2007年のジュネーブオートサロンでデビューしたアルピナB3ビターボ、同じ年のジュネーブオートサロンで「M3コンセプト」として姿を現したBMW M3クーぺ。ともにBMWをベースとしたスペシャルモデルだが、比べるほどに異なることに気づかされる。ここではその試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年5月号より)
アルピナとMモデル、明確な違いのある2つのブランド
多くの自動車雑誌でアルピナとMモデルを比較する記事を掲載するが、本来この2つのブランドは良きライバルではあるものの、競合はしない位置に存在していると言っていい。
ミッキーマウスの顔をBMWとするなら、そこからはみ出すようにある耳の片方がMモデル、もう片方がアルピナというイメージだ。ミッキーマウスの耳もミッキーマウスの一部であるのと同じように、この2メーカーもBMWファミリーの一員なのである。
良きライバルという意味は、どちらも通常のBMWのカタログモデルでは飽き足らない顧客に満足してもらうための存在だからだ。だからBMWのカタログモデルではできないような独創的なクルマ造りが可能になる。
アルピナは毎年800台程度しか生産しない。そのうち日本には150台前後が入ってくる。そのほとんどはオーダーしてから納車まで数カ月から1年待つというエクスクルーシブな購入方法だ。ボディカラー、インテリアカラー、シートカラー、装備類など好みに合わせて注文したものを造ってくれるからだ。
日本におけるアルピナのメリットは、全国のBMW正規代理店で注文と整備ができることだ。小さいながらもアルピナ社という独自のカーメーカーであるが、ここでもBMWファミリーの一員であることがわかる。そのネットワークが購入後の安心感にもつながっているのだ。
アルピナがクルマ造りの哲学としているものは、パワーとトルクの大きなエンジン、取り扱いが容易なこと、卓越したハンドリング、快適性を備えたサスペンションによる良好な長距離ドライブの実現、魅力的でシックなインテリア、クラシカルなデザインのホイールと機能性が豊かな形状のエアロダイナミックパッケージ、細部にわたる最高の品質である。
これは3シリーズ、5シリーズ、6シリーズ、7シリーズというモデルラインアップに、セダン、クーペ、カブリオレ、ツーリング、ロングホイールベースとボディバリエーションが変わっても、そのすべてに共通するものだ。そのために高い技術を持つ、熟練したマイスターレベルの職人が、手工業のような工程でクルマ造りをしている。
日本のアルピナオーナーがドイツのアルピナの工場を訪問するチャンスがあったら、自分のアルピナのシャシナンバーをメモしていくといい。そのクルマに搭載したエンジンを組み立てた職人と面会することができるかもしれないからだ。アルピナのエンジンは一人の職人がすべての組み立て工程を任されている。エンジンを1基ずつイチから組み立て、愛情を込めて完成させていくのだ。