今から20年ほど前、新しい世紀に変わる頃。クルマに対する考え方も変わり始めていた。そんな時代の輸入車ニューモデルのインプレッションを当時の写真と記事で振り返ってみよう。今回は「フィアット ムルティプラ」だ。

フィアット ムルティプラ(2003年)

画像: 全長は4mそこそこだが、ホイールベースは長めで2.7m近い。ボディ部よりグラスエリアのほうがかなり広いのがよく分かる。

全長は4mそこそこだが、ホイールベースは長めで2.7m近い。ボディ部よりグラスエリアのほうがかなり広いのがよく分かる。

イタリアから、ユニークなクルマがやって来た。その名は、フィアット ムルティプラ。ムルティプラ(Multipla)とはイタリア語で「多様な」という意味なのだが、1950〜60年代にフィアットは600ムルティプラというモノフォルムのコンパクトカーを登場させており、イタリアではタクシーとしても使われていた。

今回のムルティプラも、そのコンセプトを現代に甦らせたようなMPV(マルチ パーパス ビークル)だ。まず、そのスタイルが独特だ。2BOXだが、グラスエリアの大きなキャビン部とボディ部には段差があり、ヘッドランプのハイビームはAピラーの付け根のあたりに装着されている。リアコンビランプもユニークなハート型。一度見たら忘れそうにないスタイルだが、好き嫌いはかなり分かれそうだ。

全長は4mそこそこだが、全幅は1.9m近い。だが、それには訳がある。シートは3人掛け×2列で、乗車定員は6名(そういえば、かつてのフィアット 600ムルティプラも小さいクルマだったが2人掛け×3列の6人乗りだった)なのだ。しかも、すべてのシートは独立しており、運転席以外は個々に折りたため、リアシートは取り外せる。MPVらしくラゲッジスペースは広く、6名乗車でも490L、リアシートを全部取り外してしまえば1900Lまで拡大する。

インテリアのデザインもユニークだ。インパネまわりではメーターはセンターダッシュ上に備わり、シフトも、いわゆるインパネシフトを採用している。ドアポケットやダッシュボードの小物入れなど、ちょっとした収納スペースは豊富に設定されている。

画像: 日本仕様は右ハンドルのみの設定。センターメーターやスイッチ類はデザインコンシャスに思えるが操作性は悪くない。

日本仕様は右ハンドルのみの設定。センターメーターやスイッチ類はデザインコンシャスに思えるが操作性は悪くない。

本国にはターボディーゼルなどを搭載したモデルもラインアップされているが、日本仕様のパワートレーンは、フィアット グループの小型車に多く使われている1.6Lの直4 DOHCのみ。トランスミッションも5速MTのみで、ATの設定がない(当然、本国にも設定はない)のが少し残念なところ。

さて、3つ並んだフロントシートのいちばん右に座り、ムルティプラをスタートさせる。全幅はけっこう広いのだが、目線が高くグラスエリアも広くて視界は良いので、端に座っているという感覚は少なく、けっこう運転はしやすい。1.6Lのエンジンは思った以上に快活だから、ラテンのクルマらしくマニュアルシフトを駆使してエンジンをある程度回して走れば、なかなか楽しい。

コンパクトなサイズながらホイールベースは長めなので、乗り心地はフラットで快適だ。おとな3人がキチンと座れるリアシートのほうが、シートのクッションも良くて、より寛げそうだ。

いかにもイタリアらしい?ユニークなMPVのムルティプラの車両価格は、249万円。家族が増えて、普通のセダンやハッチバックでは手狭になり、それでも巷に増えつつあるミニバンには抵抗感がある・・・という輸入車好きには、選択肢のひとつになりそうだ。ただし、この他に類を見ないスタイルを家族も含めて気に入るか、そしてトランスミッションがMTしかないことを受け入れられるか。そこがキモになるかもしれない。

画像: ハート型のリアコンビランプもユニーク。リアゲートはエグられたバンパー直上から大きく開くので荷物は積みおろししやすい。

ハート型のリアコンビランプもユニーク。リアゲートはエグられたバンパー直上から大きく開くので荷物は積みおろししやすい。

■フィアット ムルティプラ ELX 主要諸元

●全長×全幅×全高:4005×1875×1670mm
●ホイールベース:2665mm
●車両重量:1360kg
●エンジン形式:直4・DOHC・横置きFF
●排気量:1596cc
●最高出力:76kW(103ps)/5750rpm
●最大トルク:145Nm(14.8kgm)/4000rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤ:185/65R15
●車両価格(当時):249万円

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