驚くほどにしなやかで呆れるほどにスムーズ
軽量ボディに大トルクということで、じゃじゃ馬的な動きを見せるのではないかという懸念と期待?もあったが、これも見事に裏切られた。低いギアでフルスロットルの最中に路面の荒れたところを通過すれば、確かに後輪は一瞬のブレを起こすが、その刹那、DSCランプが点滅して、ドライブの楽しみを削ぐことなく、駆動輪の暴れを穏やかに収束させてしまう。
しかしこうした安定感は優れたスタビリティ制御機能だけに頼ったものではない。何よりも、135iクーペ自身が備える足回りの懐の深さ、ここに起因する要素の方が大きいようだ。Mスポーツサスペンションにフロント215/40R18、リア245/35R18のポテンザRE050A(ランフラット)を履いていることから、相応にハードな乗り味を想定してたが、実際に走らせると135iクーペの乗り心地は非常にマイルドだ。少なくとも、3シリーズ以下のMスポーツの中では最も平穏と言って差し支えない。
けれどもそこはMスポーツ、単に甘口なわけではない。しなやかにストロークさせて各タイヤを路面から容易に離さない、そんなセッティングである。したがって、荒れた路面でタイヤが路面を捉えきれなくなるのも、粘りに粘った末の一瞬の出来ごと。端的に言えば、クルマが跳ねないのである。そうしたスタビリティの高さを背景として、DTCモードでワインディングを走り抜ければ、ステアリングとアクセルの駆け引きで姿勢を自由にコントロールできる楽しさも存分に味わえる。
引き換えに失ったものがあるとするなら、それはハードに攻め込んだときのフラット感だろう。操舵した瞬間のゲインは高いが、同時にロール方向のアクションも大きめ。つまり、ピキピキとノーズが反応するタイプではなく、ロールを始めてからヨーが立ち上がるタイプのどっしりとしたコーナリング性能を基本としている。ソリッド一辺倒でなく、ややマイルドなステアフィールも、そんな味わいを強調する一因となっている。
そして、その際のボディの抑え方、とくにリバウンド側の落ち着きぶりは、他の「硬め」のMスポーツよりも緩い。ハードなコーナリングの最後の部分でやや爪先立った挙動を見せるこの部分は、135iクーペで感じた唯一の不満であった。
もっとも、これはクルマのディメンジョンの関係も大きいと思う。
135iクーペのトレッドはフロント1470mm、リア1495mm。5ドアの130i Mスポーツよりは拡幅されているものの、両方1500mmを超える335iと比べれば狭い。もし同じトレッドが許されるなら、つまり3シリーズにこのフットワークのコンセプトが盛り込まれたら、BMWの小型プラットフォームはまた一段上の高みへと到達するのではないか。それくらい、135iクーペのフットワークは乗り心地などの快適性能と運動性能を高次元でバランスさせている。
これは、いままでの1シリーズはもちろん、3シリーズさえをも一部凌駕するほど素晴らしい仕上がりである。で、ここで50歳を目の前に控える僕は、ふと我に帰るのである。
ノッチバッククーペの流麗かつ落ち着いた佇まいと、マルニを彷彿とさせるどこかクラシカルなイメージ。そしてコンフォートを中心にFRスポーツらしさを存分に楽しませるハンドリング。もしやこれは、僕らの世代にフォーカスして作られたBMWのミニマムスポーティカーではないか、と。
惜しむらくは、モデルレンジがまだ135iクーペだけなことだ。性能面でも価格面でも、もう少し手軽に楽しめるモデルが加われば、その魅力はさらに大きく花開くことになると思う。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2008年5月号より)
BMW 135iクーペ Mスポーツ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4370×1750×1410mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1530kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:538万円(2008年)
BMW 335iセダン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量1620kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:673万円(2008年)