A4アバントはワゴンの優等生、508SWは内外装に色気あり
今、クルマ選びの際の筆頭候補として挙がるのは、やはりクロスオーバーSUVだろう。私が色々なところで言っているのは、もはやSUVの存在はブームの段階を過ぎて、かつてのセダンのようなクルマのベーシックフォームになったということである。言い方を変えれば、クロスオーバーSUV以外を選ぶのには何かしらの理由が必要だということ。ブランド側にとっては、その何かを喚起しなければ、ということでもある。
ではワゴンはどうだろう。かつては輸入車が好きで、その中でもライフスタイル感のあるクルマを選びたいという人にとっては、ワゴンこそが一番のターゲットになっていたはずだ。ではワゴンを選ぶ意味は、今はどこにあるのだろうか?結論から先に言ってしまえば、ここで取り上げる2台のようなワゴンなら、今もまだ乗る理由がある。こちらこそを積極的に選びたくなる魅力が濃厚に備わっているというのが今回の取材を通じての改めての印象なのだ。
その2台がアウディA4アバント、そしてプジョー508SWである。アウディのアバントと言えば、今も美しいワゴンの代名詞。そしてバカンスの国フランスのベストセラーである508SWが揃えば自ずと期待値は高まるが、この2台は同じように魅力的な、そして高い実力をもったワゴンであり、一方で互いにまったく違った個性を主張する存在でもある。試乗車は、A4アバントTDIクワトロSラインと、508SW GTブルーHDi。まずは両車のパッケージングから見ていくことにしよう。
いずれもいわゆる欧州Dセグメントに括られるこの2台。サイズを見るとA4アバントの全長4760×全幅1845×全高1435mmに対して、508SWは全長4790×全幅1860×全高1420mmと、ほんのわずかに508SWの方が長くワイドで、そして低い。端正なA4アバントに対して、もっとエモーショナルな508SWという感じである。実際、508SWはサッシュレスドアの採用など、ワゴンでありながらスペシャリティ的な要素も色濃い。その存在感は、アバントの流儀を今に継承するアウディの今やオーセンティックとも評せる佇まいとは、まったく狙いが異なるように思える。
室内に乗り込むと、A4アバントの運転席まわりは、まず大型化された画面が目に入ってくる。10.1インチのMMIセンタースクリーンはタッチパネル式とされ、ダイヤル式コントローラーは潔く廃止された。ダッシュボードの造形などはシンプルにまとめられてクリーンな雰囲気。Dシェイプではない径の大きなステアリングホイールも個人的には落ち着く。
対する508SWのインテリアは、小径ステアリングホイールと、その上から覗くデジタルメーター、インフォテインメントシステムの下にずらりと並ぶスイッチに変形ガングリップタイプのセレクターレバー等々、隅々までデザインされた空間となっている。ヒップポイントは低めで、囲まれ感は強い。いわゆるコクピット感覚だ。
乗り比べると、わずかとはいえ全幅の広い508SWの方が、やはりゆとりがある。全高は508SWの方が低いのに、握り拳を縦に1個分という頭上空間がほぼ変わらないのは、まさに着座位置が低いからだろう。後席はA4の方が座面長があり、座面がしっかりしている分、頭上はわずかに狭い。508SWは低いルーフに合わせて座面をへこませているのだが、レザーが滑りやすく姿勢が落ち着かないのが玉に瑕だ。
さらに今回の2台はいずれもアウタースライド&サンシェード付きのガラスルーフが付いていたのだが、A4のそれがルーフ内にすっきり収まっているのに対して、508SWは内張りがぼっこり膨らんでいて、後席に座ると眼前にそれが迫ってくる。これは圧迫感を持つ人もいるかも。
同様に荷室も、やはりA4アバントの方が横幅がやや狭いが、奥行きは同等だ。A4アバントはシートバックが40対20対40分割でトノカバーは自動昇降式。ラゲッジネットともども脱着もできる。508SWのシートバックは60対40分割で、トノカバーをタッチすればサッと上に跳ね上がる。ラゲッジネットは、こちらも取り外し式のものが用意される。
こうして見ると、A4アバントは全方位的によくできた、まさに優等生。対する508SWは色々と隙があるし後席の居住性もやや見劣りするが、色気はあるし荷室も大きい。いやはや、これは悩ましいところだ。