最新デザイン言語に統一されたエクステリア
「アウディらしさ」が濃密に漂う新型Q7に試乗して、「フォーリングス」の立ち位置について改めて思いを馳せてみたところ、ふたつのことに気付いた。ひとつはアウディが「質の高いデザインとメカニズムを徹底的に追求する自動車メーカー」であること。
そしてもうひとつは「フォルクスワーゲングループにあってラグジュアリーブランドを支える中核的役割」をアウディが担っていること。これらの話題について、Q7のインプレッションを交えながら紹介していこう。
いわゆるビッグマイナーチェンジを受けた新型Q7、まず気が付くのはエクステリアの意匠がQ8などと同じアウディQシリーズの最新デザイン言語で統一された点にある。端正な面持ちだった初期型と比べ、ダイナミックさが強調され、ヘッドライトもやや凝った形状に改められて個性的な表情を得た。この辺は好みの分かれるところかもしれないが、全体的なプロポーションの良さや作り込みのていねいさは、引き続きアウディならではの魅力といえる。
作り込みがいいのはインテリアも同様。タッチパネルディスプレイを中心とする最新アウディに共通のインテリアデザインが新型Q7にも採用されたが、キャビンに使われている素材感や精緻な仕上げは「昔のドイツ車って、こうだったよなあ」と思うほどクオリティ感が高い。
厳しいことを言えば、ブラインドタッチが難しいタッチパネルディスプレイの操作性や、ディスプレイに表示されるデザインなどには、なお改良の余地が残る。本来であれば音声認識がもっと活躍することを想定していたのかもしれないが、現状では残念ながらメルセデスベンツのMBUXほどの認識率ではない。
それでも、徹底したフラッシュサーフェイスデザインやその優れた素材感にはいい意味でドイツ人らしさが表れているし、アウディらしいこだわりが感じられる。個人的には、デザイン面で現在の方向性を保ちつつ、操作性をさらに向上されることを期待したい。一方、走りの面では極めて完成度が高かった。
引き締まった足まわり。この味はアウディの伝統
試乗車のQ7 55 TFSIクワトロSラインにはアダプティブエアサスペンションスポーツが標準装備となるが、その乗り心地はダンピングがよく効いた引き締まったもの。おかげでコンフォートモードでも振動は瞬時に抑え込まれて後を引かない。
素早い振動の収束を好むようになった最近の私はダンピングがいちばん弱いコンフォートモードでは時に物足りなくなる。アウディでいえばオートモードやダイナミックモードを選択する機会が増えたが、そんな私にも新型Q7であればコンフォートモードでダンピングは十分以上だった。
「ゆったりした乗り心地を好む顧客向けにもう一段柔らかめの設定があってもいいのでは?」とも思った。しかし、考えてみればこの試乗車は「Sライン」である。つまり、スポーツ志向の強いオーナーが選ぶ仕様であり、その意味で言えばこの設定が適切なのかもしれない。
もっとも、新型Q7が本当にすごいのは、これだけソリッドな乗り心地なのに、サスペンションやボディのどこにも弱点が見当たらず、タイヤからの入力をしっかりと受け止めて不快な振動を一切発しない点にある。
想像するに、Q7の足まわりに大容量のゴムブッシュは使われていないはず。ハンドリングにあいまいなところがなく、大きな入力が加わっても足まわりに微振動が残らないのは、このためだろう。
一方でサスペンションは剛性が高いパーツで構成。しかも摺動部分の摩擦を極限まで減らすことで滑らかな動きを確保し、タイヤからの衝撃をストレートに伝達する。これを高精度なダンパーを使って受け止めることで、ごまかしのない、節度感に溢れるハンドリングと乗り心地に仕上がったと推察される。
これはとてもコストのかかることだが、節度感と乗り心地を驚くほど高い次元で両立させた足まわりこそアウディの真骨頂だと私は信じる。その意味において、Q7の乗り味はアウディの伝統を正しく受け継いでいるのだ。
走りの良さの秘訣は素性の良いプラットフォーム
ここでもうひとつ大切なのが、Q7に用いられているMLBエボというプラットフォームが、ポルシェ カイエン、ベントレー ベンテイガ、ランボルギーニ ウルスにも使われている点にある。「だからどれも乗り味が同じ」と言うつもりは毛頭ない。
それどころか、4ブランドのフルサイズSUVはそれぞれの世界観がしっかりと表現されていて、「本当に同じプラットフォームから作られているのか?」と不思議に思うほど明確な個性が与えられている。
それができるのも、変なクセを持たない、ただひたすらに高品質なプラットフォームをアウディが作り上げたからではないか? 言い換えれば、3つのラグジュアリーブランドがおのおのの個性を発揮できるのも、アウディの貢献があればこそと考えられるのだ。
Q7のもうひとつの改良点がパワープラントである。なかでも試乗車に搭載された3L V6ターボエンジンは、エンジン本体を新型に置き換えただけでなく、過給器を従来のスーパーチャージャーからターボチャージャーへと刷新。さらに、ここに48Vのマイルドハイブリッドまで組み合わせた最新仕様だ。
ハイブリッドと聞けば直ちに省燃費に寄与すると考えがち。事実、Q7のマイルドハイブリッドも走行100kmあたり最大で0.7Lのガソリンを節約するという。これは7%ほどの省燃費化に相当するが、裏を返せば、その程度の燃費改善効果しか得られないとも言える。
にもかかわらず、昨今のヨーロッパ車メーカーがマイルドハイブリッドの導入に積極的なのは、ヨーロッパの最新エミッション規制に適合させるとドライバビリティが低下する恐れがあるから、という事情がある。
新型Q7にマイルドハイブリッドが装備されたのも同様の事情だろうが、そのおかげでこのエンジン、トルクのつきが良好で、箱根のワインディングロードも軽々と駆け抜けてみせた。こんなときには前述したソリッドな足まわりが威力を発揮し、ほとんどロールすることなくボディを水平に保ったまま、グッと腰を落とし込んだ姿勢でコーナーを駆け抜けていく。これほどワインディングロードで走りを楽しめるフルサイズSUVも滅多にない。
燃費も高速巡航では12km/Lほどと良好だったが、このパワートレーンの唯一の弱点は巡航している状態から急に大きくアクセルペダルを踏み込んでも瞬時には反応せず、1秒ほど経ってから加速態勢に移行する点にある。おそらく巡航時には燃費優先モードに入ってしまうためだろうが、この点は改善の余地があるように思う。
ADASも一歩先に進化してQ7の完成度は競合車以上に
運転支援システムは確実に進化している。従来のアウディはアクティブレーンキーピングの制御がやや雑な印象があったが、新型Q7はこの点でも従来型をしのぎ、より滑らかに車線に追随するようになった。
いろいろと細かい注文をつけたが、基本となるメカニズム、そしてインテリアの質感がかつての高級ドイツ車を髣髴とさせるレベルにあるのは間違いのないところ。とりわけ優れているのが、何度も言うようだが節度感と快適性のバランスで、この点ではメルセデスベンツGLEやボルボXC90などを確実に凌ぐ。
同じ3列シートSUVという意味ではレクサスRX450hLもライバルだが、RXは前述したシャシ性能だけでなく居住スペースの点でもQ7にかなわない。一方、キャデラックXT6にはまだ試乗したことがないので、2台の比較については別の機会に譲りたい。
いずれにしても、新型Q7の完成度は高い。そしてまた、アウディらしさに溢れているという点でも特筆すべきモデルで、その意味では最新のA6に匹敵する傑作だ。「技術による先進(Vorsrprung durch Technik)」というアウディのスローガンは今もなお健在だと言っていいだろう。(文:大谷達也)
■アウディQ7 55 TFSIクワトロSライン 主要諸元
●全長×全幅×全高=5065×1970×1705mm
●ホイールベース=2995mm
●車両重量=2160kg
●エンジン= V6DOHCターボ
●総排気量=2994cc
●最高出力=340ps/5200-6400rpm
●最大トルク=500Nm/1370-4500rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=1020万円