オープン派とクーペ派の壁を乗り越える試みにチャレンジ
かつてはスポーツカー好きの中でもオープン派とクーペ派にわかれていたように思う。本格的なスポーツドライビングを楽しみたい向きはハンドリングを優先してクーペを選び、「ハンドリングはそこそこでいいからオープンエアの開放感を味わいたい」という向きはコンバーチブルモデルを選ぶ。
オープンとクーペの両方を手に入れられる幸運な人はもちろん例外だが、それ以外の大多数はオープン派とクーペ派に厳然としてわかれ、両者は決して入り交じらなかったような印象がある。
ポルシェは、この壁を乗り越えようとして懸命な努力を続けてきたスポーツカーメーカーである。とりわけ911カブリオレのボディ剛性はあまたあるコンバーチブルの中でも模範的で、十分に信頼に足るハンドリングを実現していた。それでも、クーペに比べれば歴然たる差が残っていた。
私がとくに気になっていたのがハンドルの支持剛性で、足まわりに大入力が加わったとき、先代のタイプ991でもハンドルにかすかな振動が伝わる傾向があった。そしてその微振動を感じるたびに「やっぱりクーペだよなぁ」との思いを新たにしたのである。
では、タイプ992はどうか?今回、カレラ4カブリオレを取材するにあたり、私がもっとも注目したのがこの点だった。先代よりアルミの比率を高めたアルミ&スチール混成ボディのルーフを切り取り、ここにマグネシウム+アルミ製の骨格を持つソフトトップを取り付けたカブリオレの基本構成はタイプ991と大きく変わらない。ルーフは左右1組の油圧シリンダーで駆動。開閉に必要な時間は旧型より1秒短い12秒となった。開閉可能な速度の上限が50km/hであることは先代と同様である。
操舵量に対する反応は極めて正確。いかにも911らしい
カレラ4カブリオレに積まれるエンジンの最高出力はカレラSの450psに対して385ps。2台の違いはシャシにもおよび、カレラ4Sに標準装備のトルクベクタリングプラスがカレラ4には装着できなかったりする。ちなみに、タイヤサイズもカレラ4Sの方が1インチ大きいが、今回はカレラ4Sと同じサイズのものをオプションで装着していた。
一般道を走り始めてまず気づいたのが、カレラに通ずる足まわりの「こわばり」だった。本来の序列でいえば、カレラよりカレラSの方がパフォーマンス志向は強く、その分サスペンションは硬いのが道理である。事実、これまでの911は常にカレラSの方が足まわりはスポーティで硬かったが、タイプ992になってカレラSはボディの動きをしっかり抑え込むのにしなやかさを備えた設定に大変身。
これとは対照的に、カレラはパフォーマンス面でカレラSに近づいた反面、快適性ではカレラSに及ばないという一種の逆転現象が起きた。これには電子制御式ダンパーのロジックなども深くかかわっているはずだ。
私がカレラ4カブリオレで最初に感じたのがこの「こわばり」感だったが、速度を上げるにつれて硬さが薄らいでいき、クーペのカレラよりしなやかで快適に感じるようになった。考えてみれば、カレラ4Sでなくカレラ4に試乗するのは、クーペかカブリオレかにかかわらず、今回が初めて。したがってこれがカレラ4に共通の乗り味なのかもしれない。
ちなみに私が試乗したのはクーペがカレラ4S、カレラS、カレラの3タイプで、カブリオレは今回が初体験。しかも比較試乗ができたのは4SとSのみだから、直接比べてみると微妙に違った印象を抱く可能性もある。チャンスがあれば、この点はぜひ、比較テストで確かめたいと思う。
もっとも、よくよく考えればカレラとカレラ4の差をクーペとカブリオレというボディの違いを超えて感じられるのは本当に凄いことだ。裏を返せば、911のクーペとカブリオレの差は、そこまで近づいているのである。実際のところ、最新のカレラ4カブリオレでワインディングロードを走った印象はいかにも911らしいものだった。ハンドルからは常に豊富な情報が伝わってきて、操舵量に対する反応は極めて正確。
しかもロードホールディングが良好で前後バランスが優れているから、高いスタビリティを維持したままワインディングロードを駆け抜けられる。この優れた安心感とクルマを操る満足度のバランスという点で、911は数あるスポーツカーの中でもトップクラスにあると思う。
ソフトトップを占めた時の美しさと高い遮音性は特筆
話をカレラ4カブリオレに戻せば、4WDの恩恵もあってスタビリティ感は確実にカレラをしのぐ。しかも、クーペのカレラよりもロードホールディング性が良好で、荒れた路面でも進路が乱されることはほとんどなかった。だから、たとえカレラSに手が届かなくても、私にはカレラ4で十分以上である。
もちろん、カブリオレの開放感はタイプ992になっても健在。911のAピラーはスポーツカーにしては立ち気味なこともあってフロントウインドウの上端と額の間隔は十分に広く、頭上の青空を誰にも邪魔されずにひとり占めできる。しかも、サイドウインドウとウインドディフレクターを立てれば高速走行でもキャビンに風を巻き込むことはほとんどない。実は高速道路上で弱い雨に降られたのだが、ドライバーもキャビンもほとんど濡れずに済んだ。
それとともに指摘しておきたいのがルーフを閉めたときのフォルムの美しさ。ソフトトップとは思えないほど幌がピンと張って911のボディとぴったりマッチする。そのまま走っても遮音性は高く、クーペと変わらない快適性が得られることも特筆すべきだ。
ハンドルの微振動が消え去ったいま、ドライビングフィールの点でカブリオレを選ばない理由がまたひとつ減った。これでクーペとカブリオレの違いで残っているのは車重と価格のみ。ちなみに前者は70kg、後者は225万円であることを最後に記しておく。(文:大谷達也)
■ポルシェ911カレラ4カブリオレ主要諸元
●全長×全幅×全高=4519×1852×1297mm
●ホイールベース=2450mm
●車両重量=1580kg
●エンジン= 対6DOHCツインターボ
●総排気量=2961cc
●最高出力=385ps/6500rpm
●最大トルク=450Nm/1950-5000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速DCT
●車両価格(税込)=1729万円