どこかで見たような懐かしさ、マルニと共通する雰囲気
昨年2007年のフランクフルトショーでベールを脱いだ、1シリーズクーペ。僕の第一印象は、ちょっと複雑だった。Cセグメントに存在するライバルと同じ土俵に上がるため、FRというクラス内では特異なパッケージを持ちながら5ドアハッチバック(欧州仕様には3ドアハッチバックもある)としたこれまでの1シリーズは、ロングノーズ&ショートキャビンのユニークな佇まいが大きな持ち味となっていた。
これに比べると、2ドアノッチバックとなった1シリーズクーペはそのプロポーションが実に自然。もっと激しいスポーツ性の演出なども期待していたので、そのケレン味のない佇まいに、逆に肩透かしを感じたのである。
とは言っても、初対面から試乗を終えた現在まで、僕の1シリーズクーペに対する印象は決してネガティブではない。何はともあれ、ノッチバックの落ち着いた雰囲気が良い。その均整の取れたプロポーションのせいか、前後異サイズの18インチタイヤを履き、エアロパーツを纏うMスポーツでも、さほど派手に感じさせないのも好みだ。
それにもうひとつ。1シリーズクーペには、以前どこかで見たような懐かしさを感じさせる部分がある。この既視感は何だろうとここしばらく考えていたのだけど、それがつい先日、愛犬の散歩中に解決した。
春めいた日差しに誘われて迷い込んだ住宅街の片隅に、懐かしいマルニ(BMW2002)を発見した時だった。1シリーズでは初の北米進出モデルとなるクーペが、その昔アメリカ人の心をつかんだ2002をデザイン的なモチーフとしていることはすでに聞いていた。しかし60年代にデビューしたマルニは呆れるほどの直線基調で、グリーンエリアを大きく取るために各ピラーも細く華奢な印象。しかもノーズは、当時のBMWの流儀に倣った逆スラント。1シリーズクーペとは、当然ながらまったく違うテイストだ。にもかかわらず、住宅街で再会したマルニと1シリーズクーペには、共通する雰囲気が強く感じられたのだ。
とくにドアを心持ち短く、リアクオーターパネルの面積を大きく取った2ドアセダン的なプロポーションが軽快感をよりいっそう際立たせている点や、5ドアではリアピラーでフェードアウトしてしまうショルダーラインをトランクリッドまで回し込んでいるあたりは、まぎれもなくマルニのDNAを感じさせる部分だ。