エンジンは従来型の進化版で最高出力245ps
1976年以来、ゴルフのスポーツバージョンとして登場したGTIは、2019年までの世代で230万台以上が世界市場に向けて出荷されたベストセリングスポーツハッチバックだ。
8世代目にあたるニューGTIとベースになったスタンダードゴルフ8との外観上のもっとも目立つ違いは、ハニカム状グリルを持ったちょっと不釣り合いなほどオーバーサイズなエアインテークと、その両脇にある5つのLEDライトだ。
これは本来フォグライトだが、点灯すると強烈な存在感を発する。伝統の赤いアクセントラインは、控えめにグリルとエアインテークを取り囲んでいる。全体の印象は、派手な装いが多い最近のホットハッチと比べると控えめで、ちょっと物足りない。
またインテリアでは、黒を基調に、ドア、ダッシュボードそしてステアリングホイール、そしてシートなどに赤いトリミングがアクセントになっている。このスポーツシートのクッション部分は初代から続く伝統のタータンチェックで仕上がっている。ダッシュボード中央には同じサイズのタッチ式コントロールパネルが用意され、直感的な操作が可能だ。
搭載されるエンジンは旧モデルから踏襲された2L直列4気筒だが、開発コード(EA888 evo4)を見ると進化型で、最高出力は245ps、最大トルクが370Nmとゴルフ7 GTIパフォーマンスと同レベルへ引き上げている。ただし燃料噴射圧を200バールから350バールへ引き上げ、直噴ガソリンエンジン用フィルター(日本向けは装着されていない)を装備するなどして、欧州最新の排出ガス規制値に対応している。トランスミッションは標準で6速MT、オプションで7速DSGが組み合わされる。暫定値によれば0→100km/hは6.3秒、最高速度は250km/hでリミッターが介入する。
派手さはなくとも堅実で確実な進化を実感
一方のシャシだがフロントにマクファーソンストラット、リアはマルチリンクと変更はないが、ドライビングプレジャーの向上とコーナリング性能の改善を目指してさまざまなアップグレードが行われた。まずサブフレームにはこれまでクラブスポーツ専用だったアルミ製が採用され3の軽量化と剛性アップが図られている。
またサスペンションではバネレートがフロントで5%、リアでは15%アップ。オプションのDCC(エレクトロニック シャシ コントロール)は、各ホイールで毎秒200回ものダンピングコントロールを可能にしている。
さらにプログレッシブステアリングシステムも、ソフトウェアの改良で操舵に対する反応が素早くなった。一方でノーマルゴルフにオプション設定されているVマイルドハイブリッドの搭載は、重量増加を避けるために採用は見送られた。
試乗はおよそ200kmほどだったが、最初の段階で気がついたのは、ダイレクトでクイック、しかも終始ソフトで安定したしつけの良いシャシであった。ワインディングロードでは軽くて正確なプログレッシブステアリングのおかげで、ラインは思いどおりだ。ロールも抑えられており、スムーズなコーナリングを楽しめた。
またかなり攻めてもESPの介入はなかなか起こらなかったし、コーナーがタイトになるか、あるいはスピードが上がればXDS(エレクトロニック デファレンシャルロック)の働きでスムーズな脱出が可能になる。
一方、アウトバーン上でのハイスピードクルージングでは、15mmローダウンしたシャシのおかげでクルーズを楽しめた。新しい操作法として左のパドルを長く引っ張っていると、その時に可能な回転数の範囲内でもっとも低いギアを選択し、最高の加速パフォーマンスを得ることができるようになった。
8世代目ニューゴルフGTI試乗で得た印象は、ソフトウェアの進化、つまりコンピュータの演算能力が上がって、すべてのコントロールが素早くスムーズになったことだ。テストでは加速、コーナリング、ブレーキングと先代のGTIとは明らかにワンランク上の存在となっている。
外観や内装、コーナーでの挙動など全体的に派手な変化はないが、時流に合ったトップレベルのパフォーマンスをそつなく提供している。実はこれこそがゴルフGTIの本質で、それが230万人の賛同を得ている要因なのだ。(文:木村好宏)
■ゴルフ8 GTI 主要諸元
●全長×全幅×全高=4287×1789×1478mm
●ホイールベース=2627mm
●車両重量=1463kg
●エンジン=直4 DOHCターボ
●総排気量=1984cc
●最高出力=245ps/5000-6500rpm
●最大トルク=370Nm/1600-4300rpm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=7速DCT