シャープなフォルムに自然吸気5.2L V10エンジンを搭載
2000年からクワトロ(4WD)システムを搭載したR8でル・マンを5度も制覇したアウディは、プレミアムカー量産メーカーとして初めてのミッドシップレイアウトの本格的スーパースポーツカー「R8」の販売を06年から開始した。その人気は高く、14年までにこの種のセグメントでは異例ともいえる2万6000台を超える販売成績を残した。
そして15年にモデルチェンジを受け、パワープラントは4.2LのV8から5.2LのV10へとアップグレードされた。さらに19年秋にフェイスリフトが行われたが、その時に追加発表されたのが、今回試乗したR8スパイダーV10 RWDである。
RWDとはリアホイールドライブ、すなわち後輪駆動仕様だ。同社は年にRWS(リアホイールシリーズ)を、GT4のオンロードバージョンとして999台の限定で販売した経緯があった。しかし、今回は限定ではなく需要が続く限り生産すると説明された。
フェイスリフトで全体的にシャープになった印象のR8スパイダーに搭載されるエンジンは、今となっては珍しい自然吸気の5.2L V10。最高出力は540ps、最大トルクは540Nmを発生する。そして7速DCT(Sトロニック)で、空車重量1695kgとクアトロのスパイダーよりも軽いボディを0→100km/hを3.8秒、最高速は322km/hまで到達させる。
全高、わずか1.2mのスパイダーのスポーツシートにすわると正面には10000rpmまでスケールが刻まれている大径のタコメーターが、そしてコンソールにはアナログスイッチと、グリップの大きなセレクトレバーが待ち構えている。時代の変化は恐ろしいほどで、最新のスーパーカーを見慣れた目には、もはやこうした景色はクラシックの香りがする。
多気筒大排気量モデルはこのR8で最後になる
わずか20秒で開閉可能なソフトトップルーフを開き、走り出して改めて自然吸気V10エンジンのピックアップの鋭さと澄んだサウンド、そしてターボラグもトルクステアもない世界を再発見する。また40対60の重量配分から想像できるようにアクセルペダルを使ってのスペクタクルな姿勢でのコーナリングも可能だ。
感銘したのはSトロニックトランスミッションの洗練度だ。まず変速時にメカニカルノイズはほとんど聞こえない、さらにどんな運転でもハーシュは発生しない。V10のスムーズさもあるだろうが、それ以上に制御技術が優れているためだろう。これならばご婦人のショッピングドライブにも十分使えるだろう。
実はこのR8 RWD登場は、アウディのスポーツカーが転換期を迎えていることを暗示している。2019年5月に開催された株主総会で、ブラム・スコット社長はTTおよびR8に後継モデルは存在しないことを発表した。すでに公約している電動化への道筋でこれまでのような多気筒大排気量ICE(インターナルコンパッションエンジン:内燃機関)を搭載するスポーツカーはもはや時勢から外れており再考が必要であるという意味である。
一方、R8の開発生産を担当するアウディスポーツの責任者、オリバー・ホフマン氏も、22年に登場するR8の後継モデルは電動化されるだろうと語っている。そうなると有終の美を飾るという意味でICE搭載のR8を再びプロモートする必要が出てくるはずだ。
こうした状況下で、フェイスリフトを機にエントリーグレードともいえる後輪駆動モデルを加えて、品揃えを増やしてきたものと考えられる。(文:木村好宏)
■アウディR8スパイダー V10 RWD主要諸元
●全長×全幅×全高=4429×1940×1242mm
●ホイールベース=2650mm
●車両重量=1695kg
●エンジン= V10DOHC
●総排気量=5204cc
●最高出力=540ps/7900rpm
●最大トルク=540Nm/6400rpm
●駆動方式=MR
●トランスミッション=7速DCT