存在感を示す迫力のブリスターフェンダー
今から約20年前に登場したアウディS3は、225psを発生する1.8L直4ターボとクワトロ(4WDシステム)を組み合わせたハイテクプレミアムスポーツコンパクトという新しい分野を開拓。2世代目は2Lで265ps、3世代目は310psと進化してきた。
そして最新の4世代目だが、実は最高出力は310、最大トルクは400Nmと変化はない。しかしスペックを詳細に見ると搭載されているEA888エンジンの燃料ポンプの噴射圧が250バールから350バールへ引き上げられている。後で述べるが、出力特性が改善しているはずである。
ピトーンイエローと名付けられた派手な新色ボディで現れたニューS3は、ボンネットからフロント下部のエッジスポイラーまで一杯に広がったハニカムグリルのシングルフレーム、左右にはエアスプリッターを持ったダミーインテークが口を開けている。その両サイドはオプションのマトリックスLEDヘッドライトで、デジタルデザインのLEDのデイタイムランニングライトが組み込まれている。
サイドに回ると、オプションの235/35R19タイヤ(標準は225/40R18)を収めるブリスターフェンダーがフロントおよびリアに大きく張り出し、ブラック塗装のウインドウフレーム、ドアミラーそしてサイドシルが、全長4351mm、全高1438mmのボディのサイドビューを引き締めている。
一方、リアエンドはハニカムグリルを持ったリアスカートの左右にツインエキゾーストパイプ、そして中央にはもはやスポーツモデル必須のアイコンとなったディフューザーが覗いている。
インテリアはドライバー正面に12.3インチのバーチャルコックピット、ダッシュボードセンターには10.1インチのMMIタッチディスプレイが並び、独自のメニューが用意されている。キャビンは黒を基調に統一され、材質と仕上げはアウディスタンダード、すなわちトップクラスである。
310ps のターボエンジンはパワフルながら穏やかな特性
テストはまずドライブプログラムをコンフォートにセットしてスタートしたが、それにもかかわらずアグレッシブな顔付きにふさわしい、力強い加速を見せる。さらにダイナミックを選択すると、後方から低めで太い、やや金属的な響きを伴ったエキゾーストノートが耳に届いてくる。おそらくスピーカーからの人工サウンドだと思うが、ややわざとらしい。
ゴルフGTIと同じエンジンながらプラス65psのS3は非常にパワフル。しかもターボの特性は穏やかで、トルクバンドも広く走りやすかった。おそらくこれが燃料噴射圧を高くした恩恵だと思う。
7速DCT(Sトロニック)のシフトは荒っぽいスロットルワークでも素早く、ショックやノイズはミニマムだ。しかし、私の好みから言えば、ダイナミックモードではちょっと大人しすぎるような感じだ。ノーマルA3ならばわかるが、S3、それもスポーツドライブではもうちょっと操っている感じが欲しかった。
一方、締め上げられたシャシはしっかりと路面を捉え、頼りがいのあるロードホールディング性を見せる。またカーブではブレーキを介入させた電制トルクベクタリングによって、やや人工的ではあるがクイックなコーナリングが体感できる。これは非常に自然なプログレッシブステアリングシステムが、大いに助けになっている。
アウディS3はちょっと大袈裟なエクステリアを除けば、大人のプレミアムスポーツハッチバックとしての最有力候補だと思った。ゴルフGTIと違って同じクルマに出会う機会も少ないので、ちょっとした優越感も標準装備だ。
このアウディS3スポーツバックは20年の10月からドイツのディーラーに並ぶが、価格は19%の付加価値税込みで約4万6300ユーロ(約575万円)とすでに発表されている。2021年の3月には、日本のアウディショールームにも登場するはずだ。(文:木村好宏/Motor Magazine 2020年11月号より)
■アウディS3 スポーツバック TFSI 主要諸元
●全長×全幅×全高=4351×1816×1438mm
●ホイールベース=2630mm
●車両重量=1500kg
●エンジン= 直4DOHCターボ
●総排気量=1984cc
●最高出力=310ps/5450-6500rpm
●最大トルク=400Nm/2000-5450rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT(Sトロニック)