上。ミニバンというクルマの性格までも考えれば、これで十分とお墨付きを与えたいほどの走りである。
ただし、TSIエンジンをスムーズに走らせるには若干のコツも必要だ。ターボの過給が得にくい低回転域をエンジン回転で直接コンプレッサーを駆動するスーパーチャージャーに任せてレスポンスの向上を図るTSIだが、子細に観察するとやはり過給ラグはわずかながらある。具体的には静止からのスタート。期待されるトルクが立ちが上がるまで半テンポの遅れがある。おそらく、一度走り出してしまうと止まる機会が少なく、速度域も高い欧州の交通環境では、この極低速域のラグはほとんど気にならないと思う。
一方、日本の道路はストップ&ゴーの連続。TSIにはちょっと厳しい環境だ。特にアクセルをガバっと開くようなドライビングスタイルの人は気をつけた方がいい。ひとみしても思った反応が得られないからとさらにアクセル開度を深くすると、そこで一気に220Nmが押し寄せる。いきなり「ドン」と来るので、前輪の接地状態によってはホイールスピンを誘発する。
もっとも、この強大な低速トルクがTSI搭載モデルの軽やかな走りを成立させているのも事実。問題は極低速域のアクセルに対するパワーの立ち上がりにリニアリティがやや不足している点だが、そこはジワッとしたペダル操作を身に着ければ解決することだし、雪道などのスリッパリーな路面に対してはパワーを絞るW(ウインター)ボタンをフォルクスワーゲンは設けている。
170ps版のハイラインの方が極低速域でスムーズ
続けて170psのハイラインに乗る。こちらはトレンドラインで感じた高速域の頭打ち感もなく、7000rpmのレブリミットまで直線的にフケ上がる。もちろん低速域からのピックアップの良さや、加速中のトルクの充実感も旧GLiとは明確な差が確認できた。しかもハイラインの方は同じDSGでもステアパドル付き。左ダウン/右アップで歯切れ良くシフトを刻める走りはスポーティと呼んでいい。これまで自然吸気エンジンのみだったトゥーランに適度なスパイスが効いた感じで、ハイラインは実に魅力的なニューモデルとなっていた。
フットワークはTSIユニットを搭載した後も大きな変更はなかったようだ。これはトレンド/ハイライン両車に共通するが、トゥーランの足まわりは高速域のスタビリティを重視しているせいでミニバンとしてはややハード。路面の継ぎ目やギャップでは多少コツコツとした突き上げが感じられるものの、それも癇に障るレベルではないし、その硬さは上背の高いボディのわりに姿勢変化が少なく正確なハンドリングを楽しめる点に活かされている。
面白いのは、低回転域のラグが140ps版よりも少なく感じられたことだ。170ps版もスタート時にアクセルを煽り過ぎると低速トルクが強力過ぎると感じられる場面はあるが、140ps版ほど唐突ではない。170psも1500〜4750rpmの間で240Nmを発生する低速トルク重視型だが、最大値に到達するカーブが140ps版よりわずかに緩い。その違いが極低速域のリニアリティの差になっているようだ。
というわけで、パワフルなだけでなく滑らかさの点でもハイラインは優位に立っている。しかしその一方で、従来のGLiに迫る走りがより安価に手に入るようになったトレンドラインも、ベースモデルの魅力を大幅に底上げした点で存在意義は高い。両グレードの価格差は50万円。どちらを選ぶかはかなり微妙な問題となりそうだ。
ちなみに、両グレードのメカニズムはほとんど共通で、エンジンのマネージメントシステムの違いで出力差を出している。トレンドラインはエアコンパーツを控えるといった仕様差もあるものの、基本メカニズムが共通という点を考えると割安感は強まる。
最後に燃費について触れると、10・15モードはトレンドラインが12.6km/L、ハイラインが12.4km/L。これは運転の仕方で吸収されてしまうほどの僅差だ。実際、今回のテストでの実用燃費は双方とも10.7km/Lとまったく同等だった。一方、以前に試した時のゴルフGT TSIは10.5km/L。車重が重く空気抵抗も大きなトゥーランが今回、これを上回ったのは、DSGのシフトアップを早めるなど、より燃費に振ったセッティングとしたからだろう。ミニバンに相応しいキメ細かいチューニングもあって、トゥーランの魅力がさらに高まったのは間違いない。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年5月号より)
ゴルフトゥーラン TSIトレンドライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4420×1795×1660mm
●ホイールベース:2675mm
●車両重量:1600kg
●エンジン:直4DOHCターボ+スーパーチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:140ps/5600rpm
●最大トルク:220Nm/1500-4000rpm
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●車両価格:275万円(2007年)フォルクスワーゲン
ゴルフトゥーラン TSIハイライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4420×1795×1660mm
●ホイールベース:2675mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:直4DOHCターボ+スーパーチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:170ps/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1500-4750rpm
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●駆動方式:FF●車両価格:325万円(2007年)