近年、ベントレーは新世代パワーユニットとしてV8ターボを積極的に展開している。しかしトラディショナルな「W12」にはやはり、12気筒でなければ表現しきれない世界があった。圧倒的なラグジュアリー性能と驚異的なパフォーマンス、ともすれば相反する極限を、コンチネンタルGTは涼しい顔で悠々と、操る者に思い知らせてくれたのだった。(Motor Magazine 2020年12月号より)

「仕立て」にこだわり抜き、類まれな歓びを演出する

それとは対照的にベントレーのインテリアは、ドライバーの視覚や触覚をとことん楽しませてくれる。試乗車はブラックのレザーとカーボンファイバーのフェイシアというチョイスだったので妖艶さには欠けていたが、それでも手作りならではの独特の質感を、インテリアのそこかしこから感じることができる。

たとえば、芸術的な曲線を描くシートは見るからに作りが良さそうで、ロンドンの一流テーラーで仕立てたスーツのようにパリッとしていてシワひとつない。しかも、指で触れればまるで肌に吸い付くように心地いい感触が味わえる。見るからに厚みはたっぷり、それなのにこれほどソフトなレザーがどうやって作られるのだろう。想像することさえ難しい。

ヒドゥンディライトという価値観を大切にするところも、ベントレーらしい。たとえばドアを開閉するレバーは指が触れる裏側のみ滑り止めの金属加工が施されている。外側から見てもわからないが、操作して初めて目に見えない部分に手がかかっていることに気づく。だからヒドゥンディライト=隠された喜び。これもまた、いかにもイギリス人的な奥ゆかしい楽しみ方だといえるだろう。

ベントレーといえば以前はイギリスの伝統を正面から表現する姿勢が明確だったが、現行世代のコンチネンタルGTやフライングスパーではその傾向がやや薄れ、イギリス的なものをモダーンに再解釈して表現しているように思う。そんな変化は、同じイギリス生まれのバーバリーにも通ずるものがある。

かつてバーバリーといえば裏地にタータンチェックをあしらったベージュのトレンチコートが定番商品だったが、いまやそんな伝統に縛られることなく多彩なデザインを用意。けれども、なぜかひと目見ただけでバーバリーと気づくのは、彼らの心の奥底にバーバリーの伝統とイギリス人魂が根強く宿っているからだろう。

それに比べればベントレーのほうがはるかに伝統を重んじている。だが、自分たちの来歴を重荷ではなく、イマジネーションの源泉と捉えているように思える点は、バーバリーに代表されるイギリスのハイブランドと共通する姿勢の変化といえるかもしれない。

そんなイギリスらしさを突き詰めていけば、究極的には人に見せびらかすための豪華さではなく、自分が心から満足できる豊かさに行き着くように思える。コンチネンタルGTから降り立ち、テールエンドに控えめに掲げられたベントレーのロゴを目にすれば、そんなほのかな喜びと誇りが込み上げてくるに違いない。(文:大谷達也)

画像: ボンネットフードを開いた瞬間、思わずため息をついてしまいそうなほど美しくレイアウトされたW12ユニットが。雑多な補器類は皆無。

ボンネットフードを開いた瞬間、思わずため息をついてしまいそうなほど美しくレイアウトされたW12ユニットが。雑多な補器類は皆無。

■ベントレー コンチネンタルGT 主要諸元

●全長×全幅×全高=4880×1965×1405mm
●ホイールベース=2850mm
●車両重量=2260kg
●エンジン= W12DOHCツインターボ
●総排気量=5950cc
●最高出力=635ps/6000rpm
●最大トルク=900Nm/1350-4500rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速DCT
●車両価格(税込)=2680万7000円

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