2008年2月、BMW1シリーズの2ドアクーぺモデルが日本に上陸した。5ドアハッチバックとして登場した1シリーズは、後に本国ドイツでは3ドアモデルを追加、2007年のフランクフルトモーターショーでこのクーぺモデルをワールドプレミアしていた。まず日本にやってきたのは高性能バージョンの135iクーぺ Mスポーツ(6速MTと6速AT)。Motor Magazine誌では上陸まもなく試乗テストを行っているのでその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年5月号より)

6速MTで知らされたエンジンの魅力的な側面

今回のモデルは、まず最初に導入された6速MT仕様。オプションでアクティブステアリングを選ぶことも可能となっているが、取材車はロックトゥロックが3回転の標準仕様であった。

インパネの中央寄り、メーターナセル横のスロットにキーユニットを挿し入れ、その上のスタートボタンをプッシュ。トーボードの向こうで3Lパラレルツインターボがわずかな身震いとともに始動する。

同じパワースペックの335iに乗っても感じるのだが、リッター当たり100psを超えるハイチューンユニットであるにもかかわらず、このエンジンの所作は、何というか、あまりにも普通だ。とくに扇情的なエキゾーストノイズを響かせるわけでもないし、トルク特性もどこかにピークがあるようタイプではなく徹頭徹尾フラット。

1000rpmちょっとから最大トルクの400Nmを発生させるあたりは、より少ない気筒数と排気量に高効率の仕事をさせるダウンサイジングターボのトレンドに沿ったものと言える。だからなのか、自然吸気のストレート6エンジンと比較した場合、どこか一本調子でエンジンとの対話感が希薄ということも言える。もちろんアクセルを踏めば呆れるほどにパワフルではあるのだが。

しかし、今回はひとつだけ条件が異なる点がある。それは6速MTと組み合わされているということだ。これまで、日本に導入されてきた335iシリーズはすべて6速ATだった。つまり135iクーペは、パラレルツインターボを6速MTで楽しめる日本で最初のモデルなのである。

しかも、135iクーペは335iセダンに対して車両重量が90kg軽い。これがエンジンとの対話感にどんな変化をもたらすのか、試乗前から強い興味を覚えていた。

車重の軽いことが効いているのだろう、335iでわずかに感じた極低回転域のトルク変動は、この135iクーペではまったく体感できない。アイドリング領域でクラッチをつなぎ、そこから徐々にアクセルペダルへ力を込めていっても、まったくスムーズかつ柔軟に速度を乗せていく。335iがターボであることを忘れさせる味わいだとしたら、135iクーペは過給されていること自体が信じられない、それほど自然なレスポンスだ。

そしてもちろん、抜群に速い。ありあまるトルクが軽いボディをまるで抵抗がないかのような感覚でグイグイと前へ押し出す。高速道路を5速100km/hで巡航しているときのエンジン回転数は2150rpmで、完全に力強いトルクバンドの中にある。つまり日本の高速では6速に放り込んでおけば、ほぼすべて事足りてしまうのだ。

鷹揚な扱いに対しても柔軟で、しかもどこから踏んでも必要以上のトルクを吐き出してくれるので、これまで6速ATで味わってきたこのN54B30Aエンジンには、対話感という点ではどうしても薄いという印象があった。

しかし今回、6速MTとの組み合わせを味わえたことで、そこに若干の変化が感じられた。確かに低~中回転域においては、あまりに従順かつパワフルで、表情の変化を楽しむ余地は少ない。だが中~高回転域、具体的には4000rpmから上で得られる伸び感や精緻な回転フィールは、紛うことなくBMWストレート6の「それ」だ。

パワーのオンオフをダイレクトに味わえる6速MTではその味わいが濃密で、これはもう掛け値なしに心地よい。

画像: 135iクーペ(右)と335iセダン。ともに同じエンジンを搭載するが、それぞれの持ち味は明快に異なっている。その作り分けの巧みさにも驚く。

135iクーペ(右)と335iセダン。ともに同じエンジンを搭載するが、それぞれの持ち味は明快に異なっている。その作り分けの巧みさにも驚く。

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